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第4話 冒険のお供にどうですか?

 □カフェ・スカイ


 タルランタには8つのメインストリートがあり、それらは都市中央――始まりの間に繋がっている。


 8本のメインストリートで区切られた区域も8つあり、カフェ・スカイは東北東に位置する2区にあった。


「美味しい……!」


 優男と楽団に連れられて訪れたカフェ・スカイにて。


 インスタント以外のコーヒーを初めて飲んだシンは、その美味しさに感動していた。

 苦味や酸味に嫌らしさがないと言うべきか――ともかく飲みやすかったのだ。


 ちなみに、優男はカフェ・スカイの制服であるエプロンを付けて、他のお客さんを接客している。

 楽団は店内BGMを演奏するため、ピアノを弾きに行ってしまった。


「――そう言っていただき光栄です」


 シンの呟きを聞いて、嬉しそうに答えたのはカフェ・スカイの店主、空だ。

 本名は空パイセンと言うらしい。

 紺色の髪と瞳をしており、エプロン姿に眼鏡をかけた出で立ちは落ち着いた印象だ。


 空はシンとメイクを労わるように言葉を掛ける。


「それにしても大変でしたね。ブイモンを始めたばかりにも関わらず、指名手配犯に遭遇してしまうとは……」


「そうですね。でも、最初はムガミのことを落ち着いた人だなと思ってたんですけど」


 そう言うとメイクが慌てて口を開いた。


「なんでシンってば、ムガミのこと怖くなかったの!? ウチなんて震え止まらなかったのに!」


 シンとメイクとでムガミに対する印象が異なりすぎている理由は何なのか。


 2人の発言を聞いて、空は顎に手を当てた。

 何やら考えているらしい。


 空のように知的そうな人がそのポーズをすると、様になるなとシンは思った。


「――これは僕の推測なのですが」


 そう呟いてから、空はメイクだけがムガミに怯えていた理由を口にする。


「ムガミは()()()()()()()()()()()()可能性があります。

 ブイモンは威圧感までもをリアルに表現しますから。ムガミほどの強者に威圧されれば恐怖しても無理はありません」


 空の説明ならば、筋は通る。

 強者ゆえの威圧感やオーラといったものをブイモンは高クオリティで表現する。

 モンスターの威圧感に耐えられず、ブイモンを辞めてしまう人もいるくらいだ。


 しかし、そうなると1つ疑問が残る。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


 そこでメイクが空の意見に賛同する。


「ウチも空パイセンの言う通りだと思う。ムガミと会った時、直感だけどシンを連れ去られちゃうと思って怖くなった。

 ムガミの興味はシンに向けられてて、ウチを邪魔者扱いしてた感じ……って言えばいいのかな」


 メイクの言葉を聞いて、シンはムガミとの会話を思い起こした。


「確かに……ムガミは俺が始まりの間で戦ってるのを見て声をかけようと思ったって言ってた」


 ついでに言えば、ムガミはシンの戦いぶりに惹かれたような口ぶりをしていた。


「始まりの間で戦ったんですか!?」


 シンの言葉を受けて、空が驚いた様子を見せる。

 いつも冷静沈着な空にとっては珍しいことだ。


「はい。チュートリアルが終わってから、赤髪の男の子に絡まれて」


「……すごいですね。始まりの間にはエーダブがいますし、戦う人なんていないと思っていました」


 管理AIであるエーダブの前で争っても得はない。

 むしろシンと赤髪少年の戦闘は、普通にチュートリアルを受けていた人にとっては迷惑だったはずだ。

 エーダブに警告されても文句は言えない状況だっただろう。


 ただ実際のところ、エーダブは世界全体を同時に監視・管理している。

 始まりの間で戦おうと、他の場所で戦おうと、エーダブの下す処分に変わりはないが。


 しかし、管理AIのアバターが目の前に存在する空間では問題行動を起こしにくいのも事実だろう。


「まとめますと、ムガミはシンさんに興味を抱いているようですね。なるほど……」


 そう言って、空はしばし考えてから話を切り出す。


「シンさんやメイクさんの身に何かあっても困ります。

 お二人がブイモンに慣れ、ムガミの危険がないと判断できるまで、僕らが2人の冒険にお供するというのはいかがでしょう?」


「え……」


 正直、シンとメイクにとっては願ってもない提案だ。

 事実、優男はムガミを追い払っている。


 優男や空、楽団が冒険を共にしてくれるのなら、ムガミに怯えずに済むのだ。


 しかし、初対面の空たちに迷惑をかけるのは忍びないという気持ちもある。


「ご迷惑じゃ……?」


 シンが聞くと、空は微笑をたたえたまま首を横に振る。


「迷惑じゃありません。そもそもムガミが人前に姿を現すこと自体かなりの異常事態なんです。

 事が大きくなればタルランタの治安に影響し、このカフェも続けていけなくなるでしょう。

 シンさんとメイクさんの安全を守ることが、このカフェを守ることにも繋がると思うんです」


 大分飛躍した話だなとシンは思った。

 シンがムガミに危害を加えられても、カフェ・スカイに影響が出る可能性は低いだろう。


 しかし、空がこのような言い方をしたのは、シンやメイクに負い目を感じさせないためだ。


 『シン達を助けるのは、あくまで空自身の為である』と言えば、シンが空の提案を断りにくくなる。

 そうなれば直接的にシンとメイクを守れると空は考えていた。


 空は優しくも、強かな人なんだろうなとシンは思った。


「……コーヒー美味しかったですし、また飲みに来たいですから。カフェがなくなるのは困りますね。

 それじゃあ、俺からもお願いします。俺達の冒険に少しだけ付き合ってください」


「ウチからもお願いしますっ!」


 メイクも珍しく敬語を使って頭を下げた。


「お二人とも頭なんて下げないでください。お二人の冒険にお供したいと言ったのは僕なんですから」


 と、そのタイミングでシン達のテーブルに3人のプレイヤーが近づいてきた。


「そうと決まれば、まずはG1モンスター攻略と行くかい?」

「冒険久しぶり。ボクも楽しみ」

「しょうがねぇな。手伝ってやるよ」


 優男と楽団が笑顔でテーブルに歩み寄ってきた。

 しかし最後に喋った人だけは、シンとメイクが見たことのない人だった。


 そこで空が新しく輪に入ってきた柄が悪そうな青年に話しかける。


「乞食くん、随分とナチュラルに輪に入ってきましたね。いつの間に店内へ入って来たのですか?」


「今さっき帰ってきてな。あーっと、俺は乞食。よろしくな、黒髪坊主に金髪ギャル」


 どうやら空の仲間らしいと知って、シンとメイクは少し安心した。

 乞食は不良感が強く、ムガミとは別の意味で怖い印象なのだ。


 しかし発言からして、乞食もシン達に協力する気になったということだろう。


「俺はシンです。よろしくお願いします、乞食さん」

「ウチはメイク! 乞食よろ~!」


「俺を乞食って呼ぶんじゃねぇ!」


 (自分で乞食って名乗ったよね……?)


 変な人だなと思いつつ、シンは乞食と握手を交わした。


 そこへ優男が補足を入れる。


「ごめんね。乞食は自分の名前を気に入っていないのさ。『名は体を表す』とでも言うのかな。乞食はギャンブル中毒で万年金欠だから」


「おい、バカ脳筋ッ! 誰のせいで俺がこんな名前になったと思ってやがんだ? ああ!?」


「ここカフェ。乞食うるさい」


「個性の強い人たちですが、どうぞよろしくお願いします。シンさん、メイクさん」


 そうして空はシンとメイクに頭を下げ、優男と乞食は胸ぐらを掴み合い、楽団は気持ちよさそうに大きく伸びをしていた。



 その後、シンとメイクはログインする度に、彼らと行動を共にした。


 優男と3人で冒険する時もあれば、空と冒険する時もあった。

 乞食と賭博都市に行ったり、楽団とタルランタを散策することもあった。


 そしてシンとメイクは4人とすっかり仲良くなったのだった。


 とはいえ、ムガミからの接触もなく安全と判断されてからは、シンとメイクの2人で行動することも多くなった。

 いつまでも4人の力を借りることは、シンとメイクとしても忍びなかったからだ。


 その後、初ログインから約4カ月が経った時にシンとメイクはG2を制覇することとなる。

 その頃の2人は“期待のルーキー”なんて呼ばれ方もしていた。



 ただ、シンには意識しないようにしていても、心のどこかで確信していることがあった。


 ――自分はいつかムガミと再び出会うのだろう、と。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

 間章はこれにて完結です。


 少しでも「面白かった!」と思って頂けましたら、ブクマや評価等を頂けますと幸いです。


 読者様からの応援が、創作を続ける上での何よりのモチベーションとなります。

 何卒よろしくお願いいたします。

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