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CRON:     City out ;loveyou-ルヴァイン-夜の一宿、艶やかな愛し花と熱

――二人ともお疲れさま。明日が良い日でありますように。

 陽が沈みきった大地をゆっくりと一つの影が動く。

眼前に見える階段近くには、新しく火を灯した暖かなランタンのようなモノが見えていて。


古びた感覚が覆う室内には、湿り気の強い空気と、埃が積もっている。

寝室のような部屋の寝具を見つけて、埃を掃い、寝具に腰かけた。


寝具の上部には埃のついた窓があり、そこから満月が一つ見えて。

不意に、とんと俺の身体に小さな重みと音が身体に伝わった。


オレの身体にもたれかかるカルミアの姿はすぐにでも熟睡しそうなくらい、

瞼がおちそうになっていた。

彼女にも無理をさせてしまったし、

俺の身体もボロボロだ。虚勢を張る気力も実際のところ残っていない。


少し休むか。そう思って彼女に声をかける。

「今日はありがとうミーア本当に助かったよ、寝ようか――――おやすみ。」

オレの身体にもたれかかる彼女を寝具へと動かした後、小さく眠りの言葉をかけて、頭を撫でて。

ひんやりとした人肌と眼をつぶりながらも、

オレを気にかけるようにオレの服袖を掴む彼女をよりいっそういとおしく思った。

寝具に腰かけたまま、埃被った窓の先を眺めて、今この状況に至った少し前の事を振り返る。


ーーーーリコリスさんに連絡をした後、カルミアを抱え今回泊まる宿に向けて歩き出したのだけれども、

念入りに把握できていたと思っていた霧の町の郊外が思いの外広かったのか、

陽が沈みきり、空の色が静かに夜に変わろうとも宿にたどり着くことはなかったわけだ。


加えて、思いの外びりびり君のダメージが残っているようで、

当然と言えば当然のように、いつもよりなおのこと足取りも重かったらしく。


気がつけば幾度となくため息をついて、それをカルミアに指摘され慰められ、

前を向いて歩いて、その遠さにため息を吐く。これの繰り返しが続いていたのだ。


いい加減、慰められる自分も慰めてくれるカルミアにも哀れに思うし申し訳なくなってくる。

「ごめんな、ミーア、場面はどうあれ久しぶりにあった旦那がこんなに不甲斐なくて本当にすまない。

遠方の、この場所にいる事も推測できず、遠距離移動の出来る乗り物さえ、奥に入る前に帰してしまった……何もできない自分とお前に対してこんなに落ち込んだのも久しぶりだ。本当に――。」

疲れを見せないようにしていても、不甲斐ない気持ちを表に出す時はどうしようもないのか、

ミーアと眼が合った。彼女は言葉をこぼすオレの頬をゆるりと撫でて、

その後に「……だいしょうぶだよ。気にして、ないから。

今日も、来てくれてありがとう、びりびりは痛かったけど。」とオレに向けて気持ちを伝えてくれる。

幼いように見えて彼女は強くしっかりしている。そんな彼女は、今日一日だけでも当然様々な事があって疲れているだろうに、腕の中で眠る事もなくオレの様子をずっと見ていて、気にかけてくれている。

オレを見る時の彼女の眼はいつもまっすぐと、深い色をしていて。

ありがとな――ミーアに対して感謝の言葉を告げた後、彼女が唐突に「あれ、かな?」と声を出した。


ミーアの言葉に、眼先の景色をみると少し歩いた場所に、二階建ての建物が見えた。

宿にしては、夜なのに明かりも灯っておらず、人気がないような気がする。


それに――地図に、こんな場所は記されていなかったが……。

何かあっては不味いとミーアを大地に降ろして、オレが先行して建物の壁に沿って入り口に近づいた。

生物の気配はない。それならば――【観測】

建物の壁に手のひらをピタリとつけて建物全体を観測する。

先ずは上部から――罠や何か奇妙なモノが施されているのなら、これで判る。

反転した視界から、光を放つ糸のようなモノが散らばっていく。

途端に眼球から、頬に熱とぴりついた痛みが走る。

ぐっ流石に一日に二度目の使用はつらいか――。


観測を始めていたオレの後ろに何やら人影を感じたので、ミーアか?とつぶやくと、

布のようなモノでオレの頬を拭うような感覚の後、

オレの耳元で「無理しないで。」と強めの語気でカルミアの声が聴こえて。


二階はゲスト用の寝室のようで、薄く観る分には怪しいモノはなかった。

なので、ある部分を除いて、俺は彼女に上の方は何もない寝室だからそこで寝泊まりすることを提案した。その後、観測対象を二階から一階へと移すと、いくつかの部屋の中に刃物のようなモノが観えた。

この建物の中で何かがあったのかもしれないな。

そう思った後特に危険な反応も無かったので観測を終了しようとしたとき、

一階下に何やらまだ空間がある事に気付いて、観測を強めようとしたが、

眼球から、四肢に強い痛みと締め付けられるような苦しさを感じて、

たまらず膝をついて、深い呼吸をしてしまう。が、呼吸が追いつく前に痛みが増す。

「グッ――クソッ寝床さがしでこんな痛みとは笑いぐさにもならないなああああ」


ヤバい、ヤバイこの感じはいつかの寒気と同じものだ。

「カルミア、少しオレから離れてくれ、このままでは飲まれそうだ。

近くにお前が居ると、傷をつけてしまうか――」「大丈夫、ゆっくり対処したらいいよ。だいじょうぶ、大丈夫だからね、貴方はあなたのままでいいのルヴァイン。」そんなことを彼女が口にしながら、

オレの背中をさすってくれている感じがする。

こんな時は、どうしたらいいんだっけ。

ああ、そうか。確かあの時も。

――――【specie――我がオリーブの種よ、なだらかに】

痛みと共に赤く染まっていた脳裏の景色が、唐突、心内に呟いたモノによって解かれていく。

血だまりと、金色に染まる空、恐怖と、安堵。

――観測が切れる直前まで、いつかの記憶と共にそんな感覚を保っていた。


――ハッと気が付くとオレは建物の前で横になっていた。オレの頭を支えていたのはカルミアの膝で。

ミーアの柔らかい真っ白な首元と鎖骨が視界いっぱいに映っている。

当のミーアは上を向いていて、どうしたのかと思っていると、案外とすぐにその理由がわかった。

眼球を動かすと隙間に見えた夜空からたくさんの星がきらめいていた訳だ。


普段は規則正しい生活とある種の縛りのある彼女の生活の中では、

夜更けで、かつ従者もいない自由な環境で満点の星など見られること自体が珍しい。

だからこそ、こうも熱心に眺めているんだなと思うとまた微笑ましくなった。


だが、よくよく考えると、防衛の策をとっていない状況なのではないかと思って、観測を使用した後で、身体を起こそうとした――起こそうとしたのだが、その前に彼女に気付かれてしまった。


こちらを向いた彼女の眼は明らかに不機嫌で、

観測をしようとした際の雰囲気を感じとったであろう彼女は、

「ダメだよ寝てないと、敵襲対策はちゃんととってあるから。」そんなことを言ってくるが、

心配なモノはしようがない。ので、とりあえずある程度楽になったことを伝えて、

建物の中へ入る事にした。「地下に通ずるモノがなんなのかわからないから、

むやみにさわらないようにな。」と口にして。


扉は鈍い響きと音を出して開いたが、ドアの持ち手が取れてしまった。

手についた錆を掃って、進んでいく。真っ暗で何も見えないかと思っていたが、

星明かりか月明かりのお陰で明るかったのか、意外と進みやすかった。

建物の中は左右の端と奥に扉があって、入り口から中央右近くに階段があった。

一階の探索はすることがあれば陽が登ってからする事にして、今日は真っ先に二階へ行く事にした。

階段が痛んでいる可能性があったのでカルミアを抱きかかえてゆっくりと上に上がる。


そうして二階についたオレたちは部屋においてあったランタンのようなモノに火を灯して、

寝具で一息ついている。といってもカルミアはもう寝てしまったんだろうけれど。

近くに見える彼女を眺めていると、アクシデントも悪くないなと思ってしまって。

不意に頬が緩んでいる自分にアホらしく嘲笑を浮かべた。

色々やる事はあるだろうが、とりあえずは休息につけることを感謝して、

【自らの血液を染み込ませた仕掛け】を再確認した後、カルミアの横に並んで眼を閉じた。

柔らかい彼女の匂いが、自然と俺を眠りに誘う。

――――あしたはいそがしくなりそうだな――――。


彼が寝息をたてたのを確認したわたしは、

先ほどよりも彼にぴったりとくっついてギュッとしてから眼を閉じる。

ハッとして最期に「今日も本当に、お疲れさま。」と呟いて、彼の首筋にキスをした。


眼を閉じる前に窓から見えた月と星は、とっても穏やかな表情をしている気がしてならない。

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