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さよならの桜
風が季節の色をつけるとき。夏は入道雲が浮かべ、強面な暑さがまわりに溢れるとき、秋は枯葉がカサカサと風に揺れるとき、冬は、吐息が白く染まるとき。春は、そう。桜が散るとき。川沿いの桜を見に行こうと片思いの彼女を誘ったのは、季節の色づきを関係に持ち込みたかったから。
川にはもう花筏。
彼女の長い髪に桜ひとひら。しがみつきたいのかな。まだ謳歌していたいと。桜花していたいと。優しく摘まんでふっと吹くと、気づいた彼女が照れたように微笑んだ。その微笑みを形作る桜色に見惚れる。
太陽よご照覧あれ。春になりかけては冬の寒さに立ち返る君に言っている。春の夜長を趣味に塗りつぶしたかと思えば、冬の起きずらさを布団に語り掛けるのは止めてくれ
桜を散り急がせるくせに、あたたかくなってくれない。出不精の彼女と出かける理由が消えてしまうじゃないか。
ぬくもりはあともう少しで届けられるだろう。箱詰めの宅急便みたいに。その箱を開けると、そらふわり、散る花びらが舞い上がり、僕の心をも舞い上がらせる。