↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/49

全てを守りたい御曹司の油断

 空菱さんは昼休憩に備えて学生食堂へ見回りに行き、花菱さんは気配を消して妹と八王子が教室から出てくるのを待っている。


 妹は食事をどうするのだろう。

 ラビット•イヤーに行きそうだな。

 だが、ラビット•イヤーには【黒血を継ぐ魔女】がいる。

 高等部は朝日ヶ丘大学の一部署なため昼休憩に外食禁止という校則は無いが、なるべく学校内にいてほしい。


 半強制的に妹を学生食堂に連れて来た。

 だが、妹は自分がいる事で周りに迷惑をかけると言って学生食堂では食事をしようとしなかったが、防弾ガラスや調理場を点検する事で納得し、食事の注文をしてくれた。

 妹よ。学生食堂の食事は美味いぞ。


 それに窓際席から見る景色が良い。

 ここは、たまにしか集まる事ができない生徒会役員が昼食会議をする場所だった。

 今は、生徒会を少数精鋭にして1人1人に責任を背負わせる事で、昼食会議の場を人付き合いが苦手な妹や生徒のための場所にした。もし、人付き合いが苦手な生徒がいた時、妹も一緒に悩んでくれたら嬉しいな。

 いつかそんな日が……んっ?


 一条がトレイだけ持って学生食堂内を彷徨いている。もしかして、カウンターで注文するのを知らないのか?

 教えに行くとするか……なっ!?

 一条の元へ行こうとしたら、一条の手が他の生徒のトレイに伸びてサバの味噌煮が乗った皿を盗る。


 何をやっとるんだ!


 盗られた生徒は一条に皿を盗られたのに気づいていない。どうやら妹へ悪意ある威圧感を向けるのに勤しんでいるため、気づかないようだ。

 一条はサバの味噌煮だけでは足りず、妹に悪意を向ける生徒と同じテーブルを囲う者達から、次々と皿を盗っていく。

 どうやら反新垣派からご飯をいただいてるようだ。

 気配を消して皿を盗る。ただそれだけの行為だが、実力差がないとできない芸当だ。もし『不届きな庶民を懲らしめろ』と妹に言われたら、一条は思いのままに生殺与奪できる事を意味する。

 護衛は雇い主を傍で守るだけではない。害ある者や物を前以て排除するのも、護衛の仕事だ。例を出せば、空菱さんは妹が向かう所に先回りして安全確認し、害があれば排除している。花菱さんみたいに直接守るだけが護衛ではないのだ。一条はソレをわかっている。

 雇い主に悪意を向ける者から皿を盗る、という行為は、生徒会長としては見過ごせない。だが、一条に注意すれば悪意ある生徒を排除するだろう。

 それに、妹が選んだ護衛が、護衛としての行為を反新垣派に加えたら、新垣派の導火線に火がつき、先日のような抗争になりかねない。

 注意したくても注意できない。

 皿を盗られた生徒には申し訳ないが、ぬらりひょん一条に化かされたと思ってもらうしかない。


 食事代を浮かせた一条がこちらへやってくる。

 椅子に座り、一言二言交わして、妹に安心感を与えてくれる。


「それではワタクシも」


 八王子、何をやる気だ?


 八王子は胸元から扇子を出すと、そのまま天井に向ける。すると、周囲にいる新垣派の生徒が一斉に立ち上がる。

 枡田、麻生、部活連の部長や委員会の委員長を筆頭に、妹への悪意を呑み込むように反新垣へ威圧を向ける。

 学生食堂内に一触即発の空気が流れる。

 どうやら反省していないのは八王子だけではなかったようだ。

 今回は妹がみんなに感謝してそうな表情してるから許すが……!


「……〜」

(また、そんな顔を……)


 妹の表情が嬉しさを悔やむように哀しさへ変わった。

 おそらく、自分の気持ちを表に出せば犠牲者が生まれる、と思ったのだろう。

 枡田や麻生含めて新垣派の上級生は弱くない。妹と関わる一条が【黒血を継ぐ魔女】に試されたように、俺と関わる事で実践さながらに鍛えられている。

 大丈夫だ。コイツらは大丈夫なんだ。と妹に教えてやりたい。だが、妹は、守られる事を、犠牲者が生まれる事を、望んでいない。


 俺の目から涙が出ていた。

 涙もろくなってるな。情けない。


(んっ?)


 ふと、外からのチカチカした光が視界に入る。

 その瞬間、俺の筋肉は脳からの伝達よりも早く動き出した。


 ドンッドンッ————


 筋肉解放と同時に脳内も活性。

 チカチカした光から撃ち出されたであろう大口径弾が見える。一弾目の軌道と同じ軌道で二弾目が追っている。なんという荒技。考えるまでもなく、一流の狙撃手の所業だ。

 当たり前だが、暴漢でも狙える、と思ったのは学校内にいる反新垣派だけではなかったようだ。


 ズガンッ!


 一弾目は防弾ガラスが防ぐ。

 しかし、大口径弾は防弾ガラスを突き抜けてはいないだけで、防弾ガラスのダメージは大きい。二弾目は一弾目と同じ軌道、同じ位置に——

 防弾ガラスは耐えられない。

 だが、一弾目を防いでくれただけで十分だ。


 妹よ。大丈夫だ。


 お前を襲う大口径弾を筋肉で挟むことはできないが、兄はお前の壁ぐらいにはなれる。


 ドンッ!


 大口径弾は妹に覆いかぶさる俺の背中に直撃した。


(なんという衝撃! 挟める気がしない!!!!)


 妹や八王子の真剣での攻撃はペチペチだったが、さすがは大口径弾を撃ち出すアンチマテリアルライフルだ。ひよこ女史が曲芸しながら乗っていた大型バイクが衝突してきた時と同じぐらいドンッときた。

 でも良かった。挟める気はしないが、俺の筋肉を貫くほどではない。

 否!!!!

 良かったではない!

 俺は何を安堵しているんだ!

 妹は大口径弾を筋肉で挟んでほしいのだ!!

 三弾目、四弾目は筋肉で挟んでみせる……んっ?

 追撃が来ないな。

 どうしたんだ?


 俺は振り返り、大口径弾の軌道を思い出すように外を見る。

 学校を囲う壁、その先の民家にあるアンテナ、アパート……狙撃位置が判別できない。いや、狙撃できるような場所が無いのだ。

 アパートの800キロメートル先に15階建ての市営住宅はある。しかし、学生食堂から市営住宅までの距離は少なく見ても1.5キロメートルはあるのだ。

 神業レベルの狙撃技術があっても無理だ。それも狙撃銃ではなく、アンチマテリアルライフルで『同じ位置に弾丸を当てる』なんて神業に等しい。

 アンチマテリアルライフルの二連射は不可能。従って、狙撃手は2人だろう。そして狙撃にマグレは無い。

 妹を正確に狙った一弾目を撃った狙撃手と、その軌道に寸分のズレなく二弾目を撃った狙撃手の技術は一流を越えた超一流だと評価できる。

 まずい。

 こんな狙撃手を野放しにしていたら、違う場所で狙撃される。生存率0パーセントと断言できる。

 まずい!

 学校どころではない。不便を与える事になるが、妹を北の山にある要塞に…………むっ!

 アレは花菱さんか!?

 花菱さんが屋根の上を走り、その上を日本の上空を飛んではいけない攻撃ヘリコプターアパッチが通過する。おそらく空菱さんが操縦しているのだろう。

 ツッコミどころ満載だが、大事の前の小事。空菱さん、花菱さん、狙撃手を捕まえてください!


「————引き際の決断力を妥当と判断しますと、些か『遊びではない匂い』がしますわね。花菱と空菱を誘い出す囮かもしれませんわ」


 2人を誘い出す囮?

 八王子と一条は何を話しているんだ?


「「学校内に『暗殺者』がいるなあ、ますわ」」


 なに!!?


 八王子と一条の発言に心音が跳ね上がる。

 暗殺者が学校に入ってるという事は空菱さんと花菱さんの監視を突破した事になる。そんな暗殺者は【黒血を継ぐ魔女】ぐらい……。


『頑張ってちょうだい』


【黒血を継ぐ魔女】の言葉とヒール音が脳裏によぎる。

【黒血を継ぐ魔女】が俺と妹をラビット•イヤーに誘ってきたのは、暗殺者と超一流の狙撃手の連携では分が悪いと考えて、ラビット•イヤーに避難させようとしていた?

 あの値踏みをするような表情は、今の俺が妹を守りきれるか、を見ていたのではないだろうか。そして、値踏みした結果、俺なら大丈夫だと……いや、違うな。あのヒール音は、暗殺者と超一流の狙撃手の存在を伝えていたんだ。


「はいは〜〜〜〜い。戦争ごっこはヤメましょうね〜〜」


【黒血を継ぐ魔女】は学校に進入した暗殺者をひよこ女史に任せて、狙撃手や追撃要員や逃走経路を確保しているであろう『自分の獲物を横取りしようとした暗殺者を始末しに行った』のだ。

 学生食堂に花菱さんと花菱さんがいなかったのは、学校に潜む暗殺者をひよこ女史に任せ、花菱さんは地上から、空菱さんは上空から狙撃手と追撃要員の対処に行った。


 狙撃手の弾丸から妹を守るのは俺に任してくれた。


 ……ではないだろう。【黒血を継ぐ魔女】含めて空菱さんや花菱さんも、防弾ガラスとはいえ、妹や八王子が窓際に座るという愚行をするとは思わなかったんだ。俺が、少ない可能性でも危険度がある窓際に妹や八王子を座らせるとは思わなかったんだ。


 妹と八王子は悪くない。

 防弾ガラスを見て安心するのは当たり前だ。

 俺の浅はかさが生んだ狙撃だ。

 すまない。怖い思いをさしてすまない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。