ぼっちになりたいお嬢様には理解不能な暗殺者のこだわり
「ひよこちゃんと筋肉オヤジが【黒血を継ぐ魔女】を逃してるぞ! なにをやってるんだ!!」
「十年来の友人とまた会いましょうという感じですわ」
「いやいや。目的の相違でお互いに闘う理由が無くなっただけだろ」
「どういう事だ!?」
意味がわからないぞ!
「暗殺者つうのはよお。腕がある連中に限ってこだわりつうか理念つうのがあんのよなあ。世界2位ともなるとその辺も普通の暗殺者とは違うんじゃねえかなあ」
「なんだそれ?」
「姫さんやひよこちゃんにしか【黒血を継ぐ魔女】の事を聞いてねえから俺の予想になるけどよお。【黒血を継ぐ魔女】は姫さんの目の前で庶民をいたぶったり、ダンナの前で妹の好きなコーヒーを作るためのコーヒー豆畑をどうにかしようとしたりしたんだろお? それは姫さんやダンナを精神的に痛めつけて『次は姫さんやダンナの番だ』つうのを2人の父親にメッセージとして送っているわけだあ。俺が思うに【黒血を継ぐ魔女】のこだわりはターゲット、この場合は矛盾に聞こえるかもしんねえけど『2人の父親を2人と接触させない』つう『子供に会いたい親心を執拗にいたぶる』だと俺は思うんだあ」
「【黒血を継ぐ魔女】は死ではなくターゲットの精神を弄ぶ暗殺者ですわ」
ターゲットの精神を弄ぶ。
それはわかっている。
だからこそ……、
「ひよこちゃんや筋肉オヤジが【黒血を継ぐ魔女】を逃す理由にはならないだろ!」
「ひよこちゃんはダンナの親から妹を守る分のお金しかもらってねえと言ってただろお。ダンナの方は【黒血を継ぐ魔女】からコーヒー豆畑を守れればいいし、撤退してくれるなら闘う理由はねえんだわなあ」
「そうですわね」
「いやいや違うだろ。ぶっ殺すか監禁しないとまた来るだろ!」
「ぶっ殺せんなら15年前にひよこちゃんが殺ってるだろうがあ。ダンナに関しちゃ守りに特化しすぎて【黒血を継ぐ魔女】の早さについて行けねえよ」
この場だけの平和的解決ということか?
せっかくパンツ一丁にしたのに、納得いかん!
それに……、
「【黒血を継ぐ魔女】にはコーヒー豆畑を燃やす仕事があるだろ!? こだわってるならバイバ〜イなんてしないで燃やすだろ!」
「誰かさんが誰かさんのためのコーヒー豆畑を荒してくれたんだあ、こだわっていたらヤル気が失せるっつうの」
「意味わからん!」
「わかる時が来たら楽しみだあつう話だあ」
こだわりってなんなんだ!
まったくわからん!
理解できん!
「もういい!」
わたしは踵を返して窓、出入口に向かう。
「唯衣ちゃん。今回の闘いをスレイプニルの目から撮影しておりますの。想定外の反省と対策を練りますか?」
「当たり前だ! ひよこちゃんと筋肉オヤジが使えない以上、【黒血を継ぐ魔女】はわたし達で強姦してやるんだ!」
「発言に気をつけろお。どっちが悪だかわかんなくなんぞお」
「大口径弾やレールガンをククリ刀で弾いてガトリング砲を躱すようなビッチだぞ! 悪魔と契約してないとあんな芸当はできん!」
「なるほどなあ。閃光弾と煙玉の中でククリ刀を八王子へ投げてきた時は、八王子死んだなあ、と思ったし、あんな状況で的確に投げてくるつうのは悪魔の目がねえと無理だあ」
どういうことだ?
ドリルが死にそうだったのか?
「何それ?」
「一応よお、躱すつもりでスレイプニルの手綱を引いたけど、ひよこちゃんが黄色チョークでククリ刀を撃ち落としてくれなかったら、八王子の背中にぶっすりだったなあ」
「キィンと音がしましたがククリ刀を撃ち落とした音でしたのね。ほほほ」
「笑い事じゃねえよ!」
大問題じゃねえか!
「ドリル! 世界一の椅子の完全防御という看板を下ろさないとならないぞ!?」
「先生が撃ち落とさなくとも、スレイプニルならポニーテールで防いでおりましたわ」
「どうだかなあ。俺的には、【黒血を継ぐ魔女】と互角にやり合えるひよこちゃんが『世界一の椅子にある防御機能では防げない』と判断したから、チョークで撃ち落としたんだと思うけどなあ」
「確かに……ひよこ卿がそう判断されたのなら、絶対防御の懸念材料になりますわね。唯衣ちゃん、申し訳ありません」
「ドリル、気にするな。スレイプニルバージョンに隙があるのをわかっただけでも大収穫だ」
そもそも、ドリルは悪くない。
「わたしがスレイプニルに火力と防御と飛行を求めた結果だ。火力は火力、防御は防御、飛行は飛行と……いや、防御と飛行を……いや、なんかパッとしないな」
「唯衣ちゃん、どうされました?」
「汎用型のスレイプニルとは別に特化型のドラゴン、バハムート計画を……」
「馬鹿神。バハムートはドラゴンではなく怪獣、もしくは大魚だからなあ」
「なにぃ!!? ドリル、バハムートはドラゴンだろ!? 嘘を言ったのか!?」
「バハムートはドラゴンですわ」
バハムートが魚でたまるかぁ!
ドラゴンだからかっこいいんだ!!
一条の嘘つき悪人顔!!!
「ちげぇよ。ドラゴン型のバハムートはアメリカ産のゲームの中で生まれたもんだあ。本来のバハムートはヨブ記に出てくる大地を支える怪獣、ベヒモスと同一にされてんだあ。違う所では海の怪獣レヴィアタンの属性が混じってるつう事で大魚になってんだわなあ。馬鹿神がドラゴン型のバハムートを現実に作っちまったら、著作権の侵害でアメリカ産と日本産のバハムートに焼かれんぞ」
「女神や帝王であろうとも新しいモノを生み出した者の権利、著作権は尊重しないとならない。ドリル、ドラゴン型バハムートがパクリになるなら、進めていたバハムート計画は中止にするしかない」
「進めていたのかよ」
「北欧神話のオーディンやスレイプニルは大丈夫でしたので、バハムートを赤く塗り、ウェールズの伝承にある赤竜という事にすれば著作権の侵害になりませんわ」
「バハムートを赤く塗れば赤竜になる、か。確かに赤竜になるな。…………一条、有りか?」
「そんなもんバハムートを赤く塗っただけだと言われんだろうが。ウェールズの伝承だとつっぱねるなら、赤竜だけでなく白竜も作んねえとならねえよ」
「楽勝。特化型の赤竜と白竜、そして汎用型のスレイプニル。完璧だな。一条は赤、ドリルは白でいいか?」
「何わけわかんねえこと言ってんだあ。護衛が要人から離れて闘うなんて本末転倒だろうが。竜は遠隔操作にしねえと護衛として外出させねえからなあ」




