勇者に会いに行こう編13 性の境界
小声ながらもしっかりと伝えたその衝撃発言に対して、クスクスさんの反応は驚きではなく納得だった。
「……やはりそうじゃったか」
その反応は僕の予想通りだ。
あの時は人前だったので、強くは言ってこなかったけれど、冷静に考えればヌイグルミの性別すら当てることができるクスクスさん相手に、性別がバレているのは当然だ。
「我ながら自信があったんですが、流石ですよね雌雄屋さんは」
「まあ、なんとなくじゃがな……それで、急にそんなことをアタシに伝えてどうしようと言うのかのう?」
「いいですか、僕の女装は今まで一度もバレたことがありませんでした。しかし、クスクスさんだけは見抜いていた。そう、勇者でさえ女体化としか思わなかったのに」
ツルファは飛び抜けて勘が良く、普通に考えれば僕の女装くらいは見抜きそうなものだ。
けれど、彼の口から出た言葉は女体化であって、女装ではない。
勇者でさえ見誤る我が女装!
……喜んでいいのか?
『私のおかげでもありますけどね』
そう、シロフィーの技術もあって僕の性別は今まで疑われたことすらなかった。
クスクスさんと会うまでは、だ。
「そういう魔術師じゃからな」
「つまり、もう人間相手の性別もクスクスさんは完全に理解している……人間相手にも使えるはずなんです!」
「ほーう、無茶苦茶を言いおるわい」
「けれど事実です。クスクスさんに足りないのは自信だけだ」
そう何百年もやってできなかったのではなく、何百年もやっているのならできるはずだ。
そう思うことこそが魔法においては重要なはずで、クスクスさんは己を縛っているにすぎない。
その鎖を解き放つには……きっかけ一つあればいいはず!
「僕に使ってみてください。恐らく、この世で最も女体化させやすいのは僕です!」
「なんじゃと!?」
僕の爆弾発言には、流石のクスクスさんも驚いたようで、目を丸くしている。
僕も自分で言っていて驚きである。
まさかこんなことを言う日が来るとは。
『なるほど、クロ、それはあり得ますよ。貴方は実際、私と同化しつつあって、今は男でもその境目が甘くなっている可能性があります』
そんな可能性あるの!?
僕の体は予想以上にヤバいようだった。
『安心してください。だからといって女になったりはしませんよ。ですが、性別魔法という後押しがあれば或いは……』
その発言で僕は確信した。
この作戦はいける……いけてしまうと!
いざとなるとちょっと、いや、かなり怖い!
「確かに想像が容易ではあるのう……なるほど、面白い」
「かなり嫌ですけどね!!!!!」
「嫌がるやつ相手の方が盛り上がるもんじゃ。それに、お主の覚悟を見せられたらアタシも無理だ無理だ言ってられん」
クスクスさんはその大きな杖を僕に向ける。
「やってやろうかのう」
何やら脳内がバグって熱い展開のような気がしてきているけれど、実際は女体化するだけである。
しかし、これが上手くいけば、勇者を、ツルファを女にしてしまって一発で死体魔法を終わらせられるはず。
そして、我ながら恐ろしいことを言ってしまった。
まさか自分で女体化を希望することになってしまうとは。
正直、超超超超嫌だ!
でもテレサ様のためなら女にもなる!
それがメイドだー!
『それはメイドではないと思いますよ』
冷静なことを言われつつ、クスクスさんの杖が光り輝き魔法が発動する。
「スクセ! ガイテン!」
ついに発動した性別魔法が僕の体を包み込む!
そしてのちに残されたのは……何も変わっていない僕だった。
し、失敗したか!?
『いえ、成功してます!』
シロフィーの声を聞いて僕は股間に手をやると……そこにはあるはずのものがなかった。
ほ、本当だー!?
元々、ほとんど女みたいな見た目なので、それくらいしか変化しなかったのか!
む、胸もほぼ変わってないし。
『ど貧乳ですね貴女』
地味にあなたの言い方が貴方から貴女に変化している気がする……、
し、しかし、これで実験は成功だ!
性別魔法は人間相手に使えると、証明された!
「長年の夢が叶ったのう……では次は勇者の番か」
「なるはやでお願いします!」
僕はクスクスさんを急かすように言う。
そう、こんな一見阿呆らしいことをしている裏で、テレサ様とベム子は必死に戦っているのである。
見てみると、勇者の剣戟によって影のドラゴンが消滅していくところだった。
そしてベム子は地面に埋まっていた。
なっ、何故そんなことに!?
「いやぁ、強かったよ二人とも。まんまと時間を稼がれちゃったみたいだねフラーン」
「明らかに全力出そうとしてないじゃんぅ! もうぅ! はやくメイドも倒してぇ!」
プンプン怒るフラーンに従って、ツルファはゆっくりとこちらに近づいてくる。
走らないのは死体魔法に抵抗しているからなのか。
「人間相手の性別魔法はやや時間がかかるようじゃ。勇者の動きを止めてくれ」
「了解しました!」
動物と違って、人間の性別変化させるのには集中力と想像力が必要なのだろう。
クスクスさんの指示を聞いて僕は即座に、ツルファの前に出て戦いに入る。
メイド技術その十一『剛力』!
メイドパワーフル稼働でツルファの腕を掴むけれど、しかし、ツルファはそれ以上の腕力で抵抗してくる。
め、メイド技術が負けてる!?
『いや、女体化の影響で純粋に体が慣れてないんだと思います!』
そ、そういえば今の僕は完全に女の子になってるんだった!
馴染みのない体でフルパワーを出すのは不可能か。
「君……誰かに似ていると思ってたんだけれど、今思い出したよ。シロフィーに似ているんだね」
「し、シロフィーをご存知ですか!?」
ツルファと僕とで手四つの体勢になり、互いの腕力をぶつかり合わせていると、急にそんなことを言われて、一瞬、力が抜けてしまう。
そ、そういう作戦!?
「一時期、一緒に冒険したことがあってね……そうか、シロフィーの関係者か」
「か、関係者というかなんというか……」
「まあ、その辺は後で教えてもらおう。完成したんだろう? 性別魔法」
「気付いてましたか……」
どうやら作戦ではなく純粋な興味からの発言だったらしい。
そして、僕の作戦は勇者にはモロバレだったようだ。
まあ、クスクスさんの方へ向かっていってあれこれしていたのだから、そう考えるのは自然なのだけれど。
勇者相手に隠し通せるものではなかったか。
「これで僕もようやく夢の美少女生活ができる」
「どんな夢ですか!」
というか死体に戻るだけでは!?
少なくとも今までの魔物の死体たちはそうだったのだけれど、人間の死体は別なのだろうか?
疑問に思っていると、背後で発光が始まる。
「勇者よ、あの時の約束を果たそう」
「律儀で助かるよ」
僕は最後の力を振り絞って、ツルファの体を押さえつけ、なんとか動けないようにする。
まるで俺ごとやれー! みたいな光景になっているけど、事実、僕ごと性別魔法で巻き込む形で魔法が発射された。
「つ、ツッチー!?」
驚愕するフラーンをよそに、僕の腕の中で勇者の体がどんどん縮んでいく。
髪も伸びて、胸も大きくなり、やがてそこには一人の女の子が残された。
た、大変な戦いだったけれど、これでようやく決着か……?




