表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/68

第3話 会いに来ました、プー爺さん

 □“始まりの都市”タルランタ


 新しく手に入れたスキルと装備の検証を終えて。


 シンのビルドを練り直すため、シンとメイクはタルランタへと帰還していた。


「尋ねるの初めてだし、緊張するなぁ」


 タルランタ東北東エリア――第2区でシンは緊張した面持ちで呟いた。


「心配いらないっしょ! 優男が紹介してくれたところだし!」


 対するメイクはいつも通り、緊張など感じさせない笑顔を浮かべている。


「目的地はすぐそこのはず。“シュガー武具店”って看板が出てるみたい」


 ビルドの再構築を考えたシンが向かっているのはシュガー武具店だ。

 その名の通り、武器や防具をメインに扱う店である。


 なお、紹介制の店であり一般客は利用できない。

 シンとメイクは優男の紹介で利用できる形だ。


「看板見えたよ! シュガー武具店!」


 メイクの声を聞き、シンも彼女の視線の先を見る。


 タルランタのメインストリートから裏路地に少し入った所。

 そこには『シュガー武具店』と書かれたボロボロの立て看板が立てかけてある。


「ええっと……」


 シンは立て看板の元へ歩き、そのまま店の外観を視界におさめる。


 シュガー武具店は真っ黒な木材が使われた平屋めいた店だった。

 木材は所々剥がれ、ささくれている。


 シンから見える位置には窓もなく、人の気配もない。

 包み隠さずに言えば、廃屋のようだとシンは思った。


「何ぼーっとしてるん?」


 メイクはと言えば、シュガー武具店の外観を特に気にしておらず。


「ほら、いこいこ!」


 シンの腕を引いて、メイクはシュガー武具店の扉を開けた。

 そうして一歩、2人は扉の内側へ入る。


 瞬間、ボッという音と共に、天井から吊るされたランプに炎が灯された。

 マジック・アイテムというやつだろう。

 来客に伴って自動的にランプに炎がつくように細工がされているのだ。


 窓がなく暗闇に包まれていた店内がランプの明かりに照らされる。

 そこでシンとメイクは壁やラックに飾られた数多の武具を目にした。


「うわぁ……!」

「すご……!」


 2人が感嘆の声をあげると、店の奥から声がかかった。


「いらっしゃい。初めてのお客さんかね?」


 そう声をかけてくれたのは、ずんぐりとしたお爺さんだった。

 ブイモンに『ドワーフ』という種族がいたならば、シンとメイクはお爺さんをドワーフだと思ったに違いない。


 白髪と白髭が繋がったお爺さんは口角を上げて、よっこらせ、と椅子を2つ運んでくる。


「ほれ、座るといい」


 お爺さんの立ち居振る舞いからは、穏やかさと温かさが伝わってくるようだった。

 シンとメイクも自然と心を開いてしまう。


 促されるまま座り、遅ればせながらシンとメイクは挨拶をする。


「初めまして。俺はシンと言います。優男さ……優男脳筋さんの紹介で来ました」

「ウチはメイク! シンと同じで優男の紹介で来た感じ! よろでーす!」


 2人の挨拶を聞いて、お爺さんは優しそうに笑った。


「なるほど。優男くんの紹介か。来てくれて嬉しいよ、2人とも。

 儂はシュガーランプ。優男くんや友人達はプーじいと呼んでくれるのう。2人とも良ければプー爺と呼んでおくれ」


「分かりました。プー爺さん」

「了解、プー爺!」


 とりあえず自己紹介を終えて、シンとメイクはシュガー武具店に来客した理由を述べる。


「今日ここに足を運んだのはビルドの再構築のためなんです。最近、新しいスキルや装備が手に入りまして」

「ウチも新しい装備とか買って強くなれたらって思って!」


 2人の言葉を聞いて、プー爺はふむふむと頷いた。


「そうかそうか。儂は一般アイテムも幅広く扱っているからの。なんでも頼っておくれ」


「ご親切にありがとうございます」


 シンは優男からシュガー武具店のことを聞いている。


 いわく、武具店を謳いながら一般アイテムまで幅広く取り扱っているのだと。


 そんな便利なシュガー武具店だが、シンとメイクは今まで1度も利用したことがない。

 理由はシュガー武具店で取り扱われている武具が軒並みG3以上だと聞いていたからだ。


 G3武具の購入は最低でも10万ゴールド程かかる。

 これはかなりの大金だ。

 シュガー武具店の性能のいいG3武具ならば、10万ゴールド以上の値が付けられていてもおかしくはない。


 G2装備でもモンスター相手に戦えていたシンとメイクにとって、シュガー武具店の来訪を急ぐ必要はなかったのだ。


 ただ、ここへ来てビルドを大きく見直すことが決まり、前々から優男に紹介されていたシュガー武具店を訪れてみたというわけである。


「まず、素材の売却をお願いしてもいいでしょうか?」


 素材とは、モンスターを討伐した時にモンスターから得られるものである。

 武具やアイテムの作成、食用や建築など幅広く利用される。


 なお、素材はインベントリに自動で収まるようになっている。

 そのため、プレイヤーが素材をいちいち回収する必要はない。


 シンは今までに取得した素材をゴールドに換金する予定なのだ。

 新ビルドを構築する上で、装備やアイテムの購入にゴールドが必要になると踏んで。


「うむ。見せてごらん」


 プー爺は笑みと共に頷いた。


 シンとメイクはインベントリを開き、プー爺に開示する。


 実を言うと、シンとメイクは素材ごとの特徴・使い道・相場などをよく知らない。


 2人が素材を確認するのは、少額のゴールドが必要になった時くらいのものだった。

 具体的にはアイテムを買ったり、武器のメンテナンスをしたい時などだ。


 MMOにおいて素材の相場を知り、活用方法を知っておくことは重要なのだが。

 シンとメイクはモンスター攻略に行き詰った時に、素材に関する知識に向き合おうと思っていたのだ。


 結果、2人はモンスター攻略に行き詰らずに、ここまで来てしまったわけだが……。


「ほうほう……むむ……」


 2人のインベントリを見たプー爺が徐々に困り顔になっていく。


「これは大分溜め込んだのう」


「「え?」」


 シンとメイクが同時に疑問の声をあげる。

 そこでメイクがシンに耳打ちした。


「……シンってさ、インベントリの中に入ってた素材とか確認してた?」


「……いや、あんまり。素材ってモンスターを倒すと自動回収されるし。インベントリに素材が入ってるって言われても実感湧かないんだよね……」


「分かる~。プー爺の反応見る限り、ウチらが持ってる素材って相当な量だったのかも……」


 2人が小声で話し合う間にも、プー爺はインベントリ欄をスワイプして流し見していく。

 そして苦笑しつつ言った。


「この素材を全て売却して、ビルドの再構築の費用に充てるということでいいのかの?」


「はい、そのつもりです」


「相分かった。しかし、素材の量が多くてのう。1~2時間ほど貰いたい」


 素材1つ取っても、質や細かな特徴が違うのだろう。

 査定にも時間がかかるのだ。


「分かりました。その間、俺達はモンスター攻略をしてきてもよろしいですか?」


「もちろん。好きにしたらいい。そうじゃ、フレンド登録をしておこうかの?」


 2人はプー爺とフレンド登録を交わし。

 その後、インベントリから売却予定の素材をプー爺のインベントリに転送した。


 プー爺は都度、インベントリから素材を引き出し、鑑定を行っていくのだろう。


 なお、預けたアイテムがそのまま盗まれることは原則としてない。

 アイテムには所有権があり、所有権を保有するプレイヤーが返却を求めれば、いつでもインベントリに取り戻せる。


 これは装備に関しても同じだ。

 戦闘中に敵の装備を奪っても、所有権は移らない。

 ゆえに、そのまま奪っておくこともできないのだ。


 イレギュラー・スキルの中には、戦闘中に限り相手の装備を奪うといったものもあるかもしれないが。


 そうした背景を知ると、〖廻拓の剣・黒〗が未だシンの手元にあるのも面白い。


 シンに〖廻拓の剣・黒〗を授けた仮面女子は、シンに〖廻拓の剣・黒〗を返却して欲しいと思ってはいないのだ。

 仮面女子が剣を返して欲しいと思っているなら、剣はシンの手元からとっくに無くなっているはずなのだから。


「気を付けて行っておいで。もしデスぺナを受けたら次に復帰した時、この武具店に寄ってくれればいいからの」


「分かりました。プー爺さん」

「了解! 行ってくるね~! プー爺!」


「はいよう。気を付けての」


 そうしてプー爺に見送られながら、シンとメイクはG3エリア“豚巨人の集落”へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ