ぼっちになりたいお嬢様の誕生日 1
今日はわたしの記念日だ。
毎年、わたしの記念日として豪華な料理が並び、花菱じいちゃんと空菱からプレゼントを貰える。
記念日なのだ。
今日は記念日なのだ。
なのに、テーブルの上がヒャッハァしてる!!!!
原型の人参がテカテカの生クリームに埋もれている姿は、橙色の三角屋根と滑らかな白壁で造形された中世ヨーロッパ風の王城を思わせる。その周りには橙色のオベリスクという名の人参スティックが規則正しく並ぶ。
記念日ケーキのつもりか!?
人参城から横に視線を移すと優美なフェニックスが大皿に乗ってあるのだが、繊細に細工された鶏冠や羽根は言うまでもなく人参。フェニックスは不死なため、鳥の丸焼きにされても復活したという事か?
肉、肉、肉、魚の豪華な料理はどこに行った!?
そして逆側には、サーモン? と期待値を上げる寿司がある、が言うまでもなく人参が乗っているだけの酢飯だ。
人参以外のバリエーションもほしい!!
コレはなんなんだ。
どSにもほどがあるだろ。
人参の野菜スティックは許せる。だが、針山みたいに積み上げた人参に生クリームを塗りたくり、脂が滴る鳥の丸焼きに人参でデコレーションし、酢飯に人参を乗せる執拗さは暴挙に等しい。
どS教育係様、ケーキ•鳥の丸焼き•寿司への冒涜ですよ。
そして、わたしの記念日にわたしの嫌いな人参をヒャッハァさせるのは家主への謀反、下克上ですか?
「そ、空菱。橙色が多い気がしますが?」
「今日はお嬢様の誕生日でございますので、ご用意いたしました」
「そ、そうなんだ。…………誕生日だと!?」
今日は誕生日ではなく、記念日。教育係様は勘違いをしている!!
「1月1日、2月14日、3月14日、4月15日……12月まで、わたしの誕生日は月に一回ありますが、4月の誕生日はすでに終わらせたはず。今日は……」
「はい。今日はお嬢様のインディペンデンスデイでしたが、人参教がフィールドの支配に向けて動き始めましたので、今年から、4月は誕生日が2回になります」
4月の誕生日が2回になるとは……。
それよりも、とうとう人参教が動き出したか。4月だけ誕生日を2回にして足りるだろうか?
「どおりで人参が多いわけだ。空菱、4月だけ2回で足りますか?」
「はい。もしかしたら2月、9月、12月も2回になるかもしれません」
2月と12月という冬の時期に誕生日を増やすほどとは……人参教、本気だな。
「ドリル。二代目お嬢様になったからには、ドリルの誕生日も人参を大量に消費してもらうぞ」
「精進しますわ」
「うむ」
ドリルの誕生日は年に1回しかない。ドリルの誕生日を増やしたいが、ヨチヨチ歩きのお嬢様では人参教の脅威に倒される可能性がある。
しかし、人参教が動き出したからには、ドリルの成長を悠長に見ているわけにはいかない。
「八王子よお、馬鹿神はぶつぶつと言ってんけど、ツッコミを入れた方がいいのかあ?」
「唯衣ちゃんは帝王の頃から、誕生日には人参教を潰すために闘っておられますわ」
「いやいや、俺はこの家に来る度に人参しか見てねえよお。どう考えても、理由付けて嫌いな人参を食わしてるだけだろお。それに人参教ってなんだあ? 騙されやすいにもほどがあんぞお」
「一条。好き嫌いとかそういう次元ではない。農家の元締め|ジュン•アライが言っていたんだ」
「かなり際どいワードが出てきやがった。発言に気をつけろよお」
「ジュン•アライ、またの名をJAは言った」
「ジャパン•アグリカルチュラル•コーポラティブスのJAとは一切関係無い、農家の元締めジュン•アライまたの名をJAはなんて言ったんだあ?」
「毎年、同じ所に同じ野菜を植えられないのは、人参教が農家に人参を作らせるためだ、と」
「ジュン•アライに会った時でいいから連作障害と抵抗性品種つうのを教えてもらえ」
「人参教が動き出した今、勢力を拡大するのは自明の人参。わたしは365日が誕生日になっても、人参教から地球を救う!!!!」
わたしに誕生日を祝っている暇はない!
「一条。人参を大量に消費し、人参教の力を弱らせ、人参教を潰さないと、わたしに誕生日を祝える日は無い! お前の誕生日も人参だ!!」
「なるほど。人参を食って地球を救うのか。たしかに生産量が増えれば経済的に救うものはあるな」
「わたしは人参が嫌いだ。だが、食が脅かされているんだ! 嫌いでも食うしかないだろ!」
「食が脅かされているのに食うしかないとは、とんでもない矛盾だな」
「人参教恐るべし!」
「俺は馬鹿神のバカっぷりが恐ろしいぞお」
一条には危機感が無い!!
「人参教を甘く見るな!」
「人参は甘いモンだろ」
「人参教は食を脅かす存在なんだ! 一条は100本だ!」
「姫さんじゃねえんだからそんなに食えねえよ。……」
一条はわたしの言葉を適当に流して後ろを見る。
「ちゃんと聞け! 人参教は……」
「よう、ダンナ。とりあえず頭から湯気出してる馬鹿神をどうにかしてくれ」
んっ!?
筋肉オヤジ?
「筋肉オヤジ! 人参教を滅ぼすのを手伝え!」
「いや、その、空菱さんに入ってもいいと言われのだが……良かったのかお邪魔しても……?」
むむっ!
筋肉オヤジの後ろで豪奢な黒ドレスを着た人形を抱くイケメンは……!
「一馬さん! ドリ、八王子様、お座布団をご用意す……してください」
「ご用意してありますわ」
「もっとデケェ……もう少し一馬さんに相応しい座布団があったと思いましたが?」
「座椅子をお願いしま〜す」
…………?
人形が喋ったぞ。
「ドリ、八王子様。一馬さんの手荷物をお預かりし、わたくしの正面に座らしてください」
イケメンは真正面から見るに限る。
「閣下はどちらにお座りになればよろしいですか?」
筋肉オヤジは……。
そういえば!?
筋肉オヤジは大量に食べる!
そしてわたしの前には大量の人参!
筋肉オヤジに食わせればいい!
「生徒会長様はわたくしの隣です」
人参処理係確保〜。鳥の丸焼きGETだぜ!
「閣下。唯衣ちゃんのお隣へ」
「いや、お、俺は……」
「筋肉オヤ……生徒会長様、とっととここに座りやがれです」
「わ、わかった」
筋肉オヤジは遠慮がちに隣に来ると、わたしを挟むようにドリルも座る。
一馬さんは人形を抱いたまま一条の隣、ドリルが座っていたわたしの正面に座る。
「一馬さん。人形は……」
「アルテミス先生は人形ではありませ〜ん」
「……? 最近の人形は人工知能搭載なのですね」
「姫さん。厚化粧してんから人形にしか見えねえけどよお、ひよこちゃんだあ」
「…………ひよこ、ちゃん?」
………………だ
…………れ
……に
「抱かれてんだコラ! 教師なら生徒にその場所を譲れ!」
「アルテミス先生は座椅子があれば……」
間髪入れず、わたしは座っていた座椅子を一馬さんの横に置く。
「ひよこちゃん。座椅子へGO」
「先生からの誕生日プレゼントで〜す」
ひよこちゃんはピョンと一馬さんの腕の中から座椅子に移る。
「ありがとうございま〜す」
わたしは胡座をかく一馬さんの足の上に座る。
ヒャッハァ、座り心地最高!!!!
「か、一馬。悪いな」
「なにがだ?」
「いや、迷惑でないならいいんだ」
「俺は姉貴と弟はいるけど妹はいないからな。なんか妹ができたみたいで嬉しいよ」
一馬さんの妹になります!
「わたくしは親兄弟いませんから一馬さんの妹になります」
「ははは、俺なんかより花道の方が兄ちゃんに相応しいよ」
「相応しいかはわかりませんが、そっくりですわ」
「相応しいもなにも、馬鹿神の兄貴になれるバカはダンナぐらいだろお」
んなわけねえよ!
「ご冗談を。似ても似つかぬカッコウとモズ」
「困った時に目元を引き攣らす癖が一緒ですわ」
「似ても似つかぬ鳶と鷹」
「引き攣ってんぞお」
「似てますわ」
「引き攣ってねえし、似てねえよ! お前らは人参食ってろ! わたしはイケメンオーラを吸収するのに忙しいんだ!」




