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エピローグNo.2 コネクションは重要です

 □“始まりの都市”タルランタ:〈ニート〉本部


 タルランタには情報屋ギルド〈ニートですが何か?〉――通称〈ニート〉の本部が存在する。


 本部は巨大な洋館だ。

 その洋館にはブイモン世界のありとあらゆる情報が保管されているのだいう。


 ――そんな〈ニート〉の本部へ、シンとメイクは招かれていた。


 2人は通された一室でソファに座り、〈ニート〉のギルマスである“情報王”ニートデスを待っている。


 シンはやや緊張した様子で、差し出されたコーヒーに口を付けている。


「どうしてこんなことになったのか……」


「いや~、あれだけ活躍したら目をつけられるのも当然っしょ~?」


 インフィニット・バラエティ・スライムとの戦闘を終えて、2人は〖転移の翼〗でタルランタに戻った。


 そしてタルランタに着いたと同時に〈ニート〉のギルメンに声をかけられた次第である。


 〈ニート〉はタルランタ中の〖輝光結晶〗を見張っていたらしく、シンとメイクにすぐさま声をかけたらしい。


「変なことに巻き込まれないといいんだけど……」


 シンからすれば〈ニート〉がどういう思惑で近づいてきたのか分からない。

 とはいえ〈ニート〉の誘いを断るのも気が引けたので、この場にいる。


 〈ニート〉と言えば“三強”と呼ばれるギルド――


 〈フロンティア・クロニクル〉

 〈縛り縛られ、られ〉

 〈人魔混成・開闢かいびゃく団〉


 ――上記の全てと強いコネクションを持っていることでも知られる。


 シンとしては〈ニート〉からの誘いを断って邪険にされるのも嫌だった。


 ともかく危ないことにならないように気をつけて損はない。


 特に〖誓約書〗が絡んできた場合は慎重に行動しなければいけない。


「そんな緊張しなくても大丈夫っしょ!」


 しかし、シンと違ってメイクには全く緊張が見られない。


「その心は?」


「〈ニート〉は情報を武器にブイモンを生き抜いてきたギルドじゃん。

 情報には信頼が付きまとうっしょ? 例えば、顧客を蔑ろにする人が提供する情報は信頼されにくい――言ってること分かるっしょ?」


 問われ、シンも頷いた。


「うん。つまり、数多の強豪ギルドとコネクションを持つ〈ニート〉は、強豪ギルドから信頼されるだけの理由がある」


「そ! ついでに、ルーキーに対しても〈ニート〉の対応は丁寧だと思うよ」


「それまたどうして?」


「だってタルランタにはルーキーを保護する〈ライフ〉がいるから。ルーキーを蔑ろにしたら〈ライフ〉に目をつけられるっしょ?」


 〈ライフ〉――正式名は〈ライフ・ガイダンス〉。


 タルランタをホームタウンとする自警団のようなPKKギルドだ。

 PKKギルドとして名を上げているが、治安維持活動を幅広く行っていることで知られ、特にルーキー保護には力を入れている。


 インフィニット・バラエティ・スライムとの戦闘前。

 シン達が出会った騎士A・Bも〈ライフ〉の団員だった。


 そういえば騎士A・Bがシンの担任とクラスメイトらしいというハプニングもあった。


 今後、彼らと会うことはないだろうと思いつつ、シンはリアバレしないことを祈る。


「たしかに。〈ライフ〉に目をつけられるのは〈ニート〉としても望むところじゃないか」


 〈ライフ〉は“三強”に名を連ねないものの、ブイモン世界で随一の構成人数を誇る。


 オレンジ・プレイヤーやレッド・プレイヤーに脅かされない世界を作りたい人がそれだけ多いということだろう。

 デスぺナが1時間のログイン制限である以上、PKされるダメージは大きいのだ。


「そういうこと~。だから堂々としてればいいよ!」


「うん。了解」


 メイクにそう言われて、シンの緊張は少し軽くなった。



 ――そうして待つこと数分。


 ドアノブを回して部屋に入って来たのは細身の男だった。


 銀髪の合間から見える目には濃いクマ。

 頬は少しこけており、どこか不健康そうな印象だ。


 男の肩辺りに浮かぶ魔導書グリモワールも特徴的だ。


 カジュアルな部屋着を着た男はソファに座ると口を開いた。


「いきなり呼び立てて……すまない……。俺は〈ニート〉のギルマス……ニートデスだ……好きに呼んでくれ……」


 詰まりながらも挨拶をしたニートデスは、シンに向けて右手を差し出す。


 シンは即座にその手を握り返して挨拶を返した。


「初めまして、ニートさん。俺はシン、隣は相方のメイクです」


「ニートよろ~!」


(距離の詰め方凄いな……)


 シンはメイクの距離の詰め方を見て、呆気に取られた。


 メイクはいわゆる陽の性質を持った人だ。

 ゆえに他者と積極的に距離を詰めることができる。


 陰の性質を持つシンには難しい芸当だった。


「君の戦いぶりも……見せてもらっていた……。メイクだったな……ナギの行動を妨げるとは……恐れ入ったよ……」


「い、いや~、それほどでも~! えへへ~!」


 メイクは後ろ頭に手をやりながら、ニマニマと笑っている。


 “情報王”と称されるニートに褒められれば、誰だって嬉しいだろう。


 なお、メイクがナギの足止めをしていたことはシンも先ほど聞いている。


「無論……シンの活躍も……見せてもらった……。戦闘中……急成長を遂げたのは……何らかのスキルのようだな……」


 そう言われてシンは黙す。


 インフィニット・バラエティ・スライムとの戦いを終えた後。

 スキル欄を確認したシンは新たに獲得したスキル――【真の覚醒者】を目にしている。


 オリジナル・スキル【真の覚醒者】の存在をニートに話すべきかと考えて――


「話さなくていい……興味はあるが……」


 シンの考えを読んだのか、ニートはそう告げた。


 シンはとりあえず息を1つ吐いた。

 VRMMOにおいて情報は武器になる。


 特に、スキルは敵と相対する上で重要なカードだ。

 他者に知られていないに越したことはない。


「――それで俺達をここへ呼んだ目的というのは?」


 シンは何か怪しい要件じゃないといいなあ、と考えずにはいられなかった。


 シンの質問にニートは間髪入れずに答える。


「君たちと……コネクションを持っておきたいと……思ってな……」


「コネクション……というと?」


「固く考えなくていい……相互にコミュニケーションを……取れるようにしておきたい……。俺は君たちの力を……買ってる……」


「わかりました。俺の方からもお願いします」


 そこでメイクが「うわお、シンにしては珍しく即決~」と言っている。


 メイクの反応を受けてか、ニートは不思議そうに問う。


「なぜ二つ返事で……承諾を……?」


 対してシンはニートの提案を承諾した理由を述べる。


「理由は2つあります。まず、俺達としても“情報王”と名高いニートさんとコネクションを持てるのは大きなプラスだからです。

 ブイモンはモンスターを100種討伐すればいいというシンプルさを持ちますが、謎も多いですから。情報は武器になる」


 ブイモンにおける謎。


 ――いわく、レッド認定を受けないPKの噂。


 ――いわく、稀に起こるテロを裏で指揮する秘密結社の噂。


 ――未発見のモンスター5種の居場所。



「2つ目の理由は……?」


 促されて、シンはニートの申し出を承諾した2つ目の理由を語る。


「2つ目の理由は……ニートさんが俺とメイクの両方を評価してくれたからです。

 俺とメイクは肩を並べた相方同士――俺かメイクの一方しか評価してくれない人とはコネクションを持てません」


 それを聞いたニートは少しして、愉快そうにクツクツと笑った。

 しかし、不思議とバカにしている感じはない。


「すまない……知り合いと……似てると思ってな……。真っ直ぐというか……頑固と言うか……」


「は、はぁ」


 シンは生返事を返すことしかできなかった。

 ニートの言う『知り合い』とは誰のことなのか。


「それじゃあ早速……フレンド交換をしよう……」


 その後、シン達とニートの間でフレンド交換が完了。

 これでニートとフレンドチャットを通じたコミュニケーションを行うことができる。


 ちなみに、ニートはイレギュラー装備のスキル――通称、イレギュラー・スキルでフレンドチャットを使わずとも思念を飛ばせる。


【テレパシー】という思念伝達スキルだ。


 ニートはシン達と初対面にも関わらず、【テレパシー】の能力詳細を明かした。


 情報屋ギルドの頭目が自らの情報を公開したという事実。

 そこにはニートなりの誠意が含まれている。

 即ち、シンとメイクの2人と良い関係を築いていきたいという想いが。


「――ニートさん、早速で悪いのですが依頼を頼みたいです」


 フレンド登録を完了し、【テレパシー】の説明も受けたところでシンが切り出した。


「構わない……ただし内容によっては……多額のゴールドが……必要になる……」


「分かりました。俺の依頼は()()()です」


「人探し……?」


 ニートが疑問の声をあげると同時に、隣でメイクも首をひねっている。


 しかし、シンにはどうしても会いたい人がいるのだ。


「EBMとの戦闘中、俺にこの剣を貸してくれた女の子がいるんです」


 そう言ってソファに立てかけておいた剣に視線をやる。


 ニートはその剣を見て、少し笑ったようだった。


「その剣を……持ち主に返したい……ということだな……?」


「はい」


「分かった……10万ゴールドで……引き受けよう……構わないか……?」


 10万ゴールドもあればG2装備を一式揃えられる。

 なかなかの出費だ。


 しかし、シンに迷いはない。

 どうしても白い仮面を付けた少女に出会って剣を返し、お礼を伝えたいのだ。

 彼女の助力がなければ、先の戦いで勝利という結末を迎えられなかっただろうから。


「よろしくお願いします!」


 その後、シンはニートに5万ゴールドを支払った。

 残りの5万ゴールドは人探しが成功した時に追加で支払う手筈だ。


 幸い、ニートも【クレアボヤンス】という千里眼スキルで戦場を目撃している。


 シンを助けた仮面の少女にも心当たりがあった。

 ニートはシンへ『探し人はすぐに見つかるだろう』と告げた。


 そう告げられたシンは〈ニート〉の情報網恐るべし、と思うしかなく……。


 その後、ニートと軽く雑談をした2人は〈ニート〉本部を後にしたのだった。



 〈ニート〉本部を後にして――


 シンとメイクはログアウトする前に、最後に寄っておきたい場所に立ち寄った。


 扉を引いて店内に入れば見慣れた木造りのカフェ。


「いらっしゃいませ!」


 2人を迎えたのは爽やかで快活な青年だった。


「こんばんは、優男さん」

「よっす、優男!」


 2人が立ちよったのはカフェ・スカイだ。

 ブイモン時間は夜に突入しているので、店内は暖かな色の照明で照らされている。


「2人ともトロールは無事倒せたかい?」


 優男に聞かれるまで2人はトロールを倒しに行ったことを失念していた。


 インフィニット・バラエティ・スライムとの戦闘が白熱しすぎたこともある。


「トロールは無事倒せましたよ。優男さんや乞食さんのアドバイスのおかげです。それに……少しだけ自信もつきました」


 シンが少し胸を張ると、優男は名前通り、優しい笑みを浮かべた。


「見違えたよ、本当にさ」


 優男の声はいつになく優しく、シンの変化を心から喜んでいることが伝わった。


「……あ、好きな席へどうぞ、2人とも!」


 しかし、すぐに職務を思い出したのか、優男は接客を始めた。


 優男に促されるまま席へ座ると、メイクが早口で何が起こったのかを話し始めた。

 興奮しているようで、頬がほんのりと赤い。


「優男! トロール討伐なんかより凄いことがあったんだって!

 EBM倒したんだよ! シンなんて討伐報酬貰っちゃったんだからね! マジぱないっしょ!」


「本当かい!? G2を制覇したばかりなのにEBMを倒しちゃうなんて凄すぎるよ!」


 その後、シンとメイク、優男で盛り上がり――


 そこに飲み物を持ってきた空も加わり――


 更に店内BGMであるピアノを演奏していた楽団も加わり――


 最後にはギャンブルで大負けし、半泣きで帰ってきた乞食が加わって、場は大盛り上がりを見せたのだった。

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