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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第三章 二人のアイドルとあの軍団と僕
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二人のアイドルとあの軍団と僕①

 真夜中のドールズクローゼットのお披露目ライブからあっという間に三か月が経っていた。その間の僕たちの活動は意外なほど順調だった。


 イベンターさんが出演者募集の告知を出しているライブイベントに応募して、いくつかのステージに出演するうち、SNSのフォロワー数も増えていき、僕たちを目当てに来てくださるお客さんもつくようになった。そのうちに、応募しなくてもイベンターさんや他の運営さんからライブに誘われるようになって、さらにファンは増えていった。


 学校が休みの土曜日、今日も僕たちはとあるアイドルグループ主催の昼間のライブイベントにお呼ばれして出演していた。


 無事にステージを終えた柊木さんと白樺さん――ルルカとミソラは終演後物販に臨む。


『真夜中のドールズクローゼット、物販始めます! よろしくお願いしま~す!』


 いつものように二人のハモった掛け声で特典会が始まった。僕たちのお客さんはマナーの良い人が多いので整然と列を作ってくれる。


 ただ、僕は最近懸念していることがあった。

 さすがにチェキ列が長すぎて困るというほどの人気は真夜ドクにはまだない。でも、僕は列の「偏り」が気になり始めていた。


 僕たちの特典会は、物販でチェキ券やグッズを売った後、二人との囲みチェキ(チェキ券二枚でルルカ・ミソラ・お客様の三人で撮影)を希望する人たちの列をまず作る。囲みの終了後に、個別チェキ(アイドルとお客様のツーショットやアイドル単体のワンショット)を希望する人の列を作る。個別チェキの列はルルカとミソラとを分けずに並んでもらい、都度、どちらと撮りたいかを聞いて撮影していくスタイルをとっていた。


 この時、「ルゥちゃんで!」と言うお客様の割合が、最近多くなってきていた。


 商売っ気のある話をしてしまうと、お客様はこの時にチェキ券をそのアイドルに手渡し、アイドルとのおしゃべりの時間とチェキをゲットする。アイドルはその日に獲得したチェキ券の枚数を運営に報告し、その枚数に応じてお金のバックを得る。


 すなわち、アイドルの得るチェキ券の数は人気と報酬の両方に直結する指標なのだ。


 今日の真夜ドクは少し大きめの会場に呼んで頂いたので、僕は匠汰くんをスタッフとして召喚していた。もちろんアルバイト代を払ってのことだ。チェキを撮影中もグッズやチェキ券を買いたいという人が来ることが増えたので、僕一人での応対に無理が出始めたのが理由。


 人的余裕ができたので、今日の個別チェキは試しにルルカ列とミソラ列をそれぞれ作って対応してみることにした。


 ルルカ列ではファンの方がフレンドリーにルルカと話をしている。


「ルゥちゃーん! 一昨日ぶり~!」

「えっとぉ? キミ誰~? お名前なんだっけぇ?」

「一昨日は覚えててくれてたじゃん。アキオだよ! オレ、最近ずっと来てるんだけど」

「おーおーおーアキオ……アキオ……? アキンドくん!」

「えー? なにそれ? でも、ルゥちゃんがアキンドがいいならそれでいいよ。ルゥちゃん、アキンドって覚えてね!」

「みーたんがねぇ、今日、チョコくれた~」

「へえ。よかったね! おいしかった?」

「ルゥは犬か猫かだったら、犬派だよぉ!」

「え~? オレは猫飼ってるから猫派だな」


 会話が噛み合っているのか否かは疑問だが、二人は楽しそうに盛り上がっていた。ここで匠汰くんがファンの方の肩を叩く。


「そろそろ時間っすよ~」

「じゃあね、ルゥちゃん。またね! アキンドだから覚えてね!」

「なんか、キミの帽子イカすね~! ばいばい!」


 匠汰くんに剥がされたアキオさんは、ツレの人たちに「帽子褒められちゃった。うへへ! あと、今日からオレ、アキンドだから。アカ名も変える!」と宣言している。


(来週あたりにまた違う変な名前で呼ばれそうだけど……。それはそれでいいのかも?)


 一方のミソラ列は、ルルカ列の半分とまではいかないが、六、七割くらいの人数が並んでいた。ミソラはファンの方に対して柔和に微笑む。


「今日は来てくれてありがとう!」

「うん……でも、僕は仕事で土曜しか来れないから申し訳ないんだけど……」

「いいえ。がんばって来てくれるの、本当に嬉しいです。ありがとう。また来てね」

「うん、またね」


 こちらはちゃんと会話が成り立っているし、白樺さんはファンを傷つけないように丁寧に対応している。でも、言い方は厳しいかもしれないけれど、彼女には誠意があってファンに気を使っているからこそ、しゃべる内容が営業トークや無難な挨拶に聞こえてしまう。今日まで何回か並んだお客さんは同じような会話を繰り返していると感じてしまっているかもしれない。


 だからといって、ミソラがルルカを真似たしゃべりをしても、たぶん違和感しかないだろう。

 アイドルは何が魅力となるかはわからない。何がいいのかは模索し続けるしかないのだと思う。


 少し経つと、ミソラ列が途切れてしまった。ルルカ列はまだまだ人が並んでいる。


「お前、今日はみーたん行かないの?」

「いや~、ちょっと今日はこれから別の現場があってさ……じゃあ、またな!」


 お客様同士の会話も普通に聞こえてくる。

 そして、列が途切れたからといって楽屋に帰れるわけではない。ルルカ列に今並んでいる人が後でミソラのチェキを希望する場合もあるし、他のアイドルの物販を巡ってからうちに来るお客さんもいるから。


 白樺さんは誠実な人だ。


 自分の列がなくなっても不貞腐れたような表情をすることはない。ニコニコしながらルルカやお客さんたちを見守っている。


 でも、待ち時間は手持無沙汰で、その笑顔には困惑や気後れの表情が混じっているように僕には見えた。


 こんな時、他のグループの運営さんはどんな風にアイドルをフォローしているのだろうか。あるいは、敢えて何も言わないのか。


(白樺さんは自尊心が強い方だと思うから、フォローされた方が傷つく気もする。でも……うーん……)


 プロデューサーというのは難しい仕事だと僕は改めて思った。

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