盤面を定める者:巨人の衝撃
「う、うわああ!?」
「なんて圧だ……!! こ、こんなのッ。……無理だろッ」
■乱れの軍団が、凶悪な巨人のように見える錯覚■
■その強烈なプレッシャーは、実際以上の脅威となって攻勢側を襲う■
「攻めろー!! 怯むなッ。まだチャンスはあるッ!! 左方に魔導攻撃をっ」
「うおお!!」
剣や槍、魔導や銃。ありとあらゆる攻撃が、巨人へと放たれていく。連携も見事な波状攻撃の嵐だ。
だが、それを巨人は強靭な腕で防御し、まるで揺るぎもしない。
当然のことながら、あくまで攻勢側の見ているイメージに過ぎない。
「だがァッ、突破できぬだろォッ!! 儂の化身である巨人はッア!!」
ハーディン・ゴズレイドは高らかに嗤う。
己の盤面が最大限に効果を発揮し、試合を勝利に導いていることに。俯瞰で見るどの攻勢も、終局巨人を破壊するに至らないと確信していた。
——前々から、準備はしていたのだ。
地下室にこもり、ひたすらに延々と試合に勝利するためのシチュを模索していた時もあった。
「敵味方のチーム構成は奴が決めるッ。奴ならばァ、どういうチーム分けをするかを考える必要があったッッ」
ハーディンの語る奴というのは、あの曲者地区長であるゴールドのことだ。
彼の性格をある程度よく知っていたハーディンは、チーム構成を予測するのも容易い……とまでは言えないが、それなりの予想材料はあった。
自身の能力の性質上、まず悪辣王や他の強力な乱れ達と組むことはないと思ってはいたのだ。
ある程度は自由にメンバーを決めることは出来るが、当然のごとく悪辣王などの選手を組み込むことは禁止されてしまった。
「ぐッふふッ!! あァッ、それにしても、あまりにチーム力に贔屓があるのではァッ!?」
蓋を開けてみれば、対する敵の強さに冷や汗を流しそうになったようなハーディン。
敵にソルジャーとファイターの猛者がいて、混迷の太陽は自身一人。
敗北の二文字が頭を過ったのは間違いない。
八方塞がり感が心臓を痛め、好物の厚切りステーキを一食5枚しか食えなかった悲劇に、彼は勝手に泣いた。
「悲劇ッ!! まさしく困難ッ!! はーッ!! クソだわ!! クソッッ!!」
戦力差を埋めるために、彼が策を講じるのは当然であった。
まず最初に、敵側の火力が高い選手……ゼノを倒す考えが頭に浮かぶ。
「なんとか奴を倒すべくッ。アレを使う必要があったァッ」
ハーディンが言うアレとは、敵味方問わずに魔導力を奪うフィールドギミックのこと。
それがなければ、ゼノの爆発系魔導の威力を削ることは叶わなかっただろう。
ハーディンの能力の性質上、その事態だけはなんとか回避したかったのだ。なので。
「最初の防衛ッ。それをある程度は緩める必要があったッッ。面倒なッ」
ゼノとクライスによる快進撃。
その全てが仕組まれたことではないにせよ、ある程度の誘導はあったのだろう。
人間ならば誰しもが持つ、勝利することによる油断という流れへの誘導が。
「あれがなければッ。罠を外していた可能性もッ。あったかッ」
ゼノを撃破し、次はスターライト・ファイター級の二人を排除する番だ。
倒すことは難しい。
試合終了までポーラとミリアムを隔離できるよう、二人が同時にゴールへと攻めてくる状況に調整した。
彼の俯瞰で見る才能が、ここでも発揮されたのだ。
「はぁ……本当に心臓が痛いッィ。綱渡りのような状況だったがァッ」
二人をギリギリまで引き付けなければならず、転移魔導のタイミングをMISSすれば、そこで終わっていたであろう。
冷や汗は流れていたし、正直美しき女戦士二人に挟まれている状況から脱するのを惜しいとか思ったりしていたが、なんとか作戦は成功したのだ。
「そうして今ッッ。ついに我が盤面がフィールドを支配するッッ。ぐフッ」
ハーディンは笑う。
己の全ての戦略を駆使し、原動力となる感情を発露し、格上であろうチームに勝利できる事実に。
狂気的な笑みから発せられる、強烈にして邪悪な思考の嵐。
「さて、攻め側はどうかなァッ!!」
■ハーディンの視点が、自チームの攻勢側へと移る■
■あくまでイメージではあっても、不確かな情報から、正確な戦況を読み取る■
●■▲
「バカな……ッ。なんて勢いだッ」
■フジ丸の視界で、巨大な腕が味方選手の防衛ラインを揺るがしている■
■それはまさしく巨人の腕で、荒れた大地を揺るがす破壊槌■
■曇天の空の下、そう思わせるほどの敵選手たちの猛攻が止まらない■
「ぐッふふふッフ!! はハァッ!!」
「……!! なんだこいつらの連携は! さっきまでとまるで違うっ」
フジ丸は、自身が持っている盾を強く握りしめる。
試合開始直後よりも、遥かに勢いを増した敵チームの攻勢に、体力を削られていく。
敵選手も疲弊してはいるのだろうが、どう見てもスタミナ的な意味では味方側が負けていた。
大した攻撃力も防御力も、持っていないと思っていた敵選手の脅威。
「あるいは……っ。そう思わせることも策ッ」
攻撃力と防御力は、ある程度ステータス確認能力が高い者なら見抜ける。
しかし、隠された能力値に関係するスタミナ面については、なかなか探るのが難しい側面があった。
ハーディンはそれを利用し、持久力に優れた選手たちを多めにしたのだろう。
「試合が終盤……そこで明らかになる脅威か……! まんまと奴の盤面に乗せられたッ」
■フジ丸の心中に、敗北の二文字が浮かぶ■
「!?」
■浮かんだ瞬間、凄まじい衝撃が全身を貫いた■
「ごァッ!?」
体中を駆け巡るのは、骨と肉が潰されたかのような、意識を断絶しかねないショックの嵐。
持っている盾から響いてきたそれは、巨人の腕の一撃を防いだことによるものだ。
無論、それはただのイメージの話に過ぎない。
だが、イメージが現実感を持ってしまうほどの、連携と同調によって生まれる巨大な攻撃が防衛ラインを揺るがしたのだ。
「く、そッ。こんなの、どうしようもないじゃないか……ッ」
■歯噛みするフジ丸は、周囲の仲間の様子を見る■
■皆、一様に敗色の気配を感じているようだ■
「……ッ」
■もう、防衛線も長くは持たない■
■そして■
■自身の俯瞰視点によって、戦況を理解したハーディン■
■彼は邪悪な笑みを深めた■
「——残り7点差。逆転可能ォッ!!」
■ハーディンは呵々大笑■
■両腕を広げ、盤面の支配者かのように振舞う■
■目は充血し、よだれが濁流のごとく流れている■
「どッふッふッ。どふッッッ!! ふっッ!!」
奇妙な笑い声を上げながら、選手たちの攻防を見る彼の瞳。
盤面を崩すような要因はなく。敵チームは乱れ達による巨人を突破できない。
天から降り注ぐ静かな雨粒の音が、まるで祝福の音色のようにも聞こえてくるようだ。
そこはまさしく、巨人と人間による神話の戦いのような、神秘性を感じさせる舞台——ではなく、狂気的な笑い声が重なる混沌大地。
「う、うアあああ!?」
「む、無理だよッ。もうッ!」
敵の悲鳴を聞きながら、ハーディンの心中には夢想が溢れている。
試合に勝利した後の、自身が得られる報酬についてだ。
倒した敵チームは完全に無力化され、その身柄は乱れ達の手に渡ることになる。
ミリアムやポーラ等も例外ではなく、そうなった場合に彼女たちを自身の手中に収めることが可能であろうと、歪な笑みを深めていく。
「ぐッッッはあああああはッッ!!! はははッハッッ!!!」
■感情のままに、自身の妄想によって狂喜乱舞するハーディン■
■気持ち悪いほどに身をよじりながら、己にとっての宝を手にする未来に涙を流す■
■ああ・あァッ・ああああッ!!■
■そうだ・自分にとっての、何よりの宝は■
「ア?」
その時、彼は音を聞いた気がした。
とても小さく、聞き逃してしまうような音。
なのに、それはとても重々しく響いた。
まるで、本能が聞き逃すことを拒否しているかのように。
「なにィ……?」
ぎょろりと、眼球が不気味に動き、音の発生源を探ろうとしている。
彼の盤面を看破する力が、すぐにその異常を捉えた。
それは、小さな小さなひび割れだ。
物理的なものではなく、ハーディンの見ているイメージの中に生まれた損傷。
2次元が3次元を侵食するかのように、じわじわと彼の心中に広がっていく危機感のようなもの。
「……まさか」
侵食していくそれが、さっきまでの自分の妄想と繋がる。
そうだ、自身にとっての宝が。
勝てば自分のものになる。
つまりそれは、どういうことかというと。
【……】
【ぐッふふふッッ!! フッ!!】
初めて会った時のことが、静かに頭を過る。
捨てられそうだったので、気まぐれのように拾った命。
それはとても愛らしく、美しい存在であったと脳に刻まれている。
外見の美しさは勿論だが、それ以上に美しいと感じたのは、瞳の奥に宿る太陽のような輝きだった。
【——ほう。これは素晴らしい】
それからも様々な美しさに会ってきたが、あの輝きに勝るものはなかった。
脳裏に焼きついて離れないそれは、欲して・欲して……まだまだ欲望尽きぬ執着の対象。
それを、この試合に勝てば取り戻すことが出来る。
ということは。つまり敵チームに彼女がいるということ。
「——ハあああああッッ!! あアあッ!!」
■裂帛の気合いがハーディンの鼓膜を震わせ、現実に引き戻す■
「……ジャスミンッッ!!」
■聞こえてくるその声は、どこまでも活気に溢れ、周囲の味方を元気づけていく■
「どっけええええええッッ!! 邪魔よッッ!! ぶっ飛ばすッッ!!」
■巨人に立ち向かう、一人の美しき勇者・再起のジャスミン■
■鳴り響く轟音■
■彼女の突撃が、ハーディンの構築した巨人の盤面にヒビを入れた■
■その音を確かに聞いたハーディンは、汗を大量に流しながら再び窮地に追い込まれる■
「まだ試合は終わってないッ!! 絶対に勝てるわッ!! みんなッ!! あたしが道を切り開くッッ!!」




