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CRON:     Commander;Rising-有栖川望深-ship

――来てくれて嬉しいわ。久しぶりのお客さまだもの

バキバキという辺りが砕ける音が響いてすぐ、視界が真っ白になる。

粉塵なのか炎上の煙なのか、決める間もなく身体が下に引っ張られるような感覚を持つ。


何が起こっているのか、起こったのかわからなかった。


気付いた時には――冷たさが肌の奥底、隙間という隙間を侵されていく感覚を、

拭う事も出来ずに意識が薄れていった。


ことの始まりはいたって簡単。

現存する書物の情報共有を高める等々その他にもいくつかの目的の為に、

タイミングよくイタリアの支部ともいえる、

ある機関への遊びの連絡が届いたのをいい機会だと思って。


あまり目立たず、予想外の事が起こらないように少数で海路を使って行こうとした矢先、

休憩場所の港から進んだ後、何者かの襲撃にあったようだ。

どんな感じだったかと訊かれても僕にはあまり答えられる事柄は少ない。


軽い駆動音が聴こえて、気が付いたら眼の前が真っ白になっていて、

顔や頭部に柔らかい感触があると気付いてからはそれが布モノである事を把握したくらいで。


布に包まれて何処かに移動しているのかと思えば、

バキバキと辺りが崩れていく音が聴こえて、あ、なんか落ちてるなあなんて思ってすぐ、

何かが染み込んだように冷たさがやってきて。


じわりじわりと重くなっていって、ああ、多分今海に投げ出されているのかもしれないと思ったあと、

呼吸も出来なくなっていったもので、なんてあっけなく死んでくのかと思えば、真っ白だった視界に、

鈍い色をした海水が映った。おお、今日は荒れ模様かななんて思った瞬間。


波にのまれて海水を飲み込んで、意識がふわっと離れていった。



そして眼がが覚めた時には木目のついた天井と、海の匂いが鼻に香る。

「ここ……どこだ?」

喉に力が無いのか思ったよりも小さく掠れた声が、疑問となって口からこぼれた。


脱力しきった腕が、天井に何かを求めるようにぎこちなく伸びていく。

その腕は伸びきる事はなく少しばかり上がって直ぐに沈んで。


僕がこうして、見知らぬ場所で眼をさましたということは、

松来くんは、無事だったのだろうか。詩歌くんは、まだ港なのかな。


どちらにせよ、何処とも知らない場所で、悠々と寝ている訳にはいかない。

何処かぬめり気のような感覚を抱きつつ、起き上がろうと力を入れてみる。

ゆらりと視界がふらついて、唐突に強めた力のせいか、腕や足の方面からぶちぶちと軽く音がした。

痛みがない、血管が切れた訳ではないとすると繊維が音を鳴らしたのかもしれない。


唐突に、ガチャリと何かが開いた音がした。

トントンと規則的な足音がこっちに向かってくる。


「だいじょうぶかい、青年。何があったのかは陸についてからでいいから、

今は気を張らずにゆっくり休むと良いよ。もう少しで着くから。

あ、お仲間は一足先に陸の治療所でぐっすり寝てると連絡があったからね。」

そう僕に声をかけたのは、今この場所へ入って来た簡単に言うならば白髪の女性で。

あおい宝石のようになめらかで澄んだ眼が見えた。


なんて瞳が綺麗なひとだろうか――。

少し見惚れてしまったあと、再度観察を開始して。


頬に小さな傷がたくさんあるのは、この人が荒くれモノだったりするからなのだろうか。

「あの、ここは何処ですか?」女性の言葉を聞いて、

心配していた気持ちが少し抜けていくのを確認しながら質問をした。


女性はそういえば何も説明していなかったねと呟いた後で、

「ここはね陸より少し離れた海を警戒監視している船の中さ。

今日ぐらいに大切な客人が来るからと言って、

不審な人間がうろついていないか観てたのさ。その大事な客人が海に浮かんでたって言うんだから、

あたし達からしたら笑いごとでも、機関からしたら笑い事じゃ済まないだろうが……

まあ、知ったこっちゃないねえ。どうだい、少しは落ち着いたかい?有栖川家当主さん。」


何故僕が有栖川だということを知っているのか。

敵であるならば、早急に対処をする必要がある。

腕に力を入れるより先に、眼に力を入れて脳を動かす準備をして、

眼の前にちらつくこの女性の対処法を考える。

――と。

首元にゆっくりともこもことした布をかけられて。

「日本支部っていうのはそんなに物騒なのかい??

あたしはもっと疑問をドカドカと投けつけられるかと思っていたのに、

まさかそれを飛び越えて真っ先にヤル気になってるなんてびっくりだよ。」


残念そうな声色で、そう言葉を零された後まあまあと僕の上に布を追加して。

布を僕にかける誰かの手は真っ白だったけれど、傷や火傷の痕がいくつもあって、

見てはいけないものかもしれないと眼を逸らす様に、

「あなたはいったい――誰なのですか?」と疑問を呟いた。


絹の糸のような白髪を持つ女性は、また苦笑しながらも口を開いて、

「まあ陸に着いてしまう前に、話した方がいいかもしれないね。

アタシはね、キミらが向かう陸地の先にある城の、元お姫さまってところさ。

元な訳だから当然、今は別の立場な訳だけれどね。


元……?わからないが、もしかして。

「レオナルド家のご令嬢が家出をして、今に至るとか、?」

少しの沈黙の後――「ぶっはははは!!!!」大きな声で部屋に響いた笑い声に呆気に取られながら、

眼の前の女性は話続けて、「アタシが十二使徒の中にいるっていうのは間違いだねえ。

まあ近い人間ではあるかもしれないけどねえ、

混ぜモンの技術に強いそちらさんなら後々気付くだろうけどね。」


女性は喋り終えた後、部屋の端の方まで歩いて、何かを確認した後で、

少し大きな声を出した。

「お、こりゃもうすぐ陸に着くねえ、ならアタシの名前を言っても大丈夫だね。

アタシはね、葛切南湖くずきなこっていうのさ。

ちょっと面倒な縛りのせいで海賊……船乗りのクセに海の中で名前を言っちゃいけないってのがあるけど、特にきにしないでくれ。」


女性の少しばかり遅い自己紹介の後、

ドタドタと慌ただしい足音が響いて扉が開いた。

「アネゴ!!船着きの準備完了しやしたぜ!!」


さぁて、久しぶりの陸地だ。たんと酒盛りと行こうじゃないか。

そんな声を上げながら、女性――葛切さんは部屋を出て行った。

葛切さんが部屋を出てしばらくすると、四人程、筋肉流々な男性たちが、

寝床毎僕を抱き抱えてゆっくりと扉の外へと出る。


――眩しい陽が視界に差し込んでくる。

力が入るようになった手で眼を庇う。

大丈夫か、兄ちゃんなんてにこにこしながら言われて、大丈夫ですと恥ずかし気に声を張った。

船着き場の先に出たところで、

遠くの方からかすかに激しい息遣いが聴こえて。

段々と近くなってくる足音と、息遣い。


音の先を予測して、遠くの方を見た。

船着き場の、先の先の下り坂の方から、走ってくる人影が見えて。

――望深くんっ!!

ああ、無事だったのか、よかった。

僕の姿をみつけた彼女は、先ほどよりも足に力を入れてこちらに走ってくる。

着ているスーツはところどころよれていて、顔色も悪い。

未だに寝ている僕の眼の前についた彼女に、まずは労いの言葉を贈る。

「無事でよかった――松来灯香くん……。

急いで来てくれたみたいだけど、ごめんね、心配をかけたね。」

安堵して胸が熱くなったけれども、なんとか泣かずに言い終えた。

灯香くんは、「私の後ろに詩歌も居たんですが、どうやら振り切ってしまったようで……。

我々二名は、少しばかり負傷がありましたが、問題ありません。よくぞ、ご無事で。」

そう言った後で、具合の悪そうな少しばかり青白い顔をして、ゆっくりとほほ笑んだ。

灯香くんが、僕の手を握って、僕を気遣っているさなかに、

詩歌くんが息を切らしながらこちらに辿り着いた。

おいてかないでよ灯香ちゃん~~。なんて呟きながら僕の元へやってきた詩歌くんを確認した直後、

僕より先に出たハズの葛切さんが、近づいてきて、

「さあて、これで全員揃ったね。それじゃあ全員アレに乗って、目的地にいこうかね。

お楽しみはまだまだこれからさ。」と小さめの飛行機を指さして笑った。


そういえば、まだまだやることはいっぱいあったと思い直して、

少しばかり深いため息を吐く。


ゆっくりと船着き場を後にする。


――飛行機の窓から見える夕陽が、なんだかとても胸に響いた。

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