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魔女?いいえ錬金術師です  作者: 東風になりきれない春
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9/13

これもひとつのハッピーエンド

宿の木枠で組んだ簡素なベッドにキールを寝かせる。

話してくれる気配がまったくないので、エレオノーラも仕方なく隣に寝転んだ。


することもないので、ぼんやりと至近距離でキールの寝顔を見つめる。


くすんでいても光沢のあるはちみつ色の髪。

今は閉じていてわからないけれど、深い緑の瞳。

くせのない髪を指ですくと、さらさらと間からこぼれ落ちた。


見た目だけなら絵本の中の王子様のようだ。

ただし中身は負の感情を表に出さない見栄っ張りで、独占欲の強い大型犬。


いつからかは覚えていない。

ただ気づいたら、彼の目が。彼の声が。熱を帯びて自分を捉えるようになっていた。

それに気づかないほど鈍感ではなかったけれど、ただ穏やかにすごしたい自分からすれば困惑しか覚えない。


これが十代の思春期の頃なら、見た目と情熱に溶かされてうっかり恋愛関係に流されていたかもしれない。

でも年齢を重ねた今では、彼に付随するさまざまな問題が予想できて気持ちのままに走れない。

歳も離れすぎている。

こちらの世界の感覚なら、親子ほど離れているのだから犯罪ではなかろうか。


ショタはかんべんしてくれ。


ロリもショタも観賞するもので、手をのばしちゃいけないよ。

などと、斜め上の思考で現実逃避を図る。


「どうして私なんか選んじゃったの・・・」


もっと他にいい娘がより取り見取りだろうに。

自分には、こんなにやつれるほど探してくれるような価値はない。


エレオノーラはやるせなくなって目を閉じた。

ふて寝というやつだ。

年甲斐もないと思うけれど、これ以上なにも考えたくなかった。




目が覚めると、目の前には王子様がいた。

「・・・っ」


上機嫌なキールがのぞきこんできていた。

息をのんでエレオノーラが顔をのけぞらせると、途端に不機嫌そうになる。


「エレオノーラ」


強い口調で呼び止められて、顔を両手で固定される。


「エレオノーラ」

「は・・・はい」


返事をしないとなんか怖いほど圧迫感を感じた。

キールは満足げに笑って、頬をすり寄せてきた。


エレオノーラは完全に硬直してしまって、思考回路も停止寸前だった。

スキンシップ激しすぎじゃないでしょうか。

そう思っても口に出せないチキン根性。


「エレオノーラ、探したんだ。たくさん探したんだ」


ああ、やっぱり。

探してくれていたのだ。そしてこんなに疲労しているのだ。

エレオノーラはからからに乾いた唇を湿らせて、なんとか言葉を発した。


「どうして?」


どうして探してくれていたの。

どうして私なの。

どうして諦めてくれないの。


訊きたいことは山ほどあるのに、言葉にできたのは四文字の問いかけだけだった。

キールは不思議そうな表情をした後、なにか得心したふうにうなずいた。


「ああ、そうか。エルにはまだ言ってなかったね」


エレオノーラではなくエルと愛称で気軽に呼ばれるとほっとする。

心なしか圧迫感も減った気がした。


「私は君が好きなんだ」


その気軽さで、さらっと告白された。

予想していたけれど心臓に悪い告白だった。


深呼吸して気持ちを落ち着けてから、エレオノーラは諭すようにキールに言い聞かせた。


「キール。私の年齢は知ってる?」

「さぁ?でも年齢は関係ないと思ってるよ。特に貴族の間じゃ歳の差のある夫婦は珍しくない」


「キール。私の職業は?」

「医者だよね。ああ、魔法使いでもあるね。魔女だなんて呼ばせないよ。君の技術は尊敬されるべきものだ」


「キール。私の姿をどう思う?出会ったころから変わらない姿を」

「黒髪黒目で、ちょっと珍しい顔立ちだよね。私の年齢に釣り合うようになって嬉しいよ」


「キール・・・私はあなたが歳をとって死んでしまっても、変わらない姿でそこにあるわ」

「ずっと側にいてくれるなら、姿かたちはなんだってかまわない」


「キール・・・」

「なに?エル」


エレオノーラのキール説得は完敗した。

泣きそうになって、慌ててきつく目を閉じ、唇をかんで堪えた。

知っている人が皆死んでいく・・・置いて行かれる気持ちがなぜわからないのか。

それが精神的に弱いエレオノーラには耐えられそうもないのが、なぜ伝わらないのか。


不意にまぶたに湿った柔らかい感触がした。

驚いて目を開けると、今度は目じりに口づけられる。


「き、きーるさん?なにをしてらっしゃるの」

どもって変な口調になりながら、エレオノーラはキールから出来る限り距離をとろうと体を離した。

しかしすぐに抱きすくめられて密着状態に戻る。


視線を上げれば、ほころぶように笑いかけられた。

カッと全身が熱くなる。


イケメンの破顔一笑は凶器だった。

ばくばく鼓動を鳴らす心臓を抑えながら、エレオノーラはキールから目を離せなかった。


「知ってる?エル。私は君から離れると死んでしまうんだ」

「・・・え」


そんな一心同体になった覚えはない。

怪訝な顔をしたのがわかったのか、キールは続けて言った。


「本当だ。今までほとんど飲まず食わず。屋敷の医者にはとうとう呆れて、さじを投げられたよ」


キールはエレオノーラの髪をそっとすいた。


「それに心が凍りついたようになって、気持ちがうつろになるんだ。これにはサイラスたちにまで呆れられたよ」


もう一度目元に唇を落として、キールは笑った。


「それでも君がいい。依存してるってわかっているけど、君以外選べないんだ。エルも呆れる?」


呆れられるわけがない。

今までの生き方を否定されて悔しくて胸が痛いのに、切なくて目がうるむ。

たった一人に求められることが、こんなに嬉しいだなんて知らなかった。

元の世界での恋愛など吹き飛んで行った。あれはこの想いに比べたら、天と地ほどの差がある。


エレオノーラも覚悟を決めなければならないと、ようやく自覚した。

キールの深くてとろけるようなまなざしの緑の瞳をじっと見つめ返す。


「キール。私って実はけっこう我が侭なのよ」

「エルの我が侭なら叶えるよ」


「キール。私はさっきの条件以外にも平民で、貴族じゃないわ。でも妾は嫌なの」

「エル以外いらないから構わない」


「キール。私もわりと依存するのよ」

「むしろ依存してくれ」


「じゃあ・・・ずっと一緒にいましょう」


そうエレオノーラが言った途端、キールは今まで以上にエレオノーラをきつく抱きしめた。


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