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第2話 始まりの間はケンカする場所じゃありません!

 □始まりの間


「――ちょっと待てよ。そこのお前」


 チュートリアルを終えて、始まりの間を後にしようとしていたシンとメイク。

 そんな2人を呼び止めたのは、シンよりも若干背の低い少年だった。


 アバターを見る限りでは、シンよりも幼い顔立ちをしている。

 髪も瞳も赤く、苛立ちを隠しもせずに剣先をシンへと向けている。


 どうやら彼を苛立たせたのはメイクではなく、シンらしい。


「えっと、俺何かしたかな?」


 シンが聞けば、少年は一瞬ムッとした顔をした。

 しかし、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。


「カップルでゲームスタートってのが気に食わなくてね。そこでどう? 俺とお前で戦うってのは?」


「なんで戦う必要があるの?」


 シンの質問に少年は分かりやすく溜め息を吐いた。


「お前のことが気に食わないっつってんの。いいから戦えよ」


 無茶苦茶な言い草だが、シンに苛立った様子はない。

 ただ、相手が自分とメイクの関係性を誤解しているのだろうことは分かった。

 それによって気を悪くしているのだろうことも。


 とりあえずシンは少年の誤解を解こうと思った。


 自分とメイクがカップルじゃないことを分かってもらえれば落ち着いてくれるはずだと。

 しかし、シンが言葉を発するよりも早く隣に立つメイクが堂々と言い放った。


「ふ~ん。要するに君はシンに嫉妬してるわけだ~? 

『可愛い彼女とゲームスタートしやがって。嫉妬で狂いそうだぜ。そうだ、聴衆の面前で負かして恥かかせてやろう』って?

 そうやって突っかかってくるのキモイよ?」


 メイクは沸点が低い。

 少年の横暴な態度にイラっと来て、ストレートに煽り返した。


 対して赤髪の少年は舌打ちをして、頬を紅潮させる。

 メイクの言い分が少年の心の柔い部分に刺さったのだろう。


「カップルでゲームスタートしてるのが気に食わないって言ってるだけで、俺がこの男に嫉妬してるって決めつけるわけ? 意味わかんねー!」


「じゃあ、なんで突っかかって来たんだよ。お前こそ意味わかんねーわ」


 間髪入れずに反論された少年の顔は真っ赤に。

 怒りの矛先はシンからメイクへと切り替わり、少年はメイクに剣を向ける。


「こんな女のどこがいいんだよ! 言葉遣いも性格も可愛げねーしっ! どーせ、リアルの顔もクソブス――」


「――ッ!」


 少年が言葉を言い終える前に、シンの身体は反射的に動いていた。


 無駄な動きなく、シンは少年へと肉薄。


 シンにとって剣の扱いは初めて。

 しかし、感覚補助システムの恩恵を受けながら、剣を真一文字に振りぬく。


「なッ!」


 シンの剣は少年の握っていた剣を弾き飛ばした。

 そしてシンは無防備となった少年の喉元へ剣を突き付ける。


「勝負ありってことでいいよね?」


 そう聞くと少年は苛立ちを込めて叫ぶ。


「ざっけんな! 不意打ちにも程があんだろ!」


 喚く少年に、シンは珍しく険しい面持ちを向ける。


「不意打ちを禁止された覚えはない。そもそも彼女は俺の親友だよ。彼女じゃない。

 そして君に親友を悪く言われるいわれもない。これ以上突っかかってくるなら――」


 そう言って、シンは少年の後ろを指差す。

 そこにはチュートリアルをしているエーダブの姿がある。


「君の行為をエーダブに迷惑行為として報告する」


 そう言うと、少年は「ぐッ」と唸った。


 シンは自己評価が低いために自分を悪く言われようと決して怒らない。

 しかし、自分の大切な人が馬鹿にされた場合は話が別だ。


 シンは激しい苛立ちと共に言い放つ。


「これで決着にしてやるって言ってるんだ。分かったら金輪際、俺達に関わらないでくれ」


 相手の返答を待たず、シンはメイクの手を引いて始まりの間を後にする。


 始まりの間の扉を潜る時、背後からシンに向けて苛立ちを含んだ声が届いた。


「上から物言いやがって……! ちっくしょう! 今度会ったら絶対に殺してやるからなッ……!」


「お前には一生無理だよ、バーカ」


「メイク、この期に及んで煽るのやめて……」


 そうしてシンとメイクは“始まりの都市”タルランタへと出たのだった。



 □初心の森


 ゲーム開始時の所持金は10万ゴールドという大金だった。

 これはゲーム開始直後にも関わらず、G2装備を一式揃えられるほどの額だ。


 しかし、シンとメイクはG2装備を買わなかった。

 ブイモンについて分からないことも多く、ゴールドの価値についても曖昧だったからだ。

 ゆえにゴールドは計画的に使うことにした。


 2人はNPC商店で買い物をしてから、G1モンスターが出没するエリア――初心の森へと来ていた。


 2人がタルランタで買ったアイテムの中で特筆すべきものは2つ。


 1つは〖転移の翼〗だ。

 世界に点在する〖輝光結晶〗に移動できる便利アイテムである。


 2人は初心の森にある〖輝光結晶〗をマップで調べて〖転移の翼〗で転移してきたのだ。


 というのも、タルランタの中央部から外縁部までは相当に距離があるからだ。


 シン達がチュートリアルを受けたのはタルランタ中央に位置する始まりの間。

 そこから初心の森へ行くには、タルランタの外縁を超える必要がある。


 2人は初心の森に近いタルランタ内の〖輝光結晶〗の位置をマップで調べて〖転移の翼〗で転移してきたのだ。


 エーダブ曰く、ブイモン世界の広さは半端ではない。


 AGIが上がるまでは〖転移の翼〗で移動するのが必須というわけだ。



 2人が購入した物の中で、もう一つ特筆すべきものがある。


 それは〖G1モンスター攻略本〗だ。


 名前の通りだが、G1モンスター全30種の特徴が載っている。


 モンスターの情報を得ることはモンスター攻略に繋がり、引いては自分の身を守ることに繋がるのだ。


「じゃ、早速G1モンスター攻略といこっか!」


 メイクはワクワクした様子で、杖を胸に抱いている。

 先ほどまでの苛立ちはどこへやら、今はとても楽しそうだ。


 機嫌を直してくれて良かった、とシンもホッとしている。

 ゲームをするなら楽しまなければ損というもの。


「了解。それで最初はどのモンスターを狙う?」


「スライムかな~。HPは14でMPとDEXが0。他のステータスが1。

 スキルは、総HPの1%に当たるHPを毎秒回復する【自動HP回復】と、物理ダメージを25%カットする【物理ダメージ耐性】だったよね!」


「あ、えーっと、そんな感じだったと思う」


 シンはメイクほど記憶力が良くない。

 というよりもメイクの記憶力が良いというべきか。


 〖G1モンスター攻略本〗をサラッと読んだだけだが、メイクはG1モンスター30種全ての特徴を記憶しているのだろう。


「ごめん、ウチってばテンション上がっちゃってさ! さっき〖G1モンスター攻略本〗のスライムのところ見てたから、()()()()覚えてたんだ!」


 メイクはシンに自信や挑戦心といった気持ちを取り戻してほしいと思って、ブイモンを始めた。

 だから、シンが自信を喪失してしまいそうな発言を避けるようにしている。


 例えば、今のように『たまたま覚えていた』と言うことによって、シンが自身の記憶力を卑下してしまわないように。


 それだけでなく、学校での彼女はテストでも手を抜いている。

 シンが取るであろう点数を予測し、シンと似たような点数を取るようにしているのだ。


「それじゃ、最初はスライムを見つけて倒す感じでいいのかな?」


「そだね! スライムは水色のプルプルしたやつだよ! 他の色のスライムはレベルの高いスライムだから注意すること!」


「了解、メイク」


 そうして2人は初心の森を歩き始めた。


 幸いスライムはすぐに見つかった。

 森の中をプルプルと跳ねている。


「スライムみ~っけ」


「えっと……どのタイミングで攻撃すればいいんだろう」


 始まりの間で、シンは赤髪の少年相手に戦闘を行っている。

 しかし、あれはメイクを馬鹿にされたことで無意識に体が動いただけだ。


 そのため、いざモンスターと戦うとなると難しい。


 単なるMMOとは違い、ブイモンはVRMMO。

 身体はコマンド入力ではなく、自分の意思で動かさねばならない。


「えいっ!」


 シンの迷いを断ち切るように、メイクがスライム目掛けて杖を振るう。


 初期装備で杖を選んだ場合は、無属性魔法である【マジック・ボール】を使えるのだ。

 というのもレベル1の段階だとSSPがなく、魔法系スキルを獲得しようがない。


【マジック・ボール】は杖装備のルーキーに対する救済措置というわけだ。



 メイクが放った魔球はスライムに直撃した。

 その後、あっさりとスライムの身体を光の塵へと変じさせる。


 瞬間、2人の脳内に機械音声めいたアナウンスが響いた。



 ――No.1 スライムの討伐を確認しました。


 ――討伐カウントが1に上昇。


 ――ゲームクリアまで残り討伐カウントは99です。



 先ほどメイクとパーティを組んでいたので、シンの討伐カウントも上昇した。


 それにしてもメイクの攻撃には迷いがなかった。

 シンはと言えば、初めてのモンスターを前に戸惑っていたというのに。


「いきなり魔法を当てちゃうなんて凄いね。さすがメイク」


「えへへ。ウチもかっこいいとこ見せたくてさ!」


「ウチ()?」


 メイクの言い方に違和感を覚えたシンがポカンとする。


 発言の意図を理解していないシンを見て、メイクはニッと笑った。


「さっきウチのために戦ってくれたっしょ? あの時のシンめっちゃカッコよかったからさ!」


 メイクから向けられる眩しいほどの笑顔。

 ストレートに告げられたメッセージ。


 瞬間、シンは自問する。


 ――メイクのような可愛い女子に微笑まれながら、こんなことを言われて照れない男子がいるのかと。


 そして自答する。


 ――いや、いるはずがないと。


 せめて照れていることを少しでも誤魔化すため、シンは顔を逸らした。


「大切な人が馬鹿にされたら怒るのは当然だよ。でも、さっきの男の子と戦った時みたいな動きはもうできないかも」


「どうして?」


「あれは無我夢中だったって言うか。とにかく、あんまり自信がないんだ」


 そう言うとメイクは少し言葉に詰まったようだったが、すぐに笑顔になった。


「大丈夫! シンなら絶対強くなれるって! ゆっくり楽しんでこ~!」


「そうだね。まずはG1モンスターたくさん倒してレベル上げていこう」


「賛成! 春休みはブイモンで遊びまくるぞ~!」


 そうして2人はG1モンスター攻略を開始した。

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