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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第二章 新人アイドルと愉快な仲間たちと僕
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新人アイドルと愉快な仲間たちと僕⑬

 薄暗い教室にはジャージ姿のままの柊木さんと白樺さんがいた。席についた柊木さんは号泣こそしていないものの、隣に立つ白樺さんに抱きついて、胸元に顔を埋めながら「ひっくひっく」としゃくり上げている。


「柊木さん」


 僕が声を掛けると、彼女の肩がぴくりと震えた。


「落ち着いたらダンス戻ろうね」

「やだ! ルゥ、もうアイドルやめる!」

「どうして」

「やなんだもん! ズッキー嫌い!」


 駄々っ子みたいに言った柊木さんは、白樺さんにすがり付くようにぎゅっと抱きつく。白樺さんは困ったように柊木さんと僕を見比べつつ、柊木さんのショートボブの黒髪を慰めるように梳いた。


「柊木さんは本当にそれでいいの?」

「うぅ……」


 唸る柊木さんに僕はもう一度言う。


「柊木さん、本当はちゃんとレッスン続けたい気持ちがあるから、泣いても帰宅まではしなかったんじゃない?」


 僕の言葉を聞いた瞬間、柊木さんの体が震え、彼女はゆっくりと僕の方を向いた。黒目がちの瞳が涙に濡れていつも以上にキラキラ輝いていて、少し場違いだけど素直に綺麗だなと僕は思った。


「柊木さんがアイドルになりたい気持ちってそんなものだったの? それだったら僕はやめるの止めないけど」

「う……」


 柊木さんは悔しそうに唇を引き結ぶ。


「それに、白樺さんを置いて自分だけやめちゃうの? 柊木さんがアイドルをするって言うから白樺さんは活動を始めてくれたんだよ。それなのに柊木さんの方がやめちゃうなんて、いくらなんでも酷くないかな?」


 柊木さんはハッとして目を見開き、白樺さんを見つめる。白樺さんは少し困ったように眉を八の字にして笑っていた。


(今の言い方は少しズルかったかな……?)


 でも、もっとズルい言い方、例えば「僕は柊木さんのために媛子姉さんへ借金を申し込んでしまったのに(しかも返済できなければ僕の命にも係わるのに)どうするの?」や「そのお金で衣装制作とか楽曲制作とか色々なプロジェクトが動き始めちゃってるのに今更どうするの?」も追加できるのだけれど、あまりにも悪徳アイドルプロダクション臭が漂うセリフだったので僕は飲み込んだ。


 今までアイドル(あるいは元アイドル)からの「事務所に言われた酷い言葉」のような暴露話について僕は素直に「ヒドイ!」と思って共感してきたが、今では少し事務所側の気持ちもわかってしまう自分が少し情けなかった。


 彼女たちをアイドルとしてプロデュースすると決めたのは僕だし、借金に命を賭けることを了承したのも僕だ。

 成功しようが失敗しようが、僕の責任は僕の責任。


「後悔しないならこのまま帰ってもいいけど……そうじゃないなら、柊木さん、顔を洗っておいでよ。白樺さんと僕は先に花水木先輩のところに戻ってるから、落ち着いたらおいで」


 柊木さんはしばらくぼうっとして考えていたようだけど、こくんと頷いて立ち上がる。それから登下校用のリュックは持たずに教室を出て手洗い場のある方へと廊下を歩いていった。


 僕と白樺さんは顔を見合わせて笑い合った。



「うちがどんなダンスを二人に踊ってほしいかっていうと、見てる奴らに気持ちが伝わる踊りなんだ」


 戻ってきた柊木さんと白樺さんに、花水木先輩はレッスンを再開する前に話をしていた。


「ダンスは身体表現なんだ。決まった動きが出来ればいいってだけじゃない。動きに気持ちが乗ってなきゃ意味がないと、うちは考えてる。そうじゃないと、見てる奴らは引き込まれない。まずは完璧に動きを覚えてそのとおりに動けることは大前提だ。そこから、手と足、体全体に感情のニュアンスを付けていかないといけない」


 花水木先輩の話を、柊木さんと白樺さんは黙って聞いていた。


「それにアンタら、歌いながら踊るんだろ。こんなレッスンで音を上げるようじゃ、スタミナが全然足りない」


 二人は揃って悔しそうに唇を噛む。


「でもな……よく頑張ってるよ、柊木は。もう少しでダンスがすごく良くなると思う」


 そう言って、花水木先輩は柊木さんのショートボブの髪をくしゃくしゃと掻き回した。


「え? うええ……? ズッキー……?」


 目を丸くする柊木さんに続いて、やはり目を丸くしている白樺さんの頭を先輩は優しく撫でた。


「白樺もな。柊木の面倒見ながら自分の課題にもよく向き合ってる。でも、あんまり色々気を使いすぎんなよ」


 二人の女子から驚きの表情を向けられた花水木先輩は、コホンとわざとらしい咳をして少しだけ赤い顔を誤魔化してから、いつもの厳しい表情に戻った。


「じゃあ、レッスンを再開する。いいか?」


 柊木さんと白樺さんは互いに顔を見合わせ、再び先輩に向き直ると声を揃えて言った。


『はい! よろしくお願いします!』


 闘志に溢れた二人の顔を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。

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