幼児は魔素を捏ねる
安定して魔素を循環させられるようになってから、毎日ルーティンとして朝と夜にストレッチと瞑想を取り入れるようになった。身体をほぐして血流を整えると、魔素の道も末端まで届きやすい。
前世で思春期真っ盛りだった私は、体型維持にもそれなりに気を使っていた。だから朧気に覚えていたヨガもどきみたいな動きをしていたら、気が狂って変な踊りを始めたのかと屋敷の人達にめちゃくちゃドン引きされた。すぐに慣れてくれたし、元々私は不発弾みたいな扱いを受けているから気にしない。まぁ普通の令嬢は大股開きとかしないよね。
ぐりんぐりん、ぐいーんと捻って伸ばして身体が解れたら、裸足で土に立つ。直に触れたほうが何となく接続しやすい気がするんだよね。
まずは大地と自分の間を魔素で繋ぐ。感覚的に少し境界を曖昧にするのだ。この加減を曖昧にし過ぎると、大地から魔素が大逆流して身体が悲鳴を上げるので、慎重に行う。
それからゆっくりと深く吸い込んだ呼吸に含まれる魔素を、意識して自分のものに変換する。身体の隅々まで循環させて、大地に押し流す。次は逆に大地から上がってくる魔素を取り込んで、吐く息と一緒に大気に放出する。年単位で繰り返すうちに変換速度と流れる速度が上がっていった。
慣れるほどに考えるまでもなく出来るようになってくると、たまに自分が空と大地を繋ぐ管になったような気がする。そういう時はキラキラと自分の周囲を漂う魔素の輝きをぼんやり感じながら、世界に溶けてしまいそうな気がして少し恐い。だからやり過ぎないように気を付けている。
終わると淀んでいた魔素が入れ替えられ、過不足ない程度に身体を巡っているのを感じた。
私の身体はどうも元々魔素を巡らせる道が不完全だったみたいだけど、ずっとこの瞑想をやっているうちにだいぶ強化されてきたように感じる。以前より身体に留めておける魔素の量が増えた気がした。無理に自分の中にタンクを作ることは早々に諦めて、ないものは他から借りてくる決断をしたけど、以前より疲れにくくなったり病気になりにくくなったりしたから、地味に嬉しい。
さて、どうして大地に魔力を流すと植物がもっさもさになるのか。前世でさほどアニメやマンガに興味がなかった私には前世チートというような知識はない。だから自分で体感したことから推察するしかないんだけど、この世界では魔素の循環に物体が左右される気がする。魔素が豊富でよく循環している場所は動植物が元気だし、反対に魔素が少なく循環していない場所はいるだけで疲弊する。前者が屋敷の庭で、後者が私が元々いた屋敷の地下室みたいな感じだ。(ちなみについ最近、ようやく地下室を脱出して屋敷の離れに移ることができた。ひゃっほい!)
私は意図的にこの魔素の循環を行っているけど、意識すれば普段から自然に大地と空の間では緩やかな循環の流れを感じられる。大地から湧き上がる魔素は動植物を通して大気に散って、大地に戻ってくる。その巡る力が細胞を活性化させてるんじゃないかと思った。
魔法みたいだなーって思って、もしかして魔法が使えるのではと考えたけど、水を出したり風を起こしたり火を灯したりは出来なかった。でも土を動かす事は出来たんだよね。飛ばしたりは出来ないけど。
瞑想の時に大地との接続をちょっとミスして、ぐっと強く吸い上げちゃった事がある。慌てて接続を切って大量の魔素が身体に入ってこないようにしたんだけど、そしたらぐいって足元が盛り上がったんだよね。びっくりしたよ。
それから何度か実験してみたんだけど、どうも何も無いところから何かを生み出すことは出来ないけど、自分の魔素を混ぜ込んでうまく操れれば、物体に干渉出来ることが分かった。なるほど、私が癇癪を起こすと爆発したようになるのは、放出された魔素に空気が押し出されて弾けるのと、その摩擦熱みたいな感じで熱が上がるせいかと理解した。音速の衝撃と熱はすごいっていうしね。
大体の仮説が立つと、ワクワクしてきた。出来るならやってみたいと思うのが人情だと思う。
私は魔素を吸い込む力は強いけど、放出はそれほど上手じゃないみたいだから、とりあえず干渉しやすい豊富に魔素を含む土を弄り回すことから始めた。
コネコネと触らずに土と自分の魔素を捏ねて、丸や三角や四角を作っていく。滑らかに作れるようになると、棒人形みたいなのも作ってみた。(お母様には泥遊びをしていると思われて洋服を汚さないように注意された)
魔素を使えば使うほど、自分の中にある魔素の道が強化される感覚があった。それに伴って魔素の方向性を定める力も、放出する力も強くなっていく。
そして私は様々な物質に魔素を通じて干渉する事を覚えていった。そうしているうちに私の5歳の誕生日が近付いていた。