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第1話 Let's チュートリアル!

 ――時は4カ月前、2035年3月に遡る。



 志望校に合格した晋と楓はいつも通り、晋の家で遊んでいた。


「ねぇねぇ! 高校受験も終わったしさ~、新しくゲーム始めない?」


 お菓子を食べながら談笑していると、楓がそんなことを言いだした。


 つい最近まで受験期だったため2人ともゲームと距離を取っていたが、ゲーム自体は嫌いではない。


「いいよ、やってみよう」


 楓の提案に晋が異を唱えるはずもなく。


「そう言ってくれると思った~! それでね、やりたいゲームなんだけど、これ!」


 楓はそう言って、紙袋から梱包された箱を2つ取り出した。


「ほい! シンの分!」


 元気よく手渡す楓。

 差し出されたのはゲームをプレイするためのガジェットが入った箱だった。


 そのガジェットに、晋も見覚えがある。


「これF()V()R()ってやつ?」


「そそ!」


 FVR――正式にはF()ulldive into a V()irtual R()eality game。


 VRゲームにフルダイブするためのガジェットだ。


 一昨年――2033年に全感覚没入フルダイブ型VRゲームが世界市場に台頭。

 それに伴って、FVRが普及し始めたのだ。


 FVRではゲームのダウンロードから、フルダイブまで全て行える。


 テレビ番組でも取り上げられ、VRゲームにさほど興味のない晋もFVRについては知っている。


「このフォルム、近未来って感じでかっこいいっしょ? テンション上がるな~!」


 楓は早くも箱を開封し、FVRを眺めている。


 遅ればせながら晋も梱包を開けてFVRを手にする。


(思ったより軽い。それに手触りもいい感じ)


 晋は白を基調とした円環型のガジェットを撫でながら、そんなことを思った。


「確かに。かっこいいね」


 そう答えて、晋はふと楓に尋ねていないことを思い出した。


「楓は何のゲームがしたいの?」


 晋の質問を受けて、楓は迷いなく言い切った。


「ウチがやりたいゲームは――」



 □“始まりの都市”タルランタ中央:始まりの間


 FVRでゲームを購入し、自宅のベッドに横になり、指定の文言を呟いて――


 晋は仮想現実――『VSモンスター100(ブイモン)』の世界にフルダイブしていた。


 (すごい……これがフルダイブか)


 晋にとってフルダイブは初めての経験だ。

 とりあえず辺りを見渡し、状況の把握に努める。


 まず晋のいる場所について。

 晋がいるのは、美しいステンドグラスに囲われた巨大な教会めいた建物だ。


 教会っぽいというだけで、礼拝席などはなく。

 だだっ広い建物内には、数十人のプレイヤーがいるだけだ。


(ここにいる人達は皆チュートリアルを受けるのかな)


 そんなことを思いつつ、晋はふと視線を斜め上に持ち上げた。


 視線の先にはステンドグラス。


(本当に……リアルだな)


 ステンドグラスを通して、陽光が晋の肌に当たる。


 肌は陽光の温かさを感じ、光を直視しようとすればリアルと変わらずに目を細めてしまうような眩しさがある。


 そこで遅ればせながら、晋の心中に形容しがたい感動が込み上げてきた。


「うわぁ……!」


 柄にもなく、感嘆の声を漏らしてしまう。


 荘厳な建物の中で陽光を浴びて、晋はこの世界が現実と変わらないリアルなのだと思わされた。


 リアリティのあるゲームではなく、()()()()()()()()()()()()()なのだと。


「――シン!」


「あ、ゲームの中で会えたね」


 と、そこにやって来たのは楓だった。


 2人で周囲を見渡す。


 何やら話し合っているプレイヤー達の姿もあれば―― 

 初期武器を決めるために、あらゆる武器を試している人もいる。


 一通り見渡して、2人同時に同じことを考えた。


 ――チュートリアルはいつ始まるのだろうかと。


 その疑問を読んでいたかのように、2人に声がかかる。


『ようこそ、ブイモンの世界へ』


 そのメッセージは晋と楓のすぐ後ろから投げかけられた。


「ッッッ」

「ひぃっ!」


 突然、背後から話しかけられたことで2人は身体を震わせた。


 急いで声の方を振り返れば、晋よりも一回りほど身長の低い男子がいる。

 紫紺の髪と瞳、整った顔立ちはいかにもファンタジーらしいアバターだ。


『驚かせちゃいましたか。ごめんなさい』


(いきなり背後から声をかけてきた当たり、確信犯だったよね?)


 晋は男の子と初対面ということもあり、心中でツッコミをするに留めた。


 そして男の子の発言の意味を考える。


 今、男の子は『ようこそ、ブイモンの世界へ』と言った。


 それが意味するところを何となく察してから、晋は質問をする。


「えっと、()()()()って言うのは?」


 晋の質問を受けて、身長150センチほどの可愛い系男子は答える。


『挨拶が遅れましたね。ども、ブイモンの管理AIやらせてもらってます。

 エーダブです。どうぞ、よろしくです』


 ブイモン世界を統括するAI――エーダブはそう自己紹介をした。


 もちろん晋と楓も、男の子の正体を何となく察していた。


 チュートリアルの開始を待っている時に『ようこそ、ブイモンの世界へ』と言われ、振り返ったらエーダブがいたのだ。


 エーダブをチュートリアル担当の人だと思うのが自然だ。


 しかし、そんな2人でも予想外だったことは――


「AI……?」

「きみAIなの!? マジ!?」


 晋と楓の疑問は一致していた。


 男の子――エーダブはどう見てもリアルな人だ。

 語り口調も振る舞いも、表情から醸す雰囲気まで全て。


 無機質で機械的な印象などない。


『マジですよ。僕はAIです。その証拠と言ってはなんですが、この始まりの間を見渡してみてください』


 促されるままに、2人は始まりの間を見渡す。


「「あ!」」


 そこで2人は同時に気づいた。

 始まりの間に、エーダブと全く同じ外見をした人物が何人もいることに。


『気づいたみたいですね。今こうして話しながら、別の人のチュートリアル応対もしてます。

 AIじゃなきゃできない芸当でしょ? まあ、慣れたもんですよ』


 晋も楓も言葉が出てこず、しかしエーダブは話を進めていく。


『先に言っときますね。アバターメイキングが終わるまで、お二人の姿は他プレイヤーには見えてません。現時点でリアバレの心配はないです。

 アバターメイキングが終わったら、お二人の姿は他のプレイヤーからも見えるようになります。

 そこからはプレイヤーネームで呼ぶことを習慣づけていきましょう。目指せ、リアバレ防止』


 リアバレ防止策が取られていることを聞いて、ひとまず晋と楓は安心した。

 何せ、今の2人はリアルの容姿そのままなのだから。


(てっきりチュートリアルは個々人でやるものと思ってたけど、ブイモンは違うっぽいね)


 晋が抱いた感想も最もだろう。


 普通のゲームならばチュートリアルは個々人で行う。

 しかし、ブイモンではチュートリアルを複数人――例えば友人同士で行える。


 となると、『チュートリアル中は他者から自身の姿が見えない』というエーダブの説明に矛盾すると思われるかもしれない。


 しかし、プレイヤー同士の関係性を測ることなど、エーダブにとっては朝飯前。

 ゆえに晋と楓が友人同士であることを察し、一緒にチュートリアルが行えるよう計らったのだ。


 それでなくとも、晋と楓は同じ部屋から、同じタイミングでログインしている。

 エーダブも2人の関係性を把握しやすかった。



 それにチュートリアルを複数人で行うことにはメリットもある。 


 まず、チュートリアルの段階でブイモン世界の盛り上がりを体感できる。


 始まりの間の外は、タルランタの都市が広がりプレイヤーの往来も多い。


 MMO(多人数戦闘ゲー)を謳いながら、チュートリアルが殺風景な部屋で一人切りなど味気ないだろう。



 また、1人でブイモンを遊ぶのが心細い人は、この場で仲間になってくれる人を見つけることもできる。

 そのまま一緒にゲームを始められるという利点もあるのだ。


 悪意を持って近づくプレイヤーがいれば、エーダブが判定・対処できるので安心して仲間探しが行える。



『――まずはプレイヤーネームから決めていきましょうか』


「あ、うん。よろしく」

「よ~し。アバターメイキング楽しむぞ~!」


 そうしてエーダブの指示の元、チュートリアルは開始した。


 まずはプレイヤーネームを決める段だ。


 晋はプレイヤーネームを『シン』にした。

 本名の晋を音読みにしたものであり、普段から楓もそう呼んでくれるからだ。


 楓は『楓』の英訳である『メイプル』と、苗字の『倉木』を足し合わせ『メイク』という名前にした。

 メイクという名は、化粧をして着飾ることが好きな楓らしい名前ともいえる。


『続いて容姿を決めましょう』


 エーダブの指示に従って、2人は容姿を自分好みにカスタマイズしていく。


 シンは身長をリアルよりも4センチ盛って175センチに。

 目の色を金色、黒髪はリアルよりも少し長めに、顔も少し整えた。


 メイクは髪色をそのままに、目の色を緋色に。

 身長はリアルよりも8センチ低くし、160センチにした。

 また、胸の膨らみや太ももの肉付き、背から腰にかけてのラインを女性らしく仕上げた。


 そして無事、2人のアバターメイキングは終わった。


『アバターメイキングはこれで終わりです。もし名前とか容姿を変えたくなったら、専用のアイテムを使えば変更できるので覚えておいてください』


「了解」

「OK!」


『それじゃ、お二方を他プレイヤーの方々からも見えるようにしますよ。リアバレを気にするなら、プレイヤーネームで呼ぶようにしてくださいね』


 そうしてエーダブは設定を変更。


 シンとメイクの姿が他のプレイヤーからも見えるようになった。

 その証拠に何人かのプレイヤーが2人を見ている。


「――カップルでゲームスタートかよ。くぅ、羨ましいぜ……」


 という声も聞こえてくる。

 たしかに傍から見ればカップルに見えなくもない。


(カップルじゃないんだけど……第一、俺なんかじゃメイクに釣り合わないし)


 シンは困りつつも隣のメイクを見た。

 周囲の声にメイクが気を悪くしていたら宥める必要があると思ってのことだ。


 しかし――


「えへへへぇ……」


 メイクはだらしなく口角を上げて笑っていた。


(笑ってる……? なんで?)


 シンにはメイクが笑っている理由が分からなかった。

 しかし、メイクが気を悪くしていないなら良いかと思うことにした。


『お二方ともチュートリアルに集中してください。聞き逃されて何度も説明するの手間なんですからね』


「ああ、ごめん」

「えへへへへ……」


 メイクはエーダブからの忠告を受けても、口元をだらしなく緩めている。


『メイクさん、シンさんが怪訝そうにあなたを見てますよ? すぐにだらしない笑みを止めないと嫌われちゃうかも』


「あばばばばばば! 嘘だよね!? 嫌われないよね!?」


 メイクは涙を浮かべつつ、あたふたしている。

 そんなメイクを可愛いと思いつつ、シンは微笑を浮かべる。


「大丈夫。嫌わないよ」


「きゅん」


 メイクはただそれだけ呟いた。


 なお、周囲からは「チッ!」という盛大な舌打ちがされた。

 イチャつきを見せつけられた男性プレイヤーによるものだ。


 (ゲーム開始早々トラブルが起こらないといいけど……)


 シンはそんなことを思いつつ、その後もエーダブによるチュートリアルを進めていく。


 そうしてシン達はメニュー画面の使い方やステータス・スキルの理解、初期武器の選定を終えた。


 未だレベル1だが、シンは試しにステータス欄を覗いてみる。


 ――――――――――

 PN:シン

 ID:12189698

 討伐カウント:0


 レベル:1(SSP:0)

 HP:7

 MP:0

 STR:1(+20)

 VIT:1(+10)

 DEX:0

 AGI:1(+20)


 スキル:なし


 武器:G1〖冒険者の剣〗STR+10

 上半身:G1〖冒険者のアーマー〗VIT+10

 下半身:G1〖冒険者のアーマー〗AGI+10

 籠手:G1〖冒険者の籠手〗STR+10

 靴:G1〖冒険者のブーツ〗AGI+10

 アクセサリー:なし

 ―――――――――—


 シンが選んだ初期武器は剣だ。

 武具は“冒険者シリーズ”で統一している。


 “冒険者シリーズ”はNPC商店で買うことができる。

 G2以降も存在するシリーズで、一色まとめ買いすると10%オフで購入できるのだ。


 一方、メイクが選んだ武器は杖だ。

 スキルを使ってシンをサポートすることを目指し、MP補正を受けやすい装備にしている。


『――お疲れさまでした。僕としては基本的なことは教え終わった感じです。

 マップの確認とかインベントリの操作とか、メニュー画面から出来ることがたくさんあるので、最初は戸惑うことも多いと思いますけど』


「いや、大丈夫そうだよ。ありがとう、エーダブ」

「ウチも大丈夫そう! サンキュー、エーダブ!」


 2人が揃って感謝を告げると、エーダブは微笑を浮かべた。


『それではブイモンの世界を楽しんでください。あちらから外へ出られます』


 エーダブの指差す先は、外へ繋がる扉。

 扉の先にはプレイヤーの往来や、タルランタの街並みが見える。


 (――あの扉を抜ければ、冒険が始まる)


 シンは柄にもなくワクワクしていた。

 あの扉の向こうに、どんな世界が広がっているのかと。


「行ってくるよ」

「またね~!」


 そうして2人はエーダブの元から離れ、外へ繋がる扉へと歩き出す。


「――ちょっと待てよ。そこのお前」


 2人の元に刺々しい声が浴びせられたのは、その時だった。

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