夜闇に潜む者
「……なんだ一体。儂に対してこの仕打ち……」
気色の悪いうめき声を漏らしながら、ハーディンは己を囲むソルジャー達を見回した。
全てのソルジャーが敵意を持って自身を狙っていることは明らかで、彼は窮地に頭を悩ませる。
せっかく今日、望む星をこの手にする算段を整えてきたというのに邪魔をされた。
発狂するかのように叫び、嘆く。
「おんのれれえッ!! 人の恋路を邪魔するとは何ともかんとも、馬に蹴られて爆発四散しろォ!!」
「爆発するのはお前の方だ。異物が」
■夜闇を裂く強烈な光が、怒るハーディンに襲いかかる■
「ごっふああああ!?」
さっきと同じように吹き飛んだハーディンは、激しく地面を転がりながら絶叫する。
彼を襲ったのは最も近くにいたゼノの魔導攻撃。
【金】の魔導に分類される広範囲爆発攻撃魔導・【爆裂】。
現象の言の中でも、破壊力だけならトップクラスと言えるそれだが、扱いが難しく、上級魔導師向けとされている。
その性質は破壊力だけが脅威なのではなく、もう一つの脅威性を秘めていた。
「ぬゥッ! 爆裂とはッ!! どこから来るか分からんんんんッ!!」
体勢を立て直したハーディンは、魔導に警戒するが、攻撃がどこからくるかまるで分からずに混乱中。
これこそが爆裂の真価。
前兆予測が不可能な、360度自在爆破による一方的な蹂躙である。
ゼノはまるで身動きもせずに、憎き悪辣王の一派を翻弄していた。
「この程度か……? 違うだろう?」
苛立っているのは、なぜか優勢なはずのゼノの方。
視界の中で無様に転がるだけの敵に、その無様さに、怒りがどんどんと湧き上がってくるのだ。
この程度の敵に、自身の親友であるスミスが敗北しただと?
そんなわけはない。
乱れ共の脅威は、もっともっと深いもののはずだ。
全身全霊で完膚なきまでに叩きのめして、原形も残さないように爆散させて、塵だけの存在に貶めなくてはいけないゴミクズ共のはずなのだ。
「どうした!! 真面目にやれ!! ハーディン!!」
思わず敵にそう叫んでしまうほどに、ゼノの怒りは深い。
大地を爆破で焼き焦がしながら、爆裂魔導は容赦なくハーディンを弾き飛ばし、ダメージを与えていく。
周囲で待機している、安寧の太陽が手出しする余地がないほどに、ゼノの驚異的な爆破力は圧倒的であった。
「ぐふ、ぐふ、この! よくも! 儂の宝をォッ!!」
ハーディンは己が持っている焼け焦げた写真を見て、涙を止められなくなった。
いったいなぜ、この様な理不尽が自身の身に起こったのか、まったく分からずに嘆くことしかできない。
鼓膜を叩く爆裂音すら意に介さずに、彼は自分の世界に入ってアンニュイ風な気分に浸っていた。
(儂は……最愛の人を守れなかった)
気分はさながら主人公。
憎き悪役によってヒロインを奪われた感じのイメージで、自分の世界にこもったハーディンは悲しみの底に沈む。
明らかにそんな状況ではないはずなのだが、彼の頭の中を疾走する妄想の渦は止まらず、悔しさややるせなさを強く感じている。
ハーディンは拳を強く握りしめてゼノをにらんだ。
「おおおおぉお、覚醒するぞォ!!」
「勝手にしていろ。僕は気にせずお前を破壊する」
対峙する二人の距離は20mほど。
強い一歩を踏み込んだハーディンは、咆哮を放ちながらゼノへと突進を仕掛ける。
仕掛けた途端に、足元を爆破されて再度吹き飛ぶ。
しかしそこでゼノは疑問を抱く。
(なんだこいつは? なぜこれほどの魔導を受けながら……)
ぼろぼろになっているのはハーディンの方で、ゼノの側にダメージなど皆無。
そんな状況で明らかにおかしいのは、ハーディンの異常なタフネス。
ゼノが操る爆裂魔導は正確無比で、おそらく世界中を探してもこれほどの精度を誇る使い手は他にいないだろう。
そんな彼だからこそ、ソルジャーの最高戦力の一角を担うことが可能なのだから。
(一発も爆裂魔導は外していない。全部当たっている)
なのになぜ相手は倒れないのか?
ハーディンの動きは速いとは言えず、まともに爆裂魔導を受け続けている。
それなのになぜという疑問が、ゼノの頭を堂々巡りしていた。
防御系のスキルや魔導や魔導具の効果かと考え、ひたすらに苛烈な攻撃を続行する。
(何度でも爆破する。粉微塵になるまでな)
冷静にハーディンに対処するゼノは、己の魔導力を確認した。
彼が使う爆裂魔導には、操作困難以外にも弱点が存在する。
その弱点とは単純な燃費の悪さ。
要するに尋常じゃないレベルで魔導力を消費するため、連続発動するためにはかなりの魔導的力量が必須だった。
現在、そんな魔導を連続で使用しているゼノの魔導力はというと……。
■彼の能力値・魔導力に表示された数字は■
■10500■
■つまりは能力超過していた■
(まだ半分以上は使えるな。充分に仕留められる)
魔導力の数値が、魔導の発動回数をそのまま示すものというわけでもないが、ゼノの魔導的な燃料は桁外れであった。
ハーディンを駆逐するのに充分に過ぎるそれは、勝利への順当な道を舗装していく。
敵の接近を許さない中距離連続爆破攻撃は、距離を開けてしまった時点で相手に敗北を突きつける。
(どうした。何か奥の手を見せてみろ、異物!! 粉砕してやる!!)
炸裂する爆裂の中で転がり回るハーディンは、魔導などを発動する気配もない。
ゼノたちとしては、乱れたちが使う特殊な魔導や魔導具があるのならば、早めに見ておきたいところであった。
まだ未知が多い敵勢力の底力。
下手をすれば、それは島を飲み込む脅威の嵐にもなるやもしれない。
(地域によって、魔導の元となる源流魔導を生み出す方法は異なるが、それならば奴らも独自の技術を持っていても不思議はない)
乱れたちが、特殊な魔導を用いる可能性は極めて高かった。
なのでこのハーディンとの戦いでいくつか確認して、それに対する対応策を練るというのが一つの思惑としてあるのだ。
だが肝心の敵はただ攻撃の嵐を受けて、その中を突き進むのみの単調行動。
ステータスを確認しても隠蔽されていて、力のほどは分からないが、一つだけ判明していることがあった。
「しぶとい……防御力特化の能力値か?」
半裸のような状態になってだらしない肉体を晒しながら、ハーディンは着実にゼノへと接近していた。
怒りのままの突進は狙いやすく、実際に攻撃は当たり続けているのだが、倒れない・止まらない前進。
不細工な顔はさらに崩壊しているが、狂気とも言える執念で突進を続ける。
頭のねじが常人よりもずれた乱れらしいと言えば、らしいのかもしれない。
「ぐっふふぅ!! 八つ裂きにしてやるぞォ!! 貴様ァ!!」
「……」
「主人公である儂はァッ!! この程度で怯まんッッ!!」
そして、ついに10メートルを切る両者の距離。
ハーディンはその右腕を伸ばして、ゼノを惨殺しようと叫びを上げた。
血走った眼が標的を定めて、あくまで魔導を発動しない状態で、殺害行為を行おうとするハーディンの動き。
その右腕がゼノの目前まで迫った。
「――もういい。散れ、ゴミクズ」
■ゼノが右手を垂直に振り下ろした■
■瞬間■
「ごッッッ!??」
さきほどまでとは比べ物にならない、超絶無比の大爆発が発生して、発動者もろともハーディンを飲み込んだ。
「おお……!」
「これはッ。すごい……」
周囲で待機していた者たちも、爆風で吹き飛ばされかねないほどの、現象の言の本領とでも言うべき広範囲攻撃。
大地を揺らす振動が、その威力を誇るように彼らの足元を走り抜け、平野に大きな傷跡を残した。
爆発の発生源は煙によって見えないが、そこにいた者が無事ではないのは確か。
「ゼノさん……! 仕留めたのか……?」
■息を呑んだのは誰だったか■
■夜の平野で、一つの戦いが決着した■




