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V.C.T リアライザー   作者: しょきぬと
20/21

月下咆哮


「……させるかよ」


 静かな、だが確かな怒りを孕んだ声が響く。

 黒い装甲を纏ったソウマが、コマンダーの前に立ちはだかった。


「テメェの悪趣味なゲームはここで終わりだ、コマンダー。……俺が引導を渡してやる」


 バイザーの奥、ソウマの瞳が鋭く光る。

 ノックスファングの全身に刻まれている青と紫のフォトンラインが発光し、ナハトゲイルが呼応して低い唸り声を上げた。


「引導を渡す? 威勢だけは一人前だな、ヒロイック」


 コマンダーが右手を軽く掲げる。

 その掌に、調律粒子(アジャストタキオン)が収束し、不気味な長柄の武器――身の丈を超える巨大な「死神のサイズ」が形成された。


「だが、私の『脚本』に、貴様の勝機など書き込まれてはいない!」


 ブンッ!!

 コマンダーが鎌を振るった瞬間、目に見えない衝撃波がソウマを襲った。


「くっ……!」


 ソウマはナハトゲイルの背から飛び退き、雷光を纏った腕で衝撃をガードする。

 だが、その威力は桁外れだった。ガードした腕が痺れ、身体ごと後方の壁まで吹き飛ばされる。


「ソウマ君!」


「俺は大丈夫だ! アシマさんたちは下がってろ!」


 壁を蹴って体勢を立て直したソウマは、再びコマンダーへと突進する。

 ノックスファングの機動力を活かし、黒い残像を残しながら死角へと回り込む。


「ほう、早いな……しかし」


 コマンダーは振り返りもせず、背後へ向けて鎌の柄を突き出した。

 ドゴッ!

 正確無比な一撃がソウマの腹部を捉え、その動きを止める。


「ガッ……!?」

「非常に良い動きだが、攻撃の時は動きが止まる……私の『眼』からは逃げられんよ」


 コマンダーの肩に止まったバキアの瞳が、妖しく回転している。あのフクロウが、ソウマの攻撃予備動作を完全に解析し、共有しているのだ。

 ソウマは幻体の特性によって軽減されてなお走る痛みを堪え、至近距離からナックルガードを振り抜く。


「なら、これならどうだッ!」


 バチバチバチッ!

 蒼白の雷光が迸る拳と、漆黒の鎌が激突し、執務室内のガラスが一斉に砕け散った。


「おっと、これは強力だ。だが……」


 鍔迫り合いの中、コマンダーが不敵に笑い、空いた左手に調律粒子(アジャストタキオン)を集束させる。

 一瞬で幻顕(リアライズ)されたのは、無骨な大口径の拳銃だった。

 その銃口が向けられた先は――ソウマではない。テオたちに守られながら震えるハンナだ。


「守るべきものが後ろにあるというのは、不便なものだな?」

「しまっ……!?」

「させんッ!!」


 引き金が引かれる寸前、アシマが動いた。

 近くにあった重厚な執務机を蹴り飛ばし、子供たちの前に盾として滑り込ませる。

 

 ドォォォンッ!!

 放たれた銃弾が机に着弾し、木っ端微塵に粉砕した。爆風が吹き荒れるが、子供たちは無傷だ。


「チッ……余計な真似を」

「子供に手を出すなど、軍人の……いや、大人の風上にも置けん!」


 瓦礫の中で仁王立ちするアシマが、鋭い眼光でコマンダーを睨みつける。

 その隙に、ソウマはコマンダーとの距離を取り、ナハトゲイルと連携体制を取った。


「助かったぜ、アシマさん……!」

「礼は勝ってから言いたまえ! ここは狭すぎる、奴を表へ引きずり出すんだ!」


 アシマの言う通り。このまま室内で戦えば、流れ弾でハンナたちが巻き添えになる。


「了解! メリル、合わせろ!」

『OK! フルパワーで行くわよ!』


 ソウマの掛け声と共に、ナハトゲイルが全身のフェアリングを開放。

 蒼白の幻顕力(RE)を爆発的に放出させ、執務室全体を眩い光で満たした。


「目くらましか。小賢しい!」


『ゲイルダッシュ・アサルト!』


 コマンダーが鎌で光を払い除けるが、その一瞬の隙に、ソウマはナハトゲイルと共にコマンダーへと突っ込んでいた。

 攻撃ではない。全速力のタックルだ。


「表で遊ぼうぜ、偽総司令ッ!!」


 ソウマはコマンダーの胴体をがっしりと掴むと、そのまま背後の巨大な窓ガラスへと突っ込んだ。


 ガシャァァァァァンッ!!


 分厚い防弾ガラスが粉砕され、二つの影が空中の要塞から大空へと飛び出す。


「ちぃっ!!」


「ここなら遠慮はいらねぇ……! 全力で行くぞ!」


 落下しながら、ソウマはナハトゲイルを足場に再加速。

 眼下に広がるデバンドの街並みを背景に、空中での激闘が幕を開ける。


ヒュオオオオオッ!!


 猛烈な風切り音が耳をつんざく。

 地上数百メートルの虚空へ放り出されたソウマとコマンダー。眼下には、要塞山の急斜面と、そこを螺旋状に走る装甲列車の線路、そして遥か下にデバンドの街並みが広がっている。


「クハハハ! 自ら空へ飛び出すとはな! 墜落狙いか、ヒロイック!?」


 落下しながら、コマンダーが愉悦に歪んだ笑い声を上げる。

 彼は空中に調律粒子(アジャストタキオン)の足場を瞬時に形成し、重力を無視してピタリと静止した。


「墜落? そんなつもりは無いさ」


 対するソウマもまた、落下するナハトゲイルの背中へと空中で着地。黒鋼の狼が四肢から蒼白の噴流を放ち、滑空体勢へと移行する。


「ここなら誰にも邪魔されねぇ。……アンタをぶっ飛ばすための特等席だ!」


「生意気な口を。ならば、その獣ごと堕ちるがいい!」


 コマンダーが大鎌を振り上げる。

 その刃から、漆黒の斬撃波が無数に放たれた。それは雨のように降り注ぎ、ソウマたちの逃げ場を塞ぐ。


「メリル! 喰らうなよ!」


『あったり前でしょ!』


 ナハトゲイルが咆哮と共に急加速する。

 ジグザグに空を駆けるその軌道は、まさに獲物を追い詰める狼のそれだ。迫りくる斬撃波を紙一重でかわし、あるいはナックルガードで弾き飛ばしながら、ソウマは肉薄する。


「ちょこまかと……! バキア!」


「ホロロロ……!」


 コマンダーの指示で、フクロウのソキウスが翼を広げた。

 その瞳から怪しげな光線が放たれ、空間に座標データが投影される。


「予測済みだ」


 コマンダーが先読みしたように鎌を突き出す。

 ナハトゲイルの回避ルート、その一点に死神の刃が置かれていた。


「しまっ……!?」


「終わりだ!」


 回避不能のタイミング。だが、ソウマはニヤリと笑った。


「……なーんてな!」


 ソウマはナハトゲイルの背を蹴り、自ら空中に飛び出した。

 予想外の「乗り捨て」に、コマンダーの瞳がわずかに見開かれる。


「何ッ!?」


 鎌の一撃は、ナハトゲイルの上で空を切るだけに終わった。

 そして、その死角から――雷光を纏った黒い弾丸が迫る。


「がら空きだぜ、コマンダーッ!!」


 ソウマの右拳に、眩いばかりの雷光が収束する。

 それは殴打ではない。幻顕力(RE)を牙の形へと練り上げた、ノックスファング独自の刺突攻撃。


蒼雷・狼牙ヴォルテック・ファングッ!!」


 ドゴォォォォォンッ!!


 雷鳴のような轟音と共に、ソウマの拳がコマンダーの大鎌の柄を直撃した。

 漆黒の武器に亀裂が走り、衝撃がコマンダーの体を吹き飛ばす。


「ぐぅッ……!?」


「まだだッ! ナハトゲイル!」


 吹き飛ぶコマンダーを追撃するように、ソウマの合図でナハトゲイルが反転。

 空中でソウマを再び背に乗せると、要塞街の斜面を走る装甲列車の屋根目掛けて急降下した。


「逃がさねぇぞ……地の果てまで追い詰めてやる!」


 装甲列車の屋根にダンッ! と着地したソウマが、硝煙の晴れた空を見上げる。

 そこには、体勢を立て直し、怒りの形相でこちらを睨み下ろすコマンダーの姿があった。


「……面白い。ただのヒーローショーではないようだな」


 コマンダーが口元から漏れ出る幻顕力(RE)の粒子を手の甲で拭うと、その裂傷は瞬時に修復され、元通りになった。

 だが、その瞳に宿る殺意だけは、先ほどよりも明確に濃くなっている。

 要塞街を周回する列車の上。高速で流れる景色の中、第二ラウンドのゴングが鳴る。


ゴオォォォォォッ!!


 猛烈な風圧と、鉄輪がレールを噛む轟音が支配する世界。

 要塞街の斜面を螺旋状に駆け下りる装甲列車の上で、ソウマとコマンダーは対峙していた。

 この装甲列車は、侵入者を排除するためにプログラムされた、無人の自動迎撃システムだ。


「素晴らしいロケーションだと思わんか? 疾走する鉄の獣の上で、正義と悪が刃を交える……。実に古典的で、美しいクライマックスだ」


「けっ!自分で悪だとわかってやってんのが性質悪ぃぜ!」


 強風にコートの裾をバタつかせながら、コマンダーが恍惚とした表情で腕を広げる。

 その背後、車両に搭載された対空旋回砲塔が、ギギギ……と不気味な駆動音を立ててソウマの方へ向きを変えた。


「おいおい、観客席からの差し入れかよ?」


「舞台装置と言ってくれたまえ」


 コマンダーが指を鳴らした瞬間、二門の砲塔が火を噴いた。


 ズドォォンッ!!


 至近距離からの砲撃。だが、ソウマは着弾の瞬間にナハトゲイルと共に跳躍していた。

 足元の車両の屋根が吹き飛び、爆炎が舞い上がる。


「っと! 危ねぇな!」


「逃げ回るだけか、ヒロイック!」


 空中に逃れたソウマを狩るように、コマンダーが鎌を投擲する。

 ブォンッ! と唸りを上げて回転する漆黒の刃が、ナハトゲイルの着地地点を正確に切り裂いていく。


「メリル、足元に気をつけろ! 連結部を狙え!」


『分かってる! でもこの鎌が邪魔ね!』


 ナハトゲイルが車両から車両へと飛び移りつつ、その顎から雷球を放出する。

 だが、コマンダーはそれを戻ってきた大鎌で薙ぎ払い、涼しい顔で追撃してくる。


「ハハハ! どうした、その程度か! それでは私の『絶望』には程遠いぞ!」


 コマンダーが足元の装甲板を強く踏み抜いた。

 そこから漏れ出したどす黒い幻顕力(RE)が、波紋のように列車全体へ浸透していく。

 すると、破壊されたはずの砲塔や、ひしゃげた手すりが、まるで生き物のように捻じ曲がり、黒い鉄の棘となってソウマに襲いかかった。


「なっ……物質干渉までできんのかよ!?」


「私の『脚本』に合わせて舞台を書き換えただけのこと!」


「ケッ、コードネームを『コマンダー』から『ディレクター』に変更しな! 演出過剰なんだよ!」


 全方位から迫る鉄の棘。

 ソウマはナハトゲイルから飛び降り、自らの拳でそれを砕きながら前進する。


「邪魔だぁぁッ!!」


 ガガガガッ!

 右腕の狼を模したナックルガードが鉄の茨を粉砕する。だが、その隙をバキアは見逃さない。


「ホロロロ……!」


「捉えた」


 ソウマの視界が、一瞬だけトンネルの闇に覆われた。

 山腹を貫くトンネルへの突入。完全な暗闇の中、バキアの目だけが不気味に光る。


「しまっ――」


 ドゴッ!!


 暗闇の中で強烈な衝撃がソウマを襲った。

 コマンダーの鎌が、ソウマの横腹を深々と抉る。


「ぐあっ……!」


 吹き飛ばされたソウマは、トンネルの壁面に叩きつけられそうになるが、寸前でナハトゲイルがその体を空中でキャッチした。

 そのまま火花を散らしながら壁を走り、トンネルの出口へと滑り込む。


 バッ!!

 再び視界に広がった青空。だが、ソウマの幻体からは、修復が追いつかないほどの幻顕力(RE)が傷口から漏れ出していた。


「ハァ……ハァ……ッ、結構効くじゃねぇか……」


「……ほう」


 列車の先頭車両に立つコマンダーが、わずかに眉をひそめた。


(今の直撃でもリアリティ(リアライズアビリティ)が霧散しないだと…?)


 コマンダーの不審をよそに、ソウマは口元の光の粒子を拭い、ニカっと笑ってみせた。


「……頑丈なだけが取り柄じゃないんでね」


 ソウマがナハトゲイルの首元をポンと叩く。


「メリル、準備はいいか?」


『いつでもいいわ! ぶちかまして!』


 ナハトゲイルの全身から蒼白の光が収束し、そのエネルギーがブレードアンテナから放たれソウマの右腕へと集約されていく。

 先ほどの「点」を貫く一撃とは違う。触れるもの粉砕する「面」の破壊力を持った、高密度のエネルギー塊。


「この列車ごと……アンタを止めるッ!!」


 ソウマが姿勢を低くし、ナハトゲイルが後ろ足で強く装甲を蹴った。

 爆発的な加速。それは回避行動ではない。一直線の特攻だ。


「馬鹿め、正面から来るか!」


 コマンダーが最大出力で大鎌を振り上げる。

 漆黒の闇と、蒼白の雷光。

 二つの力が、暴走する列車の上で激突する。


蒼雷・激衝ヴォルテック・インパクトッ!!」

災厄の鎌(カラミティ・サイズ)ッ!!」


 ズガァァァァァァァンッ!!


 衝撃波が列車の中央を走り、轟音と共に連結器が弾け飛んだ。

 脱線し、火花を上げながら宙を舞う車両。その瓦礫の中で、二つの影はまだ競り合っていた。


ズガガガガガガガッ……ドォォォォォンッ!!


 脱線した装甲列車が、火花を散らしながら地面へとなだれ込み、爆音と共に横転した。

 舞い上がる土煙と、ひしゃげた鉄の残骸。

 その混沌とした破壊の中心に、二つの影が降り立った。


「……ハァ、ハァ……ッ」


 ソウマが片膝をつく。

 幻体の修復が追いつかず、黒い装甲の至る所から幻顕力(RE)の粒子が煙のように立ち上っていた。

 対するコマンダー、瓦礫の上に着地し、よろめきを見せる。


「十分楽しめたよ…そろそろフィナーレと行こうか。 暴走する鉄塊との心中……悲劇のヒーローにはお似合いの末路ではないか?」


 コマンダーが両手を広げ、周囲の惨状を讃えるように見回す。

 だが、その余裕に満ちた表情が、ふと強張った。


「……まだ立つか」


 瓦礫の山。その粉塵を切り裂いて、二つの蒼白の光――ナハトゲイルの瞳が輝いた。

 その傍らで、ソウマがゆっくりと、しかし力強く立ち上がる。


「言ったろ……。アンタを止めるまでは、倒れねぇって」


「理解できんな。その体は既に限界を超えているはずだ。何が貴様を動かす?」


 コマンダーの問いに、ソウマは口元の光を拭い、ニヤリと笑った。


「限界? そんなもんは、最初から無いんだよ。……俺はヒーローなんでね」


 その言葉と共に、ソウマの瞳に揺るぎない光が宿る。

 人々を守り、世界を救う。少年時代から抱き続けたその純粋な渇望と、ヒーローとしての矜持が、枯渇したはずの身体に新たな力を注ぎ込んでいく。

 熱い奔流が全身のフォトンラインを駆け巡り、消えかけた雷光を再び激しくスパークさせた。


「メリル、行くぞ。……これが最後だ」


『見せてやるわよ、本物のヒーローの輝きを!』


 ナハトゲイルが雄叫びを上げ、ソウマの全身が眩い光に包まれる。


「馬鹿な……どこからその力が湧いてくる!?」


 コマンダーが初めて焦りを露わにした。

 彼は即座に大鎌を構え、周囲の影を全て吸収して巨大な刃を形成する。


「ええい、認めん! 計算外のイレギュラーめ、ここで消え去れ!」


 コマンダーが大鎌を乱舞させる。


災厄の鎌・終幕カラミティ・サイズ・フィナーレッ!!」


 放たれたのは、空間を埋め尽くすほどの漆黒の斬撃。縦、横、斜め――あらゆる角度から迫る死の暴風が、ソウマたちの逃げ場を完全に塞ぐ。


「決めるぞメリル!!」


 ソウマの叫びに呼応し、ナハトゲイルが全身のフェアリングを開放する。


『逃がさないわよ! ゲイルダッシュ・オービットッ!!』


 ナハトゲイルのフェアリングから猛烈な勢いでゲイル・ダッシュのエネルギーが放出、コマンダーへと襲いかかる。


「うぉっ…!」


 コマンダーを捉え浮き上がらせたゲイルエネルギーは、そのまま流れるような円環へと形を変えた。それは高速で乱回転を始め、完全な球体を形作り「風塵の牢獄」となってコマンダーを閉じ込める。

 強烈なエネルギーの奔流に動きをを封じられたコマンダーが、驚愕に目を見開いた。


「な、なんだ、この風は……ッ!?」


「ここからは俺のステージだッ! ライザーファング、展開!!」


 ソウマが両拳を構える。

 ナックルガードから左右4本ずつ、計8本のダガーがジャキッ!っと展開され、青白く発光をはじめる。

 ソウマはそのままゲイルダッシュ・オービットに乗り、光速の機動を開始する。


「うおおおおおおおおッ!!」


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!

 目にも止まらぬ速さで、ソウマが縦横無尽にコマンダーを斬りつける。

 その軌跡は蒼白の残光となって空中に焼き付き、重なり合い、やがて幾何学的な「光の球体」となる。


「ぐぅッ……! 視界が……!?」


「仕上げだ、メリル!!」


『了解よ!エレクトロチャージ!』


 ナハトゲイルの角から青白い雷光が放たれた。

 高電圧のエネルギーが球体を構成するゲイルダッシュの軌跡へと伝導し、内部へ一気に流れ込む。

 バリバリバリバリバリッ!!


「がアアアアアアッ!?」


 逃げ場のない球体の中で、コマンダーは光速の斬撃と、四方八方から襲いかかる雷撃の嵐に晒された。

 牢獄の中で荒れ狂うエネルギーが臨界点に達し、球体は眩いばかりの光を放ち始める。

 それはまるで、暗い夜空に浮かび上がった「蒼白の満月」のようだった。


「…………」


 ソウマが着地し、その輝く球体を背にして立つ。

 

「これで終わりだ…幻狼・月下咆哮(ライザー・ヴォルフ)ッ!!」

 

 右腕を天へ――頭上の「月」へと向かって高く突き上げる

 右腕の装甲に刻まれた「狼の意匠」が、逆光の中で黒く浮かび上がる。

 そのシルエットは、まさに「月下で咆哮する狼」そのものだった。


 ドォォォォォォォンッ!!!


 背後の球体が弾け飛んだ。

 解放されたエネルギーは巨大な雷柱となって天を衝き、夜空を焦がすほどの雷鳴を轟かせる。

 光の粒子と共に吹き飛ばされたコマンダーは、地面を何度も転がり、岩壁に激突してようやく止まった。


「がはぁッ……!!」


 その体から大量の黒い粒子が噴出し、維持できなくなった幻体がノイズのように激しく明滅している。


「ば、馬鹿な……まだ…こんな…」


 瓦礫の中で上半身を起こしたコマンダーが、信じられないものを見る目でソウマを睨む。

 だが、もはや戦う力は残っていないようだった。

 遠くから、防衛軍のサイレンと、アトモスシップの接近音が聞こえてくる。


「……チッ。『脚本』も維持できなくなったな、ここまでか…」


 コマンダーは苦々しく舌打ちをすると、ふらつく足取りで立ち上がった。

 その背後に、空間を切り裂く様に調律粒子(アジャストタキオン)によって「ゲート」が生成される。


「勝ったと思うなよ、ヒロイック。今日のところは『配役』が悪かっただけだ」


「逃げるのかよ、ディレクター!」


「これは『一時退場』だ。……楽しかったぞ。また遊ぼう…クッハハハ…」


 不敵な笑みを残し、コマンダーとバキアはゲートの闇へと姿を消した。

 

 静寂が戻る。

 緊張の糸が切れたソウマは、ナハトゲイルの背にもたれかかるようにして、その場へへたり込んだ。


「……あー、しんど……。マジでギリギリだったな」


『まったくよ。本当に無茶苦茶なんだから』


 呆れたようなメリルの声。

 だが、その響きには、相棒への確かな信頼と誇らしさが滲んでいた。

 雲の切れ間から、夕日が差し込む。

 激闘を終えた黒い戦士を、暖かな光が包み込んでいった。

この話を20話に持って来たかったので二話に分割したのは内緒


中二病最高

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