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陰陽の龍  作者: aqri
沙汰をくだすとぬかしまして
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12/23

3 愚かな女

 死者を蘇らせること、それを操る術は確かに存在するが外法として仙人たちからは忌み嫌われている。基本的に仙人は絶対にやらない、死者は汚らわしいという考えだからだ。そういうことをするのは必ず地上に住む者。

 試しにランカが持っている玉を奪おうとしてみたがそこだけは俊敏に動きかわす。あの玉の影響で動き回れるのは間違いない。二人は一旦距離を取る。


「人々を集めて罪人に罰を下すという名目で魂を吸っていたのはあの玉だ。今は罪人に絞っているが、いずれ人数がもっと多くなったら適当な奴から間引いて行くつもりだったんだろう」


 人々の信仰を集めるカラクリはなんとなく最初から予想がついていた。どうせ私利私欲の為、身分差を作ることで悦に浸る金持ち連中の暇つぶしだろうと思った。だからおとなしく連れていかれて全貌を明らかにしようと思っていた。これから先この辺りの奴らに何度も絡まれていたのでは面倒で仕方がないからだ。

 しかし教えを説いていた女からは屍人の臭い。そして実際に人の魂を奪う様子を見て気が変わった。まさか本当に魂を奪うとは思っていなかったのだ。せいぜい適当にそれらしいことを言って、痛めつけて殺してしまうのだろうと思っていたが。


「こうやって近づいてみると妙な気配なんだよな、あの玉」

「妙な気配って?」

「うまく説明できないけど。ちょっと術に詳しい奴が遊びで作ったものじゃなさそうだ」


 わずかに声が硬いチョウカにラオも気を引き締める。地上には仙人の血を引く者が数多く存在する。そういった者達が道教などで力を持ち、様々な術を編み出している。ある程度力が強い者、賢い者は朝廷に仕えているという話も聞いたことがある。

 そういった者たちは己の力を使って妙な道具を作り出すことが多い。天上に住む仙人たちはそんなことはしない、己の力を使ったほうが強いし確実だからだ。そういう道具を作り出すこと自体が弱者の証だと言う考えが浸透している。


 しかしあの玉、そんな中途半端なものではない。そもそも地上に住む仙人の血を引く者たちは死者を操ったり人の命を奪うようなものを作れるだろうか。

 ランカは折れていた首を自分の手で元の場所に戻した。すると首はまるで折れていなかったかのように元通りだ。


「治ったんじゃないな、一度死んだか。一度死んで別の魂を入れたってことか。一体幾つの魂が入ってやがるんだその玉に」


 ランカが今まで何人の命を奪ったのかわからない。すべての命が尽きるまでやろうと思えば殺し続けることができるが、それも結構面倒だなと思う。


「おそらくその玉普通の人間が触った瞬間に死んじまう、魂を奪われるから。だがその女は死んだ時偶然玉が近くにあったんだ。それに触れたことで魂を得ることができた。死者は陰気だ。つまりその玉、陽気ってことになる」

「結構めちゃくちゃなこと言ってるけど、でもそれしかないか」


 チョウカも仙人の端くれだ、陰陽五行は心得ている。そんなチョウカから教えてもらってラオも詳しい。だから今二人が考えている事は普通ならありえないことだとよくわかる。

 

 互いが互いを増長したり打ち消す力がある五行。しかし陰陽は違う。この二つは常に拮抗しあい、元の力に戻ろうとする性質である。片方が強くなればもう片方が強くなるのではない。もう片方を元に戻すため引っ張り合うのだ。常に同じ力の大きさで居続ける。

 死者は陰気、これは絶対的に間違いない。そこに魂が移動したのなら、偏った力を均すために引っ張りあったのだ。


「普通だったらありえない、自然に魂が移るなど。それだったらこの世に死者なんて存在しないからな」

「おまえは、なんだ! さっきから誰と会話してる!」


 全く攻撃が当たらないことに、さすがに苛々してきたらしい。否、理解できないことに軽く混乱しているといったところか。


「俺の姿が見えてないって事は、少なくとも仙人の血を引いてるってわけじゃなさそうだ」


 天上に住む仙人、三家や八家の者ならチョウカの術はあっという間に見破られてしまう。ラオの姿も見えているはずだ。それが見えないという事は、やはりこの女もともとは普通の人間だ。


「この変な集団ができたのはごく最近だな、じゃなきゃ朝廷まで話がいってとっくに滅ぼされているはずだ」

「何故そんなことが」

「はあ? お前本当にわからないの? 頭悪いにもほどがあるだろ。なるほど、貧しい村出身で学舎の経験はなしか」


 図星を刺されてカッと頭に血がのぼる。貧しい村の出であり、学がないことを馬鹿にされてきたのは物心ついた時からだった。見た目が良いことだけが取り柄だ、それは裏を返せばそれ以外何もないと言われているようで屈辱的だった。しかもそれを子供相手に言われている。

 朝廷や都の話などわかるわけがない。行ったことがないしそちらの話がこんな田舎に届くわけないのだから。


「この国が拝むのを許している神は一つだけ。それ以外のものを立ち上げたら国への反乱として処分されるに決まってるだろ、馬鹿な女だな」


 馬鹿な女だ。脳裏に蘇るあの男の言葉。命を吹き返してまず初めに魂を奪ったのは夫だった。そして思いついたのは、この手を使えば永遠に自分は生きながらえることができるということ。

 何が馬鹿だ、私はこんなに頭が良いじゃないか。思いついた時は高らかに笑ったものだ。死者の力は普通の生きた人間よりもかなり強い。どれだけ屈強な男が肉体を鍛えあげても、自分には敵わない。

 今までそうしてきた。それなのに目の前の子供には触ることができないし、勉学をおさめていないことを馬鹿にされた。話している内容からも子供は高い教育を受けていることをうかがわせる。自分が大嫌いな金持ちの類だ。


「さて、そろそろ飽きてきた。ここに来た目的を果たすとしようか」


 そう言うと、チョウカはぐりぐりと肩こりでも治すかのように腕を回す。そしてランカが瞬きをした次の瞬間には目の前にチョウカが迫っていた。慌てて後ろに飛び退こうとしたが間に合わない。

 顔面を渾身の力で殴り付けた。首が折れるどころではない、頭は落ちた柘榴のように吹き飛ぶ。そして次の命が入る前に玉を持っている腕を手刀で叩きつけた。切断された腕からは手首ごと玉が落ちる。ランカはそのままばったりと倒れ動かなくなった。

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