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「24」一日目⑬
屋敷の中で声を出すのもどうかと思うので、確証が持てるまでは黙って燈子さんを探し続けた。
正直言って、もう仕事を終えてもいい時間だった。そりゃあ何もできやしなかったが、仁義もクソも無い契約上では、もう自分は自分の部屋に戻っていい事になっている。
しかしながら、流石に何もせずに廊下を疾走し、ターゲットを逃した挙句職場のイケメン先輩(なぜか女)に激突しただけの存在を、誰が明日も雇おうと思うだろうか?
(京子さんにもだけど、まずは燈子さんに色々教えて貰わなきゃなぁ)
そんな事を考えながらふと、床を見た。
黒光りの装甲、俊敏さを物語るようなフォルム、細長い腕の先には金色の毛。
日本の触覚をぴくぴくさせながら、そいつは私の目の前でカサカサしていた。
「……」
両拳を打ち鳴らし、私は床を殴りつけた……ゴキブリは逃げた、一瞬の躊躇さえなければ確実に殺せていた!
(畜生! 鈍ってて嬉しいような嬉しくないようなぁ!)
自分が「普通」になっている事に喜びとちょっとした悔しさを抱えながら、私は屋敷の廊下を疾走した。




