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語られる混沌

「フフフ――ごきげんよう」


■赤い少女は・大きな乱れを纏い、笑顔を向ける■


 大きく丸い照明に照らされた、煉瓦の部屋で。

 三人はキルシュと対面。


「なっ、ななななあっ」


「……!」

 

 ヒナとサーシャは、その異様を目にして固まった。


「飲まれるな。二人共」

 

 彼女たちを叱咤するように言うクライス。


「クライス様っ」


「クライスさん……!」

 

 彼の背中を見つめる二人の視線が、ある一点に向けられる。


(美少女アニメのポスター)

 

 機械装甲を身にまとった、大変エッチな美少女の絵が描かれているポスターが、煉瓦の壁に貼り付けられている。

 その近くにも似たようなポスターが多数。


(フィギュア一杯……)

 

 壁際の棚の上には、ありとあらゆるフィギュアが置いてあった。

 ロボ・美少女・モンスター……雑多なそれらは、普段使っているサーシャ宅の部屋には、置けないほどの量にも思える。


(クリアケースに入っているのが、お気に入り?)

 

 他にも様々なオタグッズで埋め尽くされた部屋の有様。

 

「じろじろ見ないで」


「いや……そんなこと言ってもっ」


「雰囲気が……ネ。いかにも……って感じ……」


「くっ」

 

 女性陣の目は微妙に白い(ように思えるクライス。思い込みかもしれない)。

 彼はなんだか変に緊張する。


(スコップ使って・たどり着けるこの空間)

 

 魔導具の力により入ることが可能なこの場所を、クライスは自分好みに改造していた。

 基本的に静かな場所なので、そういったものが大事とも思う。


(心安らげる、安楽の地へと)

 

 趣味全開にし過ぎて少し隠したくなった彼だったが、まあ誰も招かないだろうと安心していて。

 成り行きでキルシュを捕えた。


(急遽。少女を一人ご招待)


【へえ、変わった趣味ね】


(何が悲しくて、敵に趣味を暴露せねばならんのか)

 

 片付ける時間もなかった為、そうなってしまったのだ。

 敵をぶち込むのがオタ部屋なんて、いまいち締まらない結果だ。

 まあ、ここは捕らえておくのに適した場所ではあるのだが。


(今回も)

 

 そして更に、サーシャたちに見られてしまった。


(さすがに、あの自室を自分色全開にするわけには行かないからなっ)

 

 もちろん、男の尊厳を漲らせるブックも大量に転がっているわけで。

 片付ける時間がなかったPART2。


「ドン引きですわ……クライスさん……わあ……強烈……!!」


「ちくしょうッ」 

 

 薄い本を、まじまじと見ているヒナの一言。

 それにクライスは走り出し、壁際に膝を抱えてうずくまった。


「ううう」


「ほああ……! こういうこと……したいん……でス? 変態……ですわね!」 


「お前が言うなっ」

 

 混じり合う好奇心と悲嘆の声。

 落ち込むクライスに、サーシャは後ろから声をかける。


「く、クライス……さんっ。落ち込まないでくださいっ。男の子はこういうの好きだって、分かってますから……き、気にしませんっ」


「サーシャちゃん」


 クライスを励ますサーシャの顔は赤い。そして薄い本をチラチラ見ている。


■なんだかんだで、立ち直ったクライス君■


「……それで、あの人は一体?」


「前の襲撃者。ってのは分かるよな」


「分かりますけど……うぅ。思い出したら震えがっ」

 

 まだ壁際に待機中のクライス君は、いじけながら説明を開始した。


■説明中だよ!■

■サーシャは小動物のように怯えて、クライスの服の端を掴んでいる■


「き、危険はないと? ほ、本当ですかっ?」


「多分な」


「多分ですかぁ……うぅ」

 

 元の位置に戻ってきたクライス。


(あの気持ち悪い【乱れ】は見えない)

 

 彼は目を凝らし、キルシュを見遣る。


(……)

 

■黒い、ゴスロリファッションの少女は■

■今は囚われた囚人でしかない姿■

 

「それはそうと……彼女をどうする気……ですの?」


「それなんだよなー」

 

 美味しそうにお茶を飲むヒナは、ちゃぶ台に着いてリラックスしている。

 完全に自宅のようなノリ。

 変わらずの図々しさだ。


「この場所の影響なのか、無害化されてるんだよなー」


「無害化……?」

 

 ヒナはキルシュに注目する。


「見えませんね……例のアレ……」


「まあ、やっぱりそうか」


「クライスさんには見えると……」


「普通はな。今は同じく見えない」

 

 クライスの目に、かつて見た忌まわしい乱れは見えなくなっていた。

 つまりそれは、乱れの気配が発せられていないということ。

 三人にそこまで変化がないのが、証拠でもある。


「……就職者Gって……」


「俺」


「おお……! そうなんです……カ!」


「言うなよ」

 

 頭を掻く彼は、続けてキルシュについて説明する。


「まー、とにかく。今は敵じゃない」


「懐柔したと……? さすが……」


「というかね。勝手に丸くなった」

 

 クライスは目を細める。

 その視線を受けたキルシュは、頬をわずかに染めた。


「そうなのよ。なんだか心が優しくなったの」

 

 キルシュは笑顔で言う。

 その言葉を信じるクライスではないが。


「自分で言うか」


「なによ。協力してあげようかと思ってるのに。ちゃんとお世話もしてくれる・しね」


「協力ねー」


「お世話……!? クライスさん……どういう意味で……すの!?」


 キルシュの言うお世話というワードに、ヒナは敏感に反応した。

 それを見たキルシュは何故か勝ち誇った顔。

 嫉妬でぐぬぬってるヒナを尻目に、彼は考える。

 

(――この女と複数回、対話を行った)

 

 キルシュを捕らえ、尋問を行おうとしたクライスであったが。


(意外に協力的な態度の敵)

 

 そのせいで、逆にどう対応するべきか迷ってしまった彼。


(もし、口を割らないようなら)


■なら?■

■いつか見たようなことを、やっていたかもしれない■


(……とにかく、強硬手段よりは平和的に)

 

 方針は固まり、大きな乱れとの交流は進んだ。

 クライスはキルシュの方まで歩いていき、顔と顔を近づける。


「……」


「――新しい情報が欲しいの? クライス」

 

 少女はその口を開いた。

 その甘い吐息が、クライスの顔に触れる。


「くれるのか」


「んー、どうしようかしらね。気分良いし、裏切ろうかしら」


「くれ」


「すごい直球」

 

 図々しいことこの上ない態度に、キルシュは感心・呆れ。

 無気力な目つきは見えていないが、なんとなく感じてはいる。

 それを想像すると・彼女は息が荒くなる。


「なら太陽の話をしましょうか」


「――太陽?」


■その場の空気が・淀むような錯覚■


「【混迷の太陽】。彼等は、様々な勇士たちを葬ってきた」

 

 悪辣王。

 その者達は、その王の手足のような存在だと語る。


「何人いるかって? 私にも分からない」


「面識は」


「あるわよ。二人ほどね」

 

 彼女は、己が知る太陽を伝える。


「その男は、とても趣味が悪い」


「お前みたいにか」


「うるさい。黙って聞きなさい」

 

 語られるのは眼帯の男。


「あれは、人をバラバラに」

 

 その嗜好。


「気を付けるべきよ。あの男に捕まったら・苦痛の底に引きずり込まれる」


「……名前は?」


【あらゆる苦痛を届けよう――このザントが】


■そしてもう一人■


「その女は、ひっそりと佇む」


「……」


「お利口ね」

 

 語られるのは、まだ見ぬ脅威。


「もしかしたら、既にお前の後ろにも」


「え」


「冗談よ・怯えないで」


【怯える間もなく――彼女パニッシャは現れる】


「そう冗談ネ?」


「怖いだろ」


「怖いわよね。分からないモノは――ただ、一つだけ確かな情報があるのよ。パニッシャは過去に、異世界競技で活躍していたと聞くわ」


「なに」


 混沌戦か儀攻戦か。

 種類は分からないが、混沌の太陽の中に元選手がいたという情報。

 さらに驚くべき言葉がキルシュから続く。


「その時の彼女の成績はスターなんとか・ファイター級。ある一人の選手を除いて、儀攻戦で一度も敵を通さない……鉄壁を誇ったというわ」


「そんなやばいのいるのか」


 確かに鼓動を阻害した恐怖感。

 彼は間違いなく死を感じている。

 最強の力を持ってなお。

 己に匹敵するかもしれない・違うベクトルの最強を恐れる。


■赤い少女の言■


「最強と言っても隙はある」

「例えるなら」

「人の身で刃は防げない」


「分かりづらい」


■怠けものは突っ込んだ■


●■▲


「さて、情報は十分与えたわね」


「ああ」


「まあ、信用するかは別の話のようだけど」


「当然」


「ふふ、気に入らない態度。悲鳴を聞かせてほしいわね」

 

 そういうキルシュの言葉とは裏腹に、クライスは内心・雨降り中。

 なんか物騒な連中がいると聞いて、関わりたくないと心底思う。


「じゃあな。俺は行く」


「……」

 

 クライスのそっけない態度。

 つまらなそうなキルシュは。


「私のそばに転がっているノート、誰か拾ってみなさい」

 

 キルシュが突然そんなことを言う。

 それにクライスは固まり、ヒナは迅速にノートを回収した。


「これは……?」

 

 ヒナとサーシャがそれを開く。


「あっ」

 

 クライスは気付く。


「なになに……」


「あ、ちょっとっ。それはっ」


「おお……これは……」


「ポエム――漆黒の翼は――」


「ぎゃあああッ」


■女性陣に・深奥を覗かれ■


「良い悲鳴」


■キルシュはほくそ笑んだ■

■さて、帰還の時だ■


「あの人については後で聞くとして……リベンジですね!! クライス様!! 正直逃げたいです!! うぅ!」


「まー、負けてはいないが」


「それで……どうすると……? これからどんな刺激的な作戦で……?」


「そうだなー」

 

 地上に行く前に、今後の方針を定める。


「……あいつの攻撃、次は避けられそうだ」


「ほほう……! 見切りましたか……!」


「ぼちぼち」

 

 クライスは天井を睨み、先にいるモンスターを思い浮かべる。


「見てなって」

 

 いつも通りの気楽さで、手に持ったスコップを動かした。


●■▲


■山の頂上■


「――」


 大地に足を付け、彼らは戦場へと戻ってきた。

 さっきの攻撃は、まだ三人の網膜に焼き付いている。


「……」

 

 クライスが握りしめたスコップは、微動だにせず。


「あー」

 

 彼はただ目の前の敵を見る。

 その瞳には、予定外に対する混乱が映っていた。

 そう。それは。


「イレギュラーか」


「イレギュラーだな。脆く、弱い」

 

 モンスターはその巨体から煙を発し、消滅しようとしていた。

 その傍には一人の男が立っている。


「で?」


「「何者だ?」」


■怪物を狩った青いマントの男は、クライス達に鋭い視線を向ける■

■手に持った大きな剣が、凄まじい威圧感を持ち■

■ナイトとしての力は、今まで見た誰よりも強大だと思えた■

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