姫様、町コンにいくその4「作戦開始!」
まずはある意味一番好意がハッキリしているエリカを手助けすることにした。ヌー・バッフの所に行くとヌーは筋トレをしながらまだ落ち込んでいた。
「ぬっふぅ…負けた…」
ガタイのいい男が筋トレをしながら頭を垂れて落ち込む様は少し異様に見えた。
「なんや話しかけにくいなぁ…」
グイグイいきそうなエリカも戸惑っている。
「はぁ…でもダンベルをあげる度にもりあがるあの上腕二頭筋…たまらんわぁ」
見るところはちゃんと見ているようだった。シャーロットは先程の会話からヌーの性格をだいたい分析していた。
(ヌーは自分の肉体がかなり好きな様子。多分女性から肉体を誉められたりはしたことない…落ち込んでる今なら…まぁ原因は私なんだけど…誉めて、上げていきましょう。単純そうな人間ほど落ち込んでいる時に誉められると落ちやすい…)
シャーロットはエリカにゴーサインを出す。
「エリカさん、今彼はご覧の通り落ち込んでいます」
「シャーロットはんがボコしたからなぁ」
「え?」
「ごっほん!とにかく、彼にアプローチするのなら今が一番のチャンスということです。できるだけ彼を誉めてください」
「誉める?そんなん言われるまでもないけど…声をかけるなんてウチできひんわ。失敗してまうかも…」
「大丈夫です。あなたならできますよ」
「ほ、ほうかなぁ…でもなんかレベッカはんに言われると自信と勇気が沸いてくるような気すがするわぁ」
幼い頃から王女として臣下たちや国民たちをを鼓舞し勇気づけてきた。そんなシャーロットの言葉を真正面から受けたエリカの心には勇気がふつふつと沸いていた。
「大丈夫」
「うん、うち行ってみる!」
エリカは意を決してヌーの元へ向かった。
「あの…」
「ん?」
ヌーがエリカの方を向いた。何故か先程よりも薄着になっておりタンクトップ一枚になっている。故に胸筋がより強調され、さらに女性に話しかけられたことで緊張したのか全身の筋肉に力が入った。同時にエリカの筋肉フェチにもスイッチがはいる。
「あああぁぁぁ!やっぱりえぇわぁ❤️」
反射的にヌーのそばに近寄りいきなりヌーの筋肉を触る。
「!?!?!!?!??」
ヌーは目を白黒させてさらに硬直する。遠目に見ていたシャーロットもエリカの思わぬ大胆な行動に頬を赤らめた。しばらくして我に返ったエリカはそれでも少し筋肉を愛でたあとゆっくりと手を離した。
「あら、ウチとしたことが…申し訳ありません…」
一歩引いて顔を伏せて顔を赤らめながらそれでもヌーの筋肉を視界におさめながら頭を下げる。
「い、いや、謝ることはない…」
ヌーもどうしたらいいのかわからずあたふたする。エリカは顔を上げた。そして真っ直ぐにヌーの筋肉を見つめて改めて言う。
「とてもいい筋肉ですね」
「え?」
ド直球ストレートの褒め言葉にヌーは固まる。
「その鉄板みたいな胸筋に、まるで砲弾のような両肩、腹筋なんか8つに割れてて、足は丸太みたいに太くしっかりしとる。はぁ~、初めて見たときもええと思うたけど、しっかり見るともっとええなぁ~」
さらに怒涛の褒め言葉ラッシュ。ヌーは頭から煙が出るのではないか?と思うくらい真っ赤になっている。一方のエリカは吹っ切れたのかどんどんグイグイいっている。ヌーの腕をしっかりと抱きながら。
「エリカさんはキッカケを作ってあげればいけると思ったけど、もう大丈夫ね」
エリカについては大丈夫だと思ったシャーロットは次に取りかかる。
次に行動にうつしたのはエリカの次に好意を向ける相手がハッキリしているペニー・ベネットとガンドレッド・ボルの仲を取り持つことにした。しかし少しの問題があった。ペニーはまだ成人前の10才、対してガンドレッドは見習いとはいえ21才と10以上も年が離れている。子供と大人と言ってもいいくらいの差がある。
だがペニーは真剣だ。年の差はあっても法律的に問題があるわけでもないし、商家や代々のお店などでは貴族や王族と同じくらいの年齢で婚姻を結んでいる場合も多々ある。
(ペニーもガンドレッドもとても真面目なのよね…ペニーはまだ10才とは思えないくらいしっかりした考えと目標を持っているし、ガンドレッドも口数は少ないけれど自分の仕事に真っ直ぐに向き合っているのがわかる)
ならどうするか?まずは2人が話す機会を作ることが大事だ。
「ペニー、行きましょう」
「え…う、うん」
少し不安そうにうつむきながらも一歩を踏み出すペニー、2人はガンドレッドの元へ向かう。
ガンドレッドは先程と変わらず小物を作り続けており、盾や紋章などもそこには増えていた。2人が近づいても微動だにしない。なのでシャーロットの方から声をかけた。
「ガンドレッドさん?少しいいですか?」
「…」
返事がない、かなり集中をしているようだ。邪魔するのも悪いかと思ったが、ここはお見合い会場、優先されるのは恋愛に関わることだ。ペニーはまだ少ししり込みしていたのでシャーロットが前に出る。
「ガンドレッドさん!」
「…え?あ、あぁすまん」
やっと2人に気づいたガンドレッドが手を止めて振り返る。
「俺になにか?」
「この子があなたと話をしたいらしくて、いいですか?」
「ん?」
ガンドレッドがペニーの方を向くとペニーは少しピクッとなって後ろに下がったがシャーロットが優しく背中に手を当てた。隠している王女のオーラをペニーに向けて解放する。
「大丈夫よ、あなたなら」
「…うん」
シャーロットの“王女”としての言葉をうけてペニーの心には勇気が沸いた。
「あ、あの私、あなたと話したいんです!」
「え?…あ、あぁ構わないが…」
シャーロットとは先程少し話したので慣れていたが、初対面の女性に対しては少女だろうと緊張してしまう。しかしそれは考えようによっては相手の年齢によって態度を変えないともとれる。
「改めまして、私は武器屋の娘のペニー・ベネットといいます」
「えっと、俺はガンドレッド・ボル。一応鍛冶師をやっている」
少しの沈黙。次に何を言うべきか考えているようでシャーロットは一歩引いて見守る。ペニーは少し顔を赤らめながら次の言葉を紡ぐ。
「あ、あの、ガンドレッドさん!私と婚約してくださいませんか!」
「ふぇっ!?」
予想だにしていなかった言葉にそのゴツい見た目からは想像できない声を出して目を真ん丸にするガンドレッド。ペニーは続ける。
「私は武器屋の一人娘です。いずれはお店を継ぐことも考えています。両親はそんなことを考えなくていいと言っていますが、私は両親の作ったおさあのお店が大好きなんです」
「…」
ガンドレッドは黙って話を聞いている。
「私はまだ成人していませんが、“後継を探すため”という理由で今回参加しています。そして、私が望む相手は“鍛冶師として武器などを作ることができる人”なんです」
「…なるほど、しかし俺は鍛冶師としてはまだまだ経験が足りない。それに俺くらいのレベルなら他にたくさんいるだろうに」
「そんなことはないです!」
ペニーは机に置いてあったガンドレッドが作ったアクセサリーを一つ手に取った。レーヴ・アムールの国章を型どったブローチのようだった。シャーロットも立場的に国章を型どった装飾などを目にすることがあるし、実際町の鍛冶屋に発注することもある。そんな今まで見てきた国章の中でも確かにガンドレッドの作ったものはかなりのものだった。
「私はあなたが作ったこれを見て一目惚れしたんです!ここまで緻密な造形を専門の道具なしで作れるなんて本当に素晴らしいです!」
「う、うむ、ありがとう…」
物凄く絶賛されて照れるガンドレッド。言葉に熱が入っていくにつれて無意識のうちにガンドレッドに近づいていく。しかしガンドレッドはまだ自分の技術に自信を持っていないのもあり称賛を受け止められていないようだった。
「…技量を気に入ってくれたのは嬉しい、たがそれなら婚約じゃなくても雇うという形でも…」
「ガンドレッドさん!」
ペニーがガンドレッドの手を取り至近距離からガンドレッドの目を見る。
「技量だけじゃない、私はあなたがいいんです!」
「…!!」
「小娘のバカな妄想だと思うかもしれません。でも私はあなたを一目見た時から“この人だ!”って感じたんです!」
「う…」
「私は家を継ぐと決めた時から技量を優先に考えようとしてきました。好みと技量が両立する人物なんていないと思っていましたから。でもあなたは!私にとってその両方を兼ね備えた奇跡の人なんです!」
「いや、会ったばかりで俺の事なんてわからないじゃ…」
「確かに細かいところまではわかりません…ても、私は武器屋の娘、生まれてから毎日職人が作った物を見てきています!そしてあなたが作ったこれ!」
さっき手に取った国章のアクセサリーをガンドレッドの目の前に出す。
「この国章はとても緻密で細部まで作り込まれています。この作品からはあなたが真面目で注意力が高いことが伺えます。そしてこの剣の部分の刃の出来具合、手先が器用で妥協を許さない部分が垣間見えます…そして」
ペニーの分析がどこまで正しいのかわからない。しかしペニーがガンドレッドに真正面から向かい合いたいという気持ちは伝わってくる。
「そして、なにより…」
急に声を落として俯くペニーがシャーロットも少し心配になったが、前にいるガンドレッドはさらに心配しペニーの顔を確かめようとした時、顔を上げたペニーと目があった。目は潤んで顔は真っ赤だ。ガンドレッドは目が離せなくなった。
「なにより…私にとってあなたは…本当に本当に奇跡の人なんです!だからどうか!お願いします!」
頭を下げて懇願するペニー。それを見て無意識に力が入るシャーロット。ガンドレッドは少し考え言葉をゆっくりと紡ぎ出す。
「…俺は、その…ここまで評価されたのは初めてで…嬉しい。……でも、ここに参加していておいて、だけど…恋愛というものがわからないし、多分、君に対して恋愛感情を抱いてないと…思う…年齢も離れてるし」
「…そうですか」
「……でも、君に少し興味…っていうのか?とにかく君のことをもっと知りたいと思ってもいる」
「…」
顔を上げガンドレッドの目を見る。
「俺は女心もわからないし、年も離れているし、まだまだ未熟だ。今のこの気持ちが好意になるかもわからない…今の俺には婚約なんて考えられない…だけど、そんな俺でもいいって言ってくれるのなら」
手を差し出すガンドレッド。
「お互いをちゃんと知るところから始めたい。それが恋になるのか専属の契約になるのかわからないけど、どうだろうか?」
「ぜひ!」
ペニーがガンドレッドに飛び付いた。ビクッと体を固めるガンドレッドに上目遣いであどけなさが残る笑顔で
「絶対に落としてみせるわ」
「気持ちに答えられるよう頑張ってみるよ」
恋人、とまではいかなかったが2人は一歩進んだ。そんな2人の光景を見てシャーロットは(う、うらやましぃ~)と羨ましがっていた。
(なんというか、恋愛ものの創作話の主人公2人の出会いみたい…やっぱり一般の方々のほうが出会いが起こりやすいのかしら…)
色々悶々と考えているとペンスが肩を叩いてきた。
「レベッカさん、大丈夫ですか?」
「は!!す、すいません、すぐにいきます!」
レベッカは次のカップルのところへ向かった。
3人目はハンナ・ベルル。彼女は「相手がほしい!」というよりは「相手ができた」という事実がほしい感じだった。恋愛相手を選ぶのは難しいがとりあえずの相手を選ぶのであれば適任がいる。その相手はベルク・ボルグだ。彼もそこまで乗り気ではなく同僚に言われて来たと言っていた。
(私としてはあんまりそういう感じは好きじゃないけど、恋愛に積極的じゃない人に無理矢理恋愛を押し付けるのもよくないし、仕方ないか)
ハンナとベルグは特に何かをせずストレートに合わせた。一応シャーロットも同席した。そしてお見合い、が始まったのだが…
「なるほど、ではあなたもとりあえずのお相手がほしいというわけですね」
「はい、あなたもだったんですね。では利害が一致したということで…」
話はすぐにまとまりそうになっていた。その様子を間近で見ていたシャーロットは思っていた。
(なんだか仕事の打ち合わせみたい…)
目的はそれぞれのカップルを組み合わせることではあったのだが、この2人を見ているとまるで商談みたいで少しもやっとしてしまうシャーロット。しかしシャーロットは気づいていなかった、事務的な会話をしているように見えるが実はハンナの心は本人も気づかないくらい密かにときめいていた。
さて、最後に残ったのはヴァーミリィとペンスとヤンバル、そしてシャーロットだ。
(ヴァーミリィさんは控えめな方だし、やっぱりペンスさんとくっつけるのが妥当かしら?パン屋でのお客さんからの印象もいいし)
ペンス本人の気持ちには気づかずそんなことを考えるシャーロット、その事を伝えようとヴァーミリィに近づくと向こうもシャーロットと話そうと近づいてきて軽くぶつかってしまった。その際にヴァーミリィの眼鏡が外れてしまいシャーロットは持ち前の反射神経で落ちる前にキャッチした。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「は、はい…あ、眼鏡ありがとうございます」
ヴァーミリィがシャーロットから眼鏡を受け取ろうとした時、2人の間に1人の影が割り込んできた。その影の人物はヤンバルだった。ヤンバルは流れるような動作でヴァーミリィの顎をクイッと持ち上げ顔を覗き込んだ。咄嗟のことで呆気にとられていたヴァーミリィは自分の現状に頭が追いつき一気に真っ赤になった。
「な、なな、何を…なさるんですか!?」
「…いい色だ」
「はへ?」
困惑するヴァーミリィをよそにヤンバルは触れてしまうのでは?というくらい近くまで顔を近づける。ヴァーミリィは頭が真っ白になり動けない。
「その瞳の色…先ほどまでは眼鏡のせいでよく見えなかったが、ただの黒ではないな?“吸い込まれそうな黒”というのはまさにこれだな。む?よく見ると黒だけではないな?濃い紫に深い赤のような色も…いつまで見ていても飽きないな…」
「あぅ、うぅ…」
顔を真っ赤にし、目を泳がせまくり、息すら忘れそうなヴァーミリィをさすがに放置できずシャーロットが割り込んでとりあえず引き剥がす。
「ちょ、ちょっと待ってください!とりあえず離れてください!」
「む、なんだ?」
不満そうにしぶしぶ離れるヤンバル、解放されたヴァーミリィはふぅと息を吐いて少し落ち着く。それを確認してシャーロットは話を続ける。
「突然何をするんですか!」
「ここはお見合いの場所なのだろう?だから求婚をしたのだが?」
「「求婚!?」」
「おれはその女性の瞳に一目惚れしたんだ」
聞きなれない言葉の連続攻撃に脳内の処理が追い付かずフリーズするシャーロット。
「………は!い、いや、瞳って、そこ以外は!?」
「む?ふむ…まぁ嫌いではないな」
「いや…それでいいの?」
「どういうことだ?」
「相手の一部だけが好きって…もしその部分が変わってしまったら?そうなったらどうするの?好きじゃなくなっちゃうの?」
なぜだかわからないが聞かずにはいられなかった。今までお見合いやお付き合いをした人物のほとんどはシャーロットの地位や力ばかりを求めてシャーロット自身を求めるものはあまりいなかった。
今までの3人はお互いのことをそれなりに気にかけ合っていた。しかしこの2人はヤンバルの方が一方的にしかも限定的に一目惚れをしている。他人の恋に口を挟むべきではないのは承知しているが、失恋や恋の失敗を熟知しているシャーロットは聞かずにはいられなかった。
「ふむ…」
ヤンバルは少し考え、すぐに顔をあげた。
「先がどうなるかなどわからん」
「わから…ない?」
「当然だ。こういった思いを抱いたのは初めてだからな、自分がこの先この女性に対してどういった感情を持っていくのかなどわかるはずもないだが…」
ヤンバルは一度言葉を区切りヴァーミリィの肩を掴まえ自分の方へ引き寄せる。
「“この女性を他の誰にも渡したくない”そう思っていることだけは今確かに言えることだ」
「はぅっ…」
今まで言われたことのない言葉のラッシュにヴァーミィの意識は飛びそうになる。ヤンバルは気にせず続ける。
「それに相手のいいところなど初対面でいくつも見つかるわけないだろう?これから一緒にいる時間も増えるんだ、その中で少しづつ見つけていけばいい」
ヤンバルの意志はもう揺るがないようだ。シャーロットはヴァーミィを見る。ヴァーミリィはヤンバルの腕の中でなんとか意識を保ちながら言葉を吐き出す。
「レベッカ…さん。私、この方とお付き合いして、みます。もしかしたらあくまで作品のためなのかもしれませんけど、それでも、この方の言葉に嘘はないって感じたので…」
「そう、あなたがいいなら私にもう口出しする気はないわ、その、頑張ってね!」
「ありがとうございます」
ヴァーミリィの幸福そうな笑顔を目の当たりにし、ようやく安心できたシャーロットはその場をあとにした。
複雑な気持ちではあったがあそこまでまっすぐにそして少し情熱的に求められるのは羨ましくもあった。
(普段のままでお見合いをすると“シャーロット”という名前に食いつくような人がほとんどだもの)
少し切なくなりながらもシャーロットはこれで全員の仲をとりもてた事に胸を撫で下ろした。




