勇者に会いに行こう編 エピローグ
「リザレクション!」
僕の腕の中で女性の死体となっていたツルファが突如、声を上げて目を覚ます。
あ、当たり前のように蘇った!?
『勇者は復活するんですよ。ただし、一度は死体になるのでその瞬間を狙われて操作されたんだと思います』
シロフィーが僕の疑問に答える。
そんな隙間を縫うように死体魔法を使っていたのか……。
というかそんな当然のように復活されると、もうなんでもアリ感が強まっていく。
一体、勇者という存在はどこまで特殊なのだろうか。
「おお! 本当に女の子になっている! やったー!」
ツルファは念願かなって大歓喜していた。
蘇ったばかりだというのに、元気なものだけれど、勇者にとってはもう何度も繰り返したことなのだろう。
ヤベーやつだなぁ……。
「ツッチーなんで女の子になっちゃったのぉ!? いやー!」
そんなツルファの姿を見てショックを受けるのはフラーンである。
よほど勇者がお気に入りだったのか、手をブンブンさせて怒っているけれど、その姿は子供が地団駄を踏んでいるようにしか見えない。
「フラーンよ、そんなこと言っていて良いのかのう」
「うっ……確かに早く逃げないとぉ……もぉ、最悪ぅ」
嘆くフラーンはクスクスにそう言われると、そそくさ逃げようとするけれど、簡単に逃すわけにはいかない。
即座に捉えてしまおうと、フラーンの方へ僕は目を向けるが、そこには死体が転がっているだけだった。
今までとは違い、その死体にはもはや力が宿っているようには見えなかった。
「あれ!? ふ、フラーンは!?」
「本体に見せかけて、あれも操作している死体にすぎなかったんじゃよ。あの変態は自分の好みの死体を見つけると、まるで自分のように操るもんで、本体がわからんのじゃ」
「むぅ、お母様が捕まえられないだけはある」
まさかこんなに容易く逃げられてしまうとは……。
考えてみれば、テレサ様の言う通りで、メアリ様が何度も戦い退けているという話なのに、それでも元気に活動しているということは、相当にしぶといのだろう。
そもそも、もうすでに死んでいる彼女をどうやって倒せば良いのか謎だ。
死体魔法……本当に恐ろしい魔法だった。
『そういえばクロ、男に戻ってますね』
えっ、本当!?
確認してみると確かに僕の体は元の男のものに戻っている。
先程、性別魔法をツルファもろともくらったから、一緒に性別も変化したということか。
よ、よかったぁ。
このまま女のままだとどうしようかと。
「クロ……もしかして、男の子になっている?」
「へ?」
ドラゴンヌイグルミをカバンにしまいながら、テレサ様が上目遣いでそう尋ねてくる。
そ、そうか! 最初の性別変化は見てないから、一緒に巻き込まれた僕の性別は女性から男性になったものだと思っているのか!
一周回って正解している!
ものすごく変則的な形で、性別が男性だとバレてしまった!
いや、正確にはバレてないけど!
女性だと思われているからこそ、今は男性になっていると思われているというややこしい状況だ。
僕視点では男→女→男だけれど、テレサ様視点では女→男ということ。
ど、どうしよう。
「ええっと、あの、はい、男性です」
ここで否定すると、確かめられて全てが終わりになりそうなので、僕は素直に答えることにした。
「面白い……しばらくそのままでいて」
「はい!?」
し、しばらくっていうか最初からそうなんですけどもね!?
テレサ様の好奇心が働いたせいで、僕は女性が男体化した状態で過ごすという設定で実際は最初から男という、もうなんだか良く分からないことに!
ま、まあ、これで上手くいけば真の性別がバレることはなくなる……?
「主よ、歓談中すまないが掘り起こしてもらえるか」
「ベム子! う、埋まってるんでしたね!?」
というか何でそんな状態になったんだよ!
地中に埋め込まれたベム子を掘り起こすために、話は一度終了となったけれど、だ、大丈夫かな?
様々な疑問を抱きつつ探検は終了する。
うちの猫が勇者に会いたいと言い出してたことから始まったこの謎の事件は、紆余曲折を経て、本当に勇者に会うという驚きな形で幕を閉じた。
……その勇者、今は女の子だけども!
★
翌日、オセロ屋敷にはツルファの姿があった。
何百年と行方不明だった人なので、行く場所など当然無かったのだ。
今の彼は……いや、彼女は女性ライフを全力で楽しんでいるらしく、フリッフリでフリル盛り沢山な服を華麗に着こなしている。
元々、美しい容姿をしていた勇者なので、より一層その美しさが増して見えた。
しかし女体化への順応の速さよ。
「服を貸してくれてありがとう。どうだい? 流石は僕だ! 超愛らしいだろう?」
「服はまあ屋敷にあったものなので良いのですが、可愛いのは確かですね」
その分、ぶっ飛んだその性格とのギャップが酷いけれど。
もう中身の軽さが凄いんだよなこの勇者様。
カボチャのような性格をしている。
「お礼は言葉より実利、恩返しを所望する」
「テレサ様の実直なところ、私は好きですよ……」
しっかりと恩は返してもらう主義なテレサ様は、勇者相手だろうときっちり求めていく。
勇者といえばゲームでは人の家のものをパクっていくことで有名だけれど、そんなことを許すテレサ様ではないようだった。
「いいよ、僕にできることなら何でも言うといいよ」
「勇者様に出来ることの幅ってめちゃくちゃ多そうですね……」
「まあね、実際、大抵の願い事は叶えられるよ」
自信満々に言い放つツルファに謙遜の二文字は見当たらない。
ここまで何でもありな人なら、実際、謙遜する意味もないのだろうけれど。
「じゃあ、天界に行きたい」
「いやいやいや、テレサ様、それはいくら勇者でも無茶がありますよ……」
そう、天界は誰も足を踏み入れたことがないとされる不可侵な場所。
いくら勇者といえども流石に無茶だろう。
無茶だよね!?
「まあ、無茶だね」
「で、ですよね!」
ツルファは真剣な顔で頷き、そしてこう続けた。
「でも無理ではない。僕は一度だけ行ったことがある」
「……まあ、そんな気はしてましたよ!」
そもそも勇者というのはあらゆる場所を冒険し尽くした人みたいなイメージが僕にはある。
地の底から天の果てまで。
天界という謎の場所に行った可能性の最も高い存在は誰かと聞かれたらそれはもう勇者に相違ないのだ。
「そもそも天界を旅するのにとんでもない時間がかかってね、そのせいでこっちじゃ行方不明扱いになってたんだ」
「い、今までずっと天界にいたということですか!」
「うん、それで天界から帰る時にうっかり死亡したところを運悪くあの死体の魔女に嗅ぎつけられて操られてたって流れかな」
「……フラーンは偶然ではなく、きっと帰ってくることを予見してたんだと思う。どうやったかは謎だけれど」
何度となく天才と評されるフラーンだけれど、勇者の帰還まで予測して動いていたとすればそれは確かに天才的と言わざるを得ない。
本当に怖い魔術師だったな……もう二度と会いたくない。
でも、こういうこと思ってると大体会う羽目になるんだよね……。
「ただ天界に行くには鎧が必要なんだよ」
「鎧?」
「そう、丸っこくて継ぎ目のない不思議な鎧がいるんだ。あれに搭乗する必要がある」
丸っこくて継ぎ目のない不思議な鎧……。
何故だろう、酷く聞き覚えのあるような……。
『いや、明らかに竜の墓場で会ったやつでしょ。ロボとか呼んでいたあれですよ』
そうかロボか!
もう随分前のことのように思えてしまう。
あのロボによって天界へ行く方針を固めたのがそもそもの話だったのだけれど、まさかそれそのものが天界へ行く手段だったとは。
「それなら頭はある」
「おお、やるねぇ。頭があればまあ大丈夫かな」
「大丈夫なんですか!?」
「天界に行こうじゃないか! 僕も忘れ物があるしね」
勇者という圧倒的にイレギュラーな存在によって、天界行きの計画が一気に始動し始める。
果たして、無事に辿りつけるのか、そして、天界とはどんな場所なのか。
いやはや本当に、不安しかない。
次回から天界編! だと思います!




