勇者に会いに行こう編12 ラッキースケべられ
僕はフラーンの懐まで接近すると、彼女が反応する間もなく、頭部を殴り決着をつけようとした。
しかし、そんな超危険なタイミングでなんとフラーンはくしゃみをする!
ま、漫画じゃないんだから!?
えっ、死体ってくしゃみするの!? とか的外れなことを考えつつ、相手の思わぬ動作で僕の拳は完全に空を切った。
こんなことある!?
う、運が悪いというか、な、なんか、都合が悪い!
そして相手にとって都合が良い!
「えっ、や、やばぁ!? メイドさん超強い人ぉ!? ツッチー! やっぱりそこの白黒メイドを相手にしてぇ!」
呆気に取られて次の行動が遅れた挙句、指示の出し直しをされてしまった!
こ、これは超失敗した!
というより、なんで次の行動に出られなかったんだ僕!?
何故か、上手く動けなかったような……。
ギャグみたいな展開に、思考を戦闘に移せなかった。
『勇者のご都合主義が本領を発揮し始めましたか』
シロフィーは渋い顔で解説を続ける。
『勇者を相手にするとこちらが最善の動きを出来なくなるんです。そして、相手は運も含めてめちゃくちゃ良い動きをしてくるという……』
く、くしゃみまで含めて全部勇者の運命操作のせいなの!?
確かにアニメや漫画で偶然くしゃみをして当たらなかったみたいなシーンは主人公周辺でよくある出来事だ。
それを今、僕が敵として実感している。
敵になってみて初めて分かるけれど、すっごい不気味だよ!
「いい作戦だったけど惜しかったね。いや、まあ、僕がいる限り惜しい以上の結果は難しいんだけどさ!」
そう、ツルファの言う通り惜しかったのではなく、惜しくさせられた。
本来上手くいっているはずの作戦が、歪まされて、惜しくなってしまった。
それが運命操作!
死ぬほど面倒くさい能力だよこれ!
「そして僕は能力なしでも強い!」
勇者がその手に持った剣を輝かせながら、僕の方へ光速で振るう。
当たり前のように輝いているけれど、もはやそんなことに驚いている暇はない……早く思考を戦闘に切り替えなければ。
単純に光る剣は眩しく鬱陶しく、僕の集中力を削ぐ。
もしかすると、それを狙った戦術なのかもしれない。
だとすれば見た目の悪い狡いな!
剣をかわしつつ、ツルファの胴体に向かって全力の拳をお返ししようとすると、とんでもなことが起きた。
本来、そうやすやすとはめくれ上がらない僕の、メイドの鉄壁のスカートが、急な風によって上昇を始めたのだ!
いわゆるスカートめくり!
もしくはラッキースケベ!
い、今まで一度もそんなハプニングなかったじゃないですかー!
『エッチな方も含めてご都合主義なんですよ』
シロフィーは冷静に解説するけれど、僕は冷静ではいられない!
女装男子のスカートの中身は女子のスカートの中身よりも更に更に更に秘匿性が高いものなんじゃい!
咄嗟に勝負を忘れてスカートを押さえつける僕は隙だらけもいいところだった。
当然、それを見逃す勇者ではなく繰り出された蹴りによって僕は後方へ一度吹き飛ばされた。
「はははっ、女の子してるねぇ。僕の運命が申し訳ない!」
なんとか腕でガードしたけれど、その衝撃は大きい。
つ、強い上に、こちらはエッチなハプニングを警戒して全力で挑めない!
勇者……まさかここまで強敵とは!
『いや、戦いの最中でスカートを気にするのはクロくらいですよ?』
シロフィーの冷静なツッコミが僕を襲う。
スカート歴一年未満なんだから仕方ないだろ!
まだ赤ちゃんスカートなんだよ!
『しかし、実際このままだと勝負がつきませんね。むしろ世界の塗り替えが進むとどんどんこちらが不利になります』
それはシロフィーの言う通りで、ドラゴンヌイグルミによって色付いたこの世界は、少しずつ崩れ始めている。
勇者の剣戟のせいでもあるけれど、ただ純粋に制限時間があるようにも感じる。
早く決着をつけたいけれど、ツルファのせいで完全に突破というのは難しい。
くっ、膠着してしまったか。
「やっぱり、クスクスしかない」
そう言い放つのは影ドラゴンの横に立つテレサ様である。
そう、最初からそれが本命だった。
しかし、あまりにも無茶があるので本命であっても大穴だ……!
「そう言われてものう……できるもんならやりたいくらいなんじゃが」
クスクスさんも渋い表情をしている。
まあ、さもありなんだ。
しかし、そのクスクスさんの言葉を聞いて、残念そうにするのはツルファだった。
「でも驚いたよ。僕はてっきりそこのメイドの子は女体化した子なのかと思ったから」
「ふぇっぁ!?」
さも当然な顔でツルファはとんでもないことを言う。
えっ、ばっ、バレてる!?
いや、女体化していると思われているのならバレていない!?
「ちょっと男性っぽいところあったからさ、でもそんなまだ人間に使えないなら単純に男まさりな女性だったんだね。スカートも気にしてるしさ」
と、とんでもなく勘が鋭い!
でも、ギリギリバレてはいないようだ。
よかったー! スカートを気にする羞恥心があって!
しかし、な、なんか雌雄屋さんに続いて二回目だなこの焦り……。
最近、僕の女装が甘くなっているのか……?
そんな心配をしていると、僕の脳内に天啓が走る。
閃いた……この膠着状態を抜け出す方法を!
『おっ、何か思いつきましたかクロ』
敏感に僕の心の中を感じ取ってシロフィーはそう尋ねてくるけれど、即座に返す余裕はなかった。
天啓の如くに閃いたその作戦は、あまりにも危険だったからだ。
しかし、今はもう打開策もなく、時間を掛ければかけるほどこちらが不利になるという厳しい場面だ。
多少のリスクは飲み込まなければならない。
で、でもなぁ、めちゃくちゃ危ないんだよこれ!
『そうやってグズグズしていれば、してるほど、どんどん悪化していきますから! さっさとやってしまいましょう!』
シロフィーに怒られるように背中を押されて、ようやく僕の覚悟は決まった。
や、やるしかない!
「テレサ様、あとどこかにいるベム子! しばらく勇者様の足止めをお願いできますか!?」
「任せて」
唐突なお願いをテレサ様は何も聞かずに承諾した。
間髪を入れずにドラゴンを操り、その屈強な尻尾を勇者相手へとぶん回す。
「何を思いついたか分からないけれど、期待しているよ!」
ツルファはジャンプでそれを避けつつ、更にどこからともなく放たれたベム子の投げナイフを空中でキャッチしつつ、更に投げ返しながらも僕に激励を投げかける。
余裕ありすぎてもうなんかシュールだった。
しかし、なんとか足止めは出来そうだ。
僕はこの隙にクスクスさんの元へと急ぐ。
『それでどうするつもりなんですか?』
僕が何をするつもりかと言えば……こうするつもりだ!
「クスクスさん、私……いえ、僕は男なんです」




