84 ベッドの中
過労だろうと言われた。確かに数日ではないにしても仕事をしながらこのどうしていいか分からない手紙で頭を悩ませていたけれど、体調を崩すなんて不甲斐ない。風邪なんて滅多に引いたことないのに。孤児院でも前の工房でも多少の体調不良は誤魔化して仕事をしてきた。それなのにこんなにガッツリと風邪を引くなんて。過労というほど働いていないはず。だるい。頭痛い。
アリアが看病のために食事メニューを変えるために買い出しに出てしまってイザーク様と2人になってしまった。とっても気まずい。ベッドに押し込まれて額に濡らしたタオルをぺとっと乗せられた。
「無茶でもしたのか、今までの無茶が祟ったのか…」
「あまり体調を崩したことないのですが……」
身体を起こそうとしたが彼の腕で起き上がらないように押し倒された。獣のような目ではなく思っている以上に心配した表情をしていた。手がとても冷たい。彼の手をとり握る。冷たくてとても気持ちいい。
頭が痛い。辛い。暑いのか寒いのか。服が寝巻きのシャツなのだが、汗でシャツが張り付くのがとても気持ち悪い。タオルで身体を拭かれるのは嫌なので自分でどうにかしたいのだけれども熱でうごかない体と気だるさで抵抗できず身体を拭かれていた。
「楽しいですか?」
「楽しくないですよ。過労や風邪で寝込んでいる姿を見るなんて。」
「…意外です。」
「私が原因で体調を崩したのであれば悔いて凹みますし、こういう原因だと心配で仕方ありません。休暇申請して付きっきりで看病する気ですが?」
「…やめてください。」
喉が渇く。水差しで飲もうと思っていたら察知される。弱っている時に説得する訳でもなくて丁寧な扱いが心地よくて甘えてしまう。頭割れる程に痛いし暑い。
「ならきちんと休暇をとるなりしっかり休むよう心がけてください。」
「ううっ…私別に無茶してないです。」
「口付けして酸欠させますよ。」
おやすみなさい!!!!!!
布団に籠るけれど、熱が上がってくるような感覚がある。疲れていたのだろうか。最近やっと仕事も落ち着いてきたのにあの貴族の手紙が来たからなのだろうか。疲れたから熱が出たんだろうし。色々考えるのもやめて寝る。私は寝る。
「ミカエラ、薬を飲んでおきなさい。」
「うぅ…」
ひどい味だった。侯爵家にある薬だから高いのだろうけれど、飲まないと無理矢理飲まされる気がしたのでそれを飲み込んでおとなしくすることにした。額に濡れたタオルを乗せられてその冷たさが心地いいけれど、頭がとても痛い。
「風邪をひいたときいつもどうしていたのです。」
「風邪をあまり引いたことがないです。休んだらクビになることもあったので病気や怪我は隠すようにしていました。」
「…なら、これからはキチンと休むようにしなさい。貴族の手厚い看護が嫌なら。」
頭を撫でられて眠ることをになる。気持ち悪い、胸がムカムカする。薬が合わなかったのだろうか。なんだか臭いような嫌な感じだ。眠れず身体を起こす。
「ミカエラ?」
「胸がムカムカしてすごく頭が痛くて…」
「吐きそうなら桶を抱えてください。」
桶を渡されてしまった。気持ち悪い…出そうで出ない。気持ち悪い…
「どうしました?」
「出そうなんですけれど、出なくて気持ち悪いです。」
「なら吐いてしまって寝た方がいいですね。」
顔をグイッと掴まれて無理やり口を少し開けさせると口の中に指を突っ込まれた。勢いよく。顎が外れるかと思った。それと同時に内臓が迫り上がるようなあの嫌な感覚になり、桶に嘔吐した。盛大に勢いよく。背中をさすられて胃の内容物を全て吐き出していた。
水を飲んでほっと一息付くけれど、喉が焼けるように痛むし、吐瀉物を片付けないと。
「片付けは私がしておきます。気にしないで寝て起きなさい。」
「ありがとうございます。」
情けないというか、本当に申し訳ないので元気になったら何か無理のない範囲でお礼をしないと行けない気がする。何を請求されるか怖いけれど、甘えるしかないのだろう。いや、甘えても良いはずだ。多分それでも怒られない。許してくれると怒られはしないと思っていたい。
考えるのやめよう。
どれだけ寝たのだろう。目を覚ますと汗でシャツがぐっしょりと濡れていた。気持ち悪い…服が。
熱は引いたけれど…近くにピッチャーとグラスがある。水をグラスに注いでグイッと飲む。
1人なのかなと思ったら扉が開いてイザークが新しいピッチャーを持っていた。
「物音がしたから見に来ましたが…気分はどうですか?」
「物音…???熱や頭痛はマシになりました。」
物音なんて出てない。どれだけ耳が良いのだろう。ぬるくなった水ではなく氷水を渡された。冷たくて美味しい。
凄い汗をかいた。
「まだ夜中なので入浴はアリアが起きてからにしてください。今からシーツを交換しますので終わったら寝てください。」
ベッドから長椅子に移動させられてシーツを交換されてしまった。服着替えたいけれど…背中向けている間に着替えるべきか。
「ミカエラ、身体を拭きますから服脱いでください。」
「っ…」
「背中向けてですよ。」
背中向けてシャツを脱ぐ。濡らしたタオルで項から背中を拭かれる。冷たくて心地よい。
「病み上がりに手を出すほど落ちぶれてませんよ。」
ホッとしてるのはそれを信じているからだろうか。前は自分で拭いて渡された新しいシャツに袖を通す。スッキリした。下は朝にしよう。
「なぜ帰られてないのですか?」
「病人置いて帰りませんよ。」
ベッドに転がされて寝るように促された。
従って大人しく寝よう。




