ぼっちになりたいお嬢様の誕生日 2
わたしと筋肉オヤジが似ている?
女神と野獣が似ている?
庶民の感性はどうなっているんだ。
「女神唯衣様。コーヒー豆畑を守ってくださり、ありがとうございます」
イケメン!
一馬さんイケメン!
もうアレだ!!!!
膝上抱っこじゃ足りん!
抱きついていいですか!?
いや、ここは女神らしく我慢しなければならない……くっ、なんて勿体無いおあずけなんだ!!
「き、筋肉……生徒会長様が妹様のためのコーヒー豆畑を守っておられましたところへ、たまたま通りすぎただけです」
「花道の妹は僕の妹でもあります」
筋肉妹、なんて羨ましいんだ!!
「後日、改めて、お礼と一緒にプレゼントを贈らせてください」
「ありがとうございます。しかし、お礼もプレゼントも必要ありません。一馬さんがおられるだけで、年に13回ある誕生日の1日に価値が生まれましたから」
「……そうですか。残念です」
「お気になさらず」
イケメンはその存在がプレゼント。
そして欲張らないのがお嬢様であり、女神の世間体。
一馬さんからのプレゼントは欲しい。欲しいけど我慢しないと……欲しいぞ!!!!
なんとかならんのかね!
「そうですね。プレゼントを強要するわけにはいきませんから諦めます」
ノォォォォォォォオオオオ!!!!
もっと攻めてくれたら世間体を守るために貰うのにぃぃぃぃ!!
なんてこったい!
「しかし、それでは僕の気はおさまりません」
キターーーーーーーー!!!!
「僕のプレゼントを受け取らない代わりに……」
ヒャッハァ! 一馬さんからのプレゼン……んっ?
受け取らない代わりに、ですと?
「花道からのプレゼントを受け取ってください」
花道からのプレゼント?
花道とは筋肉オヤジ?
何故、筋肉オヤジがわたしに誕生日プレゼントを用意してる?
「か、一馬……」
「女神唯衣様。花道の妹も4月20日、今日が誕生日です。13回ある誕生日の4月20日だけは、妹と会いたくても会えなかった花道のために、花道の妹としてプレゼントを受け取ってはいただけませんか?」
「妹様の代わりに、ですか」
一馬さんが言うならやぶさかではない。だが、プレゼントは妹に渡すべきだ。……って筋肉オヤジ、なに泣いてんだ!?
「筋肉オヤジ……せ、生徒会長様、そんなに妹様を思っているのなら直接……」
妹に直接渡せたら涙を流していないし、一馬さんもわたしを妹の代わりにしていないな。
筋肉オヤジの家族も【黒血を継ぐ魔女】に振り回されているんだ。
一馬さんは優しいな。仕方ない。不本意だが、わたしが一肌脱いでやるか。一馬さんのために。
「生徒会長様が妹様に渡せないなら、わたくしが預かり、ひよこ先生と妹様がいるシェルターに届けます」
筋肉オヤジと筋肉妹が【黒血を継ぐ魔女】が原因で会えなくても、女神と筋肉妹なら会っても大丈夫。
筋肉オヤジ。わたしが筋肉妹にプレゼントを渡してやる。一馬さんのために。
「き、気を使わないで、くれ。俺が、俺が……」
筋肉オヤジはドリルが向けてきたハンカチを受け取り、顔を隠しながら涙を拭くと、
「妹を守れない俺が悪いんだ。俺が父さんみたいに強ければ、母さんみたいに優しければ、妹に寂しい思いをさせずにいられるのに……俺が脆弱だから。すまない」
…………。
妹が大事なんだな。
少しジーンときたぞ。
「そんなに思われている妹様は幸せですね」
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
筋肉オヤジはわたしの顔を見ると、ハンカチでは補えきれない涙を腕で隠し、立ち上がる。そして、玄関へ続く扉へと向かい、廊下に行った。たぶんトイレに泣きに行ったな。
まったく。筋肉オヤジは何かしらで泣いているな。
筋肉だけでなく涙腺も鍛えろ。
「馬鹿神。今のはファインプレイだ」
「一条……君」
「つかよお、一馬さんも馬鹿神の正体はわかってんだあ。そのバカっぷりを隠しきれてると思ってんのかあ? それこそ馬鹿神決定だぞお」
な、何を言ってますのやら。
女神はお淑やかですのことよ。
「しょ、正体と言われて……も!」
一馬さんをチラッと見ると、イケメンスマイルを綺麗に作る。
コレはさっきまでの自然なイケメンスマイルではなく、ラビット•イヤーでの営業スマイルだ。
間違いない。
バレてる!
「花道と気軽に会話する女神唯衣様の方が可愛いですよ」
ぶばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
鼻血が止まらん!!!!
「花道と会話するように僕とも会話してください」
は、は、鼻血が、と〜ま〜ら〜な〜い〜〜〜〜!
「よ、よぉ〜し!」
バレてるなら世間体も必要ないだろう。
ここは、今だからヤレる事をヤルべきだ、いや!
やらないでかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
誕生日だし!!
いいよね!?
わたしは胡座を組んでいる一馬さんの足の中で半回転すると、両手を広げて、
「か、一馬さん! プレゼントプリーズ!!」
「はい」
ギュッとされました。
イケメンの匂い!
イケメンの体温!
このイケメンめっ! たまらんぞ!
「本物の馬鹿だなあ。空菱さん。育て方を間違ったんじゃねえんすか?」
「はい。私の教育がいたらなく……」
「い、いや、自分の責任に感じないでくださいね。アレは遺伝的な感じで、誰が育てても馬鹿になる的な感じなんで」
「一条さんが珍しく気を使ってますわ」
「八王子よお、自分が15年間育てた子供があんな馬鹿だったら、毎日毎時間毎分どこで間違えたのか自問自答しちまうだろうがあ。つかよお、空菱さんの名誉のために聞くけど、この馬鹿ぷりは間違いなく両親の遺伝なんだろ?」
「唯衣ちゃんは見た目は奥様似ですが、中身は総帥似ですわ」
「世界が終わってねえのは八王子のオヤジさんがいるからだなあ。……あぁ〜、トリップタイム終了だあ」
さすがイケメンだ!
いい匂いだ!
コーヒーの匂いというのが良い!
それに胸板もあるし意外とがっしりしてる!
腹筋なんてチョコモナカジャーーン…………ボ?
ガシッ。
頭を鷲掴みされたぞ。
一馬さんたら意外と大胆なんだ……から?
「何をしている」
「き、筋肉オヤジ」
は〜な〜せ〜よ〜。
「一馬。甘やかすな」
あ〜ま〜え〜た〜い〜。
「妹って可愛いな」
「ま、まぁ……そうだな」
筋肉オヤジに頭を鷲掴みされたわたしは、一馬さんハグから強制的に離され、そのまま向かい側へと連れられる。元の席、ドリルの隣に置かれる。
「一馬には彼女がいる」
「知ってるよ」
「イケメンとの関係性は芸術観賞と同じではなかったのか?」
「見て、嗅いで、触る。それが真の芸術観賞。筋肉もそうだろ」
「……なるほど一理ある」
「おい、ダンナ。なるほどじゃねえよ」
正当だろ!
「芸術観賞は、現物に所有者がいる場合は見て嗅ぐ事はできても許可がないと触れねえ。一馬さんには彼女つう所有者がいるんだあ。馬鹿神みてえな馬鹿女が馬鹿見•馬鹿嗅ぎ•馬鹿触りしているのを彼女が知ったら、気持ち的に割り切れねえだろうがあ」
「そ、そうだな」
「筋肉オヤジ。わたしは一馬さんの妹だ。彼女がいても、妹が兄に抱きつくのは有りだろ」
「有りだ!!!!」
「一条。有りだ!!!!」
妹なら有りだ!
妹なら有りなんだ!!
「ねえよ」
「一条。俺は、妹は森羅万象を超越する時があると思う」
「皆無だ。森羅万象どころか馬鹿を超越しちまって神格化してんじゃねえか」
「一条。わたしは一人寂しい唯我独尊なのだ。……兄、一馬さんに甘えるぐらい多めに見ろ」
「唯我独尊を天涯孤独と勘違いしているところ悪いけどよお、 唯我独尊は自分一人が特別にすぐれていると、うぬぼれることだあ。もしくは、世の中で自分ほどえらいものはねえと、うぬぼれることだなあ。唯我独尊は、うぬぼれっぷりがハンパねえ馬鹿神そのままの言葉なんだあ、覚えておけえ」
「唯衣お嬢様は馬鹿なのですか?」
「!!?」
どS教育係様が怒りオーラを出している!!
「そ、空菱、馬鹿では、ありません。馬や鹿のように、脱兎の如く逃げる事から、褒め言葉の馬鹿です」
「馬鹿神。馬と鹿なのに、兎みたいに逃げるのか?」
「空菱! あ、新しい、たたたた誕生日なので、は、は、は、ハメを外しただけです!」
「誕生日なのに、先ほどから人参を食べておられませんが?」
バク!
バクバクバクバクバクバクバク!
バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク!
「モグモグモグ」
人参、食べてますよ……。
うえっ……ぷ。
逆流してくるけど……ゴクン。
食べてますよ……。
「花道様。唯衣お嬢様はプレゼントをお待ちです」
「筋肉オヤジからわたしにプレゼント?」
「はい?」
「!!!!」
おうおうおうおう!
そういえば妹がどうこうだの、プレゼントだの言ってましたね! でも、プレゼントはわたしのではなく妹のですからね!
「お、俺の父親と、母親が選んでくれたんだ。大事に、してくれ」
だからわたしのではなく、妹の……まぁいいか。
筋肉オヤジは二つの箱をわたしに向けてくる。
筋肉オヤジのデカイ手で箱のサイズがおかしく見える。
デカイ左手にあるのは、赤色のリボンを結んである大きさがティッシュ箱ぐらいの箱。
デカイ右手にあるのは、青色のリボンを結んである大きさが庶民生徒の机ぐらいある平たい箱。
わたしは平たい箱を受け取る。筋肉オヤジは小さな箱を平たい箱に乗せた。
箱の重量は2箱で人参三本分ぐらいだ。軽い。
まさかの人参か……?
「プレゼントは人参か?」
「人参ではない、と思う」
「思うって筋肉オヤジは……いや、【黒血を継ぐ魔女】がストーカーしてるから一緒に買いに行けないな」
「赤い方が父親、青い方が母親だ」
妹へのプレゼントを開けていいものか?
筋肉オヤジはわたしにくれる感じに言ってるけど、妹に渡すべきだ。
この場では開けて、後から綺麗に包装紙を戻して……ビリビリビリビリと筋肉妹に渡せば…………ってコラァァァァァァ!
ドリル! 包装紙を破くなぁぁぁぁぁぁ!
お前どんな神経してんの!?
バカバカバカ、リボンにひかかってそれ以上破けないって!
ドリルの強行を止めるために、赤い箱に結んであるリボンを解いて無残な包装紙を取る。原っぱの風景が装飾された木箱が出てきた。さて、どうしようか? と考えていたら、ドリルが木箱を破戒しかねない。包装紙やリボンに変えはあっても木箱に変えはないのだ。ドリルは危険だ。
わたしは蓋を開ける。中には金と銀で装飾された、
「ライオンのブローチ?」
「ワタクシが見たところ、10000億円の価値はありますわ」
ドリル、そんな桁は無い。
それとも1兆円のつもりで言ったのか?
だとしても、そこまで価値があるとは思えないぞ。かと言って安物でもないな。
んっ?
このブローチ……、
「わたしのロケットと同じ装飾だ!」
わたしは首にぶら下げてあるライオンのロケットを服の中から出して、見比べる。
「同じだ」
「唯衣ちゃん。まるで同じ人がプレゼントしたみたいに同じですわ」
「同じ人がプレゼント? まさか筋肉オヤジの父親は……いや、まさかな」
「お、俺の、父親が、なんだ?」
「いや、違うと思うんだけど……」
「「「…………」」」
「職人なのか?」
「…………そ、そんな感じだ」
「【黒血を継ぐ魔女】に狙われる職人か。なるほど……筋肉オヤジの父親に何かを作らせようとして断られたから、脅して作らせようとしているんだな」
ライオンのブローチをテーブルに置いて青い箱に手を伸ばす。
ドリルが包装紙を狙っている。
破く範囲が広いからな。だが、この包装紙は破かせないぞ。
リボンを解いて包装紙を取り、蓋を開く。
「服?」
青い箱に入っていたのは、胸元に淡いピンク色の大きなリボンがある白色のワンピース。
「唯衣ちゃん。ブローチを胸元のリボンに付けられますわ」
「ブローチとワンピースでワンセットのプレゼントだー。まるで娘にプレゼントしているようだー」
一条。何かの台本を棒読みしているのか?
そもそも、このプレゼントはわたしのではなく、筋肉妹のだ。娘へのプレゼントで間違いない。コレは、筋肉妹のだ。
「ひよこちゃん。妹のシェルターはどこにあるんだ?」
「先生は妹さん用のプレゼントを預かっていました〜。すでに妹さんへ渡してま〜す」
…………すでに渡してある、か。
「そうか……コレは、わたし用のプレゼントか」
「き、気に入らなかったか?」
「……気に入らない?」
「どうしたんだ? やっぱりゲームとかの方が……」
「いや……違う。その、アレだ、ワンピースを着る機会が無いからブローチを付ける事もない。寝巻きにしかできないから、両親に……悪い気がする」
わたしの行動範囲は家と学校そしてラビット•イヤーのみ。
レンタル店に行っただけで暴漢が現れるのだ。
わたしがおとなしくしていなかったから、これからは【黒血を継ぐ魔女】をもっと警戒しないとならない。
悪い事をしたな。
「寝巻きでも、着てくれるだけで父さんと母さんは喜ぶ。そうだ、バルコニーは広いんだから散歩できる! 弾丸が怖いなら俺が壁になる! だから……」
「何言ってんだあ。ワンピースを着て遊びに行く場所なんていくらでもあんだろうがあ」
「一条。わたしの行動範囲は学校、ラビット•イヤー、家だ。レンタル店に行っただけで暴漢が現れたのを忘れたのか?」
「そういえば馬鹿神がレンタル店に来たから暴漢が現れたつう設定だったなあ。残念だかなあ、アレは馬鹿神でなく俺を狙ってたんだあ」
一条を狙っていた?
何を言ってるんだ?
「いや、アレはわたしを狙っていた」
「そんならよお、暴漢はナイフと自動拳銃を所持していたけど、最初に出したのはなんだったあ?」
「ナイフだ」
「馬鹿神はレンタル店に来店する前からガラスに覆われた椅子に座ってたんだからよお、どんな馬鹿でも『最初から自動拳銃を使う』だろうがあ。そもそもよお、あの程度の暴漢を空菱さんが見逃すと思うのかあ?」
空菱は常にわたしの近くにいる。
暴漢がわたしを狙っていたとしたら、わたしの前に現れる前に空菱は倒している。
わたしは空菱を見る。空菱は頷きで一条を肯定した。
「……でも、暗殺者がいないわけじゃない。どのみち行動範囲を変えられない」
「馬鹿神の行動範囲つうと……」
一条はタブレット式携帯情報端末を出して画面に指を付ける。何度かタッチしスライドすると、
「家に学校にラビット•イヤー。それ以外は、宇宙ステーションに月の裏側……? 馬鹿じゃねえの。地球は……ここら辺か、人工島にバベルの塔建造中カッコ見学可能カッコ閉じる。……さすが馬鹿神だ、意味わかんねえモンが多いな」
「一条、安心してくれ。馬鹿親の仕業だ。わたしも意味がわからない」
「馬鹿神の親は馬鹿神以上の馬鹿だな。近所だと、沖でパークってる『馬鹿神!』が所有してる空母に……」
強調するな。
宇宙ステーションや月の裏側よりマシだ。
「山の中の要塞……?」
「それはわたしの所有物ではないぞ」
「この山の中の要塞には人工の海や遊園地、サファリパークに水族館、畑や牧場まであるみてえだあ。おっ、F1のコースもあんぞ。しかもモナコじゃねえか」
「唯衣ちゃん。海水浴に遊園地のジェットコースター、世界一の椅子でレースもできますわ。飽きたら赤竜と白竜で焼き尽くせばいいですわ」
1000年は籠城できる山の中の要塞がある、と空菱に聞いた時は、1000年も籠城できるならそれは要塞ではなく1つの世界だと内心で笑った。
山の中の要塞なら遊びに行ける。
わたしがワンピースを着られる場所は山の中の要塞しかないとわかっている。
でも、遊びに行くのはわたしじゃない。
「とりあえずよお、遊べる所はあるつうわけだあ。焼き尽くすにしても、遊ぶにしても、ゴールデンウィークにでも行ってみるかあ?」
お嬢様は、女神は、庶民に譲歩しないとならない。
だから、わたしは決めていた。ゴールデンウィークに山の中の要塞、ネバーランドへ遊びに行くのは、
「わたしは行かない。とりあえず、ドリルと一条はあの三人……幼稚園の時から付きまとっている庶民三人衆やクラスの連中を連れて行ってやれ。【黒血を継ぐ魔女】や暗殺者に狙われていたら周りに迷惑かけるし、迷惑料の前払いだ。ひとクラスの生徒が行くから引率にひよこちゃん……は見た目がPTAに説得力ないから筋肉オヤジが引率だ。なんなら筋肉オヤジの友達や迷惑かけている連中を連れて行け。上に立つ人間なら、庶民に譲歩し、労ってやらないとならないからな」
「なんで一緒に行こうとしないんだ?」
「筋肉オヤジ。わたしは女神だ。庶民なんかと行動を共にしない。そもそも、わたしがいる事でお嬢様の世界になる日常から、唯一当たり前の日常を過ごせるのが連休。庶民に譲歩するわたしは、全ての連休を庶民が譲歩する日と決めている。もちろん、従者や護衛も例外ではない。という事で、女神なわたしはラビット•イヤーで贅沢な毎日を過ごす」
わたしはぼっちになりたいお嬢様。
女神になった今もソレは変わらない。
山の中の要塞は安全だし、わたしが一緒に行っても支障はないと思う。
でも、わたしが女神オーディンになっただけでクラスの大半がファンタジー世界の住民になり、食堂ではやらなくてもいい喧嘩までした。
クラスの大半は庶民三人衆みたいに、わたしのためなら命を無駄にするという事だ。
バカだ。
そんなのわたしは嬉しくない。
そんな庶民だから、わたしが一緒に行ったら、その気持ちを更に強くしてしまう。
わたしは筋肉オヤジみたいに、全てを守る、とできない事を口にしない。
わたしは、
ぼっちになる事で、
全てを守りたい女神だから。
「何言ってんだあ?」
「一条。わたしにはわたしの事情がある。それだけだ」
「護衛さんはんなもんどうでもいいんだあ。【黒血を継ぐ魔女】が最大レベルの警戒をしとけと言ってきてんだからよお、連休つう庶民がいなくて遠慮なしに狙える期間は、護衛として安全な場所に連れて行かねえとならねえんだあ」
「尚更だ。わたしは行かない。安全な場所なら家がある。一馬さんに出張してもらう」
「つか、ダンナよお、一緒に行こうとしねえんだ? ではなく、馬鹿は何言っても言うこと聞かねえんだから、強制的にでも連れて行くんだよ」
「強制的に……?」
筋肉オヤジの疑問符に苛立ちを見せた一条は、わたしの頭に向けるように顎先をクイと吊り上げる。
すると、横からガシッと、筋肉オヤジのデカい手がわたしの頭を鷲掴みした。
「……離せよ」
「離さない」
なんとなくわかっていた。
確信は無かったけど、きっとそうなんじゃないかと思っていた。
わたしはこのデカい手を知っている。
「……妹と、行けよ」
「妹と行きたいな」
「ひよこちゃんなら……【黒血を継ぐ魔女】や暗殺者の目を盗んで、シェルターから、山の中の要塞に連れて行けるだろ」
「そうだな」
「……だったら、妹を、連れて行け」
わたしの嫌いな消毒液の匂いがする光の世界で、大きな手と優しい手と小さい手がわたしの頭を撫でてくれた。
「か、一馬の妹なら、お、俺の妹でも、ある」
「……ははは、筋肉オヤジがわたしの兄貴か……」
「一馬は兄貴でいいから俺の事はお兄ちゃんと呼べ」
「断固断る!!!!」
「妹なら遠慮するな!!」
「遠慮じゃねぇよ! テメェの妹なんて遺伝子から拒絶する!! 離せ!!!」
「離さん!!」
「ぶっ殺すぞ、筋肉兄貴!!」
「やれるものならやってみろ、馬鹿妹!!」
光の世界は夢の中だけど、わたしを守りたいと力強く伝えてくれた小さい手は、全てを守りたいと言い張るデカい手と同じ。
夢は現実になれば正夢だけど、
現実が夢になったなら、
それはわたしの夢だ。
留年生は留年生の留年生! 完結!!
となります。
お嬢様視点12万字、御曹司視点8万字、約20万文字の拙い文章、物語にお付き合いいただきましてありがとうございます。
あらすじの内容での完結という形になります。
読後感が……とか、アレは伏線ではなかったのか? とか、あると思います。例えば——
お嬢様の両親やドリルパパは?
【黒血を継ぐ魔女】のプレゼントは?
ひよこちゃんの年齢やお嬢様の母親との関係そして【黒尻】の意味は?
掘ればまだまだありますね。
この場に書いている時点で、確信犯です。意地悪ではない、と御理解いただけたら幸いです。
最後にお嬢様が花道を兄だと気づいたのか? となっている読者さんがいると思います。作者としては『その点』は読者の皆様の想像にお任せします、という形にしてます。
ヒューマンドラマとして読めたでしょうか?
温かい感想、過大な評価、一言レビュー、パイオツカイデーなドリルのイラストなどなど、お待ちしております。
留年生は留年生の留年生! をご贔屓にしていただきましてありがとうございます。——感謝!




