1 祀られていたもの
「玉を触れてないと魂分けてもらえないんだね」
ずっと天井の近くで見守っていたラオが地面まで降りてくる。チョウカは人差し指で玉をツンツンと突いてみるが、特に何もおかしな効果は無いようだ。つかみ上げても自分の魂が吸われる事は無い。
「あくまで人間の魂じゃなきゃダメってことだな。しばらくは俺が預かろう」
とりあえず腰を縛っていた長い布を解くと玉を包んでそのまま再び腰を縛る。
「この女は別にどうでもいいとして。キノクニ様、一体何者なんだろう」
「それをこれから確かめる」
広い部屋にはいかにも怪しい道具や、鼻が曲がりそうな香を炊いている。しかしここに何かがあるというわけではない。
「これだけ大がかりに信仰している割に祭壇がチンケだな」
「普通こういう時ってご神体とか、何か象徴的なものがあるはずなんだけど。仏像の一つもないね」
そこまで話をすると、チョウカはふむ、と少し考えるような仕草をする。そして祭壇に近寄った。
「てい」
軽い掛け声とは裏腹に先ほどランカを殴り飛ばした時とは比べ物にならない力で祭壇を殴り付ける。ズドン! という轟音とともに祭壇があった壁一面全てが吹き飛んだ。
「また壊すし」
「入り口ないんだから仕方ないだろ。主柱じゃないから崩れる心配もないからな」
そして改めて目の前を見つめる。破壊された壁の向こう側にさらに大きな部屋が広がっていた。そちらには飾り気のようなものはなくかなり厳かな雰囲気だ。
初めて建物を上から見たときの外観と実際の中の大きさが違いすぎる。もっと奥行きがなければおかしいのだ。関係者しか入れない本命の部屋があるはずだと思って壁を破壊したのだが。真正面の壁に祀られているものを見てチョウカは険しい表情をした。
おそらくご神体であろう祀られているもの。それは巨大な龍の右手の骨だった。かぎ爪もしっかりと残っている。
「……大丈夫か」
ラオに声をかけるとラオは苦笑いだ。
「うん、まあ。とりあえずは別に何とも」
たとえ骨になっても龍の気配はわかる。気がそのまま残っているからだ。慣れ親しんだ懐かしい気。あまり当たって欲しくない予想が当たってしまった。
祀られていたのはシュウセンの右手の骨だったのだ。
そしてその右手の中に収まるように先ほどよりも大きな祭壇がある。おそらく本来ここが玉を置く場所なのだ。しかしそこには偽物の水晶玉が置いてある。当然だ、ランカの手から離れてしまったら彼女は動くことができなくなってしまうのだから。巧妙にすり替えつつ、バレないようにしていたのだろう。
「骨に残っていたわずかな気で、この玉を押さえ込んでいたんだな。本来引っ張り合って拮抗していたのはシュウセン様の骨だったんだ」
「じいちゃん、陰龍だったのか」
それは二人にとって初めて知る事実だ。シュウセンは常に二人と共にいたわけではない。天上界があまり好きではないので、ラオがある程度大きくなったら空に飛び立っていた。そしていろいろな土産話や、実際の土産を持ってちょこちょこ来てくれていたのだ。
気を感じるには当時まだ二人があまりにも幼すぎた。ラオはほぼ赤ん坊、チョウカもよちよち歩きくらいだったので修行などしていなかったからだ。
「さかのぼって整理すると、二十年前シュウセン様はサカナシと戦いこの地に落ちて大地にへこみができた。そんであの女はここで死んで、たまたまあった玉によって新しい命を得た。偶然シュウセン様の右手の骨もそこにあったんだ。これ幸いとこんなものまで立ち上げて魂を奪い続けてきたわけだが」
「じいちゃんの骨があることでこの玉は限られた数の魂しか奪えなかったんだね。もしじいちゃんの骨がなかったら近くにいるもの全ての命を吸っていたかもしれない」
そんなこととは知らず、人々の信仰を集めるためにせっせと骨を信仰の対象にしたランカ。文字通り自分で自分の首をしめていたような状態だ。
「この玉は一体何なのか。もともとこの場所にあったのかもしれないし、シュウセン様が危険なものだとしてずっと抱えていたのかもしれない。その辺はわからんが、とりあえずこっちが先だ」
そう言うとチョウカは骨に近寄る。大人十人を鷲掴みにできるくらい手は大きい。特に固定はされていない、横長の大きな祭壇に飾られていた。特注で作り上げた台座のようだ。
「役人が調べに来るのは時間の問題だ。これが見つかったら皇帝への捧げものとして回収されるに決まってる」
「うん」
ラオも手伝って何とか台座からすべての骨をおろすことができた。手の形になるようにうまく飾られていたが、寄せ集めて一カ所にまとめる。チョウカは懐から一枚の符を出し、小さく何かをつぶやくと符はバサリと一枚の大きな布になった。そしてそれを骨の上にかぶせると勝手に骨を包み込み、みるみる小さくなっていく。最終的にまた元通りの符にもどり、それをつまみ上げてふっと息を吹きかけた。符は一瞬で消えてなくなってしまった。
「隠匿術だけは得意でよかった」
「やばいものを隠すために必死に練習したもんねそれ」




