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行を跨がず言えること  作者: 烏合衆国
第二章 言われたいことが/ある
12/46

ロイツの場合①


「…………」


 ゲンは広い平原に寝転がっている。


 辺りには人どころか動物の姿も見えない。ひらひらと蝶が数匹近寄ってくる。


「…………」


 過去は振り返らない。


 追放は二度目だ。慣れている。だからそのうち会館に戻ろう。倒れながらゲンは考える。


 この間会ったオートのことを思い出す。あの時、ゲンは彼のスキルを限界突破することを拒んだが――もう一度会うことがあれば、してもいいかと考える。追放された側と追放した側が、同じ追放された側でも、拾われた者と拾われていない者として再会し、今は、どちらも追放され拾われていない。


 ひと眠りしたら出発しよう、そう決めてゲンは目を瞑る。




  *




「おーい」


「…………」


「お~い」


「…………」


「お~~い」


 誰かの呼び声がする。誰を呼んでいるのだろう。


 追放された自分を呼ぶ者はいないだろうと、ゲンはその場で眠り続ける。


「死んでるー。残念」


 その言葉にゲンは目を開けた。思い返せば、眠る前は周囲を見渡す限り誰もいなかった。自分以外に誰かが来て、その人を探しに更に誰かが来た?


 それより、自身に呼びかけていると考えるほうが自然だ。


「あ、生きてるー。報告は誤りでした」


 彼が目を開けたことに気づいたらしく、そんな訂正が聞こえた。呼び声は、小さい女の子であるようだ。ほんの十歳にも満たないくらいか。彼は声の聞こえたほうに首を動かす――



 彼を見ていたのは、


 大きな大きな――()



「……………………」


 何とも言葉が出ない。


「おーい。元気ですか。怪我はないですか」


 灰色の狼はそう親切に話しかけてくる。いや――まだ頭がしっかりしていなかったらしい。狼が喋るはずがない。声が聞こえるのは狼の背のほうからだ――ゲンは起立し、狼の横に回り――ようやく声の主、狼の背中の上に乗っている少女を発見した。


「立てるんなら大丈夫だね。こんにちは」


 彼女はへらと笑いながら言った。まだそれほど寒い季節でもないが、もこもこの上着を羽織った六歳くらいの少女。ゲンは思考する。この少女は何者か。なぜ狼に乗っているのか。なぜ自分を助けようとしているのか。考えても分からない。質問をしようかと彼が口を開いたところで、


「ノリア、遅い……って、存命じゃん。回収すんの」


「うん。ほら、乗ってー」


 少女の後から現れたのは、新たな女性だ。髪は短く、目つきは鋭い。着崩しているがその身に着けているのは修道服である。頭のベールは着けておらず、歩くたびに、切り揃えられた短髪がばさばさとはためく。狼少女をノリアと呼んだ――仲間であるようだ。


 さて、乗ってと言われても見知らぬ相手である。ゲンは流石に注意して少し身を退く。


「少年くん、そう警戒しないで」女性はいつの間にかゲンの隣に回ってきていて、彼の左肩に肘を乗せる。「私はフクシー。こっちのチビはノリア」


「チビ!?」ノリアは俊敏に反応する。


「少年くんはあれだろ、追放されたんだろ」


 フクシーと名乗った女性は言った。


「いや――別に、そういうわけでは」


「なに、追放は恥じることじゃないさ。何を隠そう私も()()なんだ」フクシーはその服装に合うといえば合う、寄り添うようなことを言い、「わたしも!」ノリアは狼の上から手を挙げて無邪気に言う。


「そして追放理由に納得できてない。そうだろ」


「……」ゲンは小さく頷く。


「私たちはそういうハグれ者たちの集まり(パーティ)だ。他に二人いるんだけど少年くんも一緒に来ないかい」


「二人?」


 ゲンは反応した。「パーティは四人までじゃ」


「興味持ったね。おし乗って乗って」


 フクシーは質問には答えず、ゲンの胴を後ろから掴んで――ぶんっと、狼の上に投げた。続いて彼女自身も飛び乗り、「出ぱーつ」と宣言すると、ノリアが「ヨーカー、出発!」首元をぽんぽんと叩き、



 狼は、全速力で走り出した。




  *




 ゲンの連れていかれた先に待っていたのは。


 目を瞑って、岩の上に座っている男だった。


 年齢は見た目からは分からない、若くも見えるし老いても見える。その岩に座っているはずなのに、空中に浮いているかのような不思議な存在感が、そういった判断をあやふやにしている。


「ロイツ、戻った」


 フクシーは男に声をかけるが、男は答えず目を閉じたままだ。


「おいロイツ」フクシーは語気を強めて再度呼びかける。


 男は動かない。


「無視してんじゃ――」


 彼女が爆発しそうになったところで、


 狼の上から、ノリアが飛び出してどしん! と男に乗っかった。「ただいま!」


「……ん? おお、どうした、昼食かの?」


 少女が空から降ってきても、のんびりとした口調でロイツは言った。


 というか、寝ていた。


「ッたく。アンタが見てこいって言ったんだろ」フクシーは頭を掻きながらロイツの前に飛び降りて、ゲンを顎で示す。「というか降りてきなよ」そしてゲンを振り返って言った。


「えっと――はい」降りてこいと言われても、乗る時は投げ上げられたのだ。既に降りた二人のように飛び降りるとしても、狼が立っているため結構高い。ヒッツ二人分はありそうだ。


 ……まだ自然と、“オリーブの鱗”を思い出す。それは無念のようなもので、心残りであり――



「――ッ!?」



 景色が――揺れる。目まぐるしく移り――変わる。


「だから言ったのに――ノリアが真っ先に降りたせいだからね」


「ごめんねー」


 ゲンは、狼に激しく振り落とされ。


 結果的には、降りることができた。



読んで頂きありがとうございます!


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