全てを守りたい御曹司の考察と見えない先行き
新垣派と反新垣派の抗争を生み出した革命家八王子沙織に説教するために、学校内を探し回った。
だが、教室、体育館、屋上と隅から隅まで探しても八王子はいない。
八王子の捜索は諦めた俺は、枡田と麻生に説教するために2人の教室へ行った。
授業中だというのに枡田と麻生は教室にいなかった。
教室、体育館、屋上にいないのは確認している。生徒会室かと思い、行ってはみたが2人の姿はなかった。
八王子、枡田、麻生……どこに行ったんだ。
いや、考えるまでもない。学校内にいないなら、おそらくラビット•イヤーにいる。俺は校舎を後にしてラビット•イヤーに向かう。
案の定、ラビット•イヤーに枡田と麻生はいた。2人だけでなく、部活連の部長や委員会の委員長連中も。
一箇所に集まって小声で話し、何をやっているのかわからないが、俺が入店してきたのに気づいていない。覗いてみると、反新垣派殲滅作戦と書かれた朝日ケ丘大学高等部の校舎内見取図を広げ、主な強敵にポイントを付けて軍議をしていた。
「お〜ま〜え〜ら〜〜〜〜」
ゴンッゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンと部長や委員長連中にゲンコツする。
「会長だ! 枡田、麻生、逃げろ! グワッ!?」
「私達が犠牲になるから逃げ……きゃあああ!?」
「2人とも窓から……防弾ガラスになってるぞ!?」
「窓はダメだ! 出入口に行け!」
「ドアが開かない!」
「一馬さんに裏切られたな」
「マドカ、裏切ってないよ。将斗、その扉は引くんじゃなく押すんだ」
「開いた! マドカ逃げ……」
部長や委員長を犠牲にして逃げようとした枡田と麻生にズガンッズガンッとキツめにゲンコツした。
八王子は見あたらないため、とりあえず枡田と麻生を先頭に全員を正座させる。いつもなら、俺が説教する時は縮こまっている一同だが、今は不貞腐れている。どうやら自分達には非が無いと思っているようだ。
「八王子はどうした?」
「会長が来る5分前ぐらいに『ワタクシは唯衣ちゃんと遊びたいので自主停学しますわ』と言って帰りました」
おそらく、花菱さんに俺の行動が見抜かれていて、八王子は俺に捕まる前に逃げたのだろう。
八王子は後から説教するとして、まずはコイツらだな。自分達に非が無いと思える無責任な考えは、今の責任ある立場を理解していない。
「お前らは部長と委員長という立場で部活や委員会を背負っている自覚はあるのか? 特に、枡田と麻生。お前らはこういう事態にならないように監査を兼任しているんだぞ。それをお前らが抗争の最前線に居てどうする」
「会長。お言葉ですが、昨日に妹さんが暴漢に襲われた事は新聞やニュースにもなっていないのに、すでに反新垣派の耳に入り、学校に来るやいなや動き出していたんですぜ」
「将斗の言うとおり。1日、1時間、1分でも隙を見せたら妹の危険度が上がるというのに、会長は悠長に構えすぎかと思われます」
「…………」
無責任な行動は八王子に唆された、という一縷の希望は無くなった。
後輩達は自分達の立場を理解し、自分達の判断で、妹のために行動した。その行動を正当化するために、八王子は前もって『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』という校則を作ったという筋書きだろう。
妹がいない間に新垣派の力を反新垣派に見せたのも、妹が誰かに守られたいと思っていないからだろう。
そういえば、ひよこ女史は言っていたな。
『ワザとなのか天然なのかミスなのか。八王子さんは八王子君の娘らしくない大きな抜け穴を作っちゃってま〜す。おそらく、何か理由があってワザと抜け穴を用意したのでしょうね〜。今回はその抜け穴を利用さしてもらいま〜す。ポチッと』
何か理由があってワザと抜け穴を用意した。
妹がいたら抗争を生んだ原因である自分を責めるだろう。
だが、もし妹が自分を責めるのではなく自分が責任を背負える人間なら『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』は必要ないのだから。
それに、本来なら、妹が責任を背負えるようになった時に『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』を行使するべきであり、八王子家の帝王教育を受ける八王子沙織がソレを理解していないわけがない。
八王子は枡田や麻生や部長や委員長の行動を見抜き、中心人物の妹が不在という抜け穴があるのをわかっていて『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』を行使し、ワザと『誰かに抗争を止められるようにした』のだ。
抗争を止める誰か、とはおそらく俺だろう。
八王子は、俺が妹だけではなく全生徒を守ると言った言葉を実行できるか、見ていたのだ。
結果はひよこ女史が抗争を止めた。
ひよこ女史も八王子と同じく俺が有言実行できるか見ていたのだろう。
俺は2人の期待に答えられないだけでなく、応えてさえいなかった。
妹だけではなく新垣派や反新垣派問わず、全生徒を守りたいというのは甘い戯言なのか……。
父さんは全生徒を守り、社会に出てからも全員の力を合わせて勝利を掴んだ。
自画自賛、自作自演は学生までなら通用するだろう。けど、社会は違う。そもそも、ただの自画自賛、自作自演なら八王子会長は協力しない。
父さんなら全員を守れると判断したから、八王子会長は協力したんだ。
父さんなら今回みたいな抗争を1人で……いや、八王子会長のように協力してくれる有志がいたんだ。
だが、俺には、枡田や麻生を含めて協力してくれる人間はいなかった。
これが現実だ。
父さんには八王子会長でさえ協力したいと思わせる魅力があり、俺にはその魅力が無い。俺が先頭に立って妹を守っていると思っていたが、現実はどうだ?
俺がいなくても枡田や麻生は妹のために動き、部活連や委員会の連中まで動いている。
父さんに魅力が無ければ、八王子会長は今回の八王子沙織のように行動していたに違いない。
俺は全生徒はおろか妹も守れない事を八王子沙織に教えられた。だが、八王子は間違っている……いや、間違っている事にも気づいている。
妹1人だけ守っても何も変わらない事は八王子も理解しているのだ。もちろん一条や空菱さんも。それでも尚、妹1人だけを守るのは優先順位の最上位に妹がいるから、そして妹1人を守るので精一杯なのだ。
俺の全てを守りたいという言葉が甘い戯言だと言える根拠を、八王子は妹の近くに居て挫折と一緒に経験したのだろう。だからこそ、非情になれる。
俺は確信した。
俺が全てを守らなければならない。
俺たちが全てを守られるようにならなければならない。
「枡田。部活動では新垣派と反新垣派が協力し、勝利を掴んで笑い、時に敗北して一緒に泣く。社会でも派閥があり、反目しながらも仕事は協力している。何故、部活動では協力できるのに派閥の違いで、反目する?」
「部活の勝敗は好きな事での勝敗だから反目しても協力できまさあ。会長、妹さんを守るのと比べちゃならねえぜ」
「委員会も同じですね。反目しながらも、より良い環境を作るのに手を取り合うのは、学校という枠内だからです。妹さんで反目するのは、学校だけでなく親達の溝や将来の立ち位置まで決まる事だからです」
枡田と麻生の言葉に一同は頷きで肯定する。
その肯定を否定する力は、俺には無い。父さんにも無いだろう。もし、父さんに否定する力があるなら反新垣派という言葉は生まれなかったのだから。
「八王子はソレを理解し、俺には全生徒や妹を守れないと判断し、現実を教えてくれたんだな」
「花道会長。八王子は『唯衣ちゃんは喧嘩両成敗という戯言など吐きません』と言ってましたが、コレは妹さんなら別の方法で抗争を止められるという風に受け取れます。ひよこ女史ではなく『今の会長』ならどのように抗争を止めていましたか?」
「麻生。今でも将来でも生徒会長では止められない」
「会長。俺達が慕う蓮野花道ならどうですか?」
「……俺は生徒会長蓮野花道だ。お前らも部活動や委員会では責任ある立場だ。今回、新垣派や反新垣派で反目している最中、その影には一般生徒がいた。学校は、社会は、新垣派と反新垣派だけではないのだ。そして、社会で反目し合う大人は自分の行動に責任を背負う」
社会人と学生は違う。
だが、責任ある立場なら自覚してほしい。
社会は新垣派の、学校は妹だけのモノではないのだから。
「会社だったらお前達は重役だ。そんなお前達が率先して抗争の最前列にいた」
「停学ですかい?」
「馬鹿者。責任は生徒会長が背負うから、お前達は蓮野花道らしく横綱相撲を取れ、と言っているんだ」
枡田の頭を撫でると、
「数の優位や奇策で勝っても反新垣派は差し出した手を払うだけだ。正々堂々と闘ってこそ、反新垣派から勝利を掴む意味が生まれる。今回の抗争は反新垣派との溝を深くしただけだ。今後の部活動や委員会にも響くだろうな。従って、お前達に停学している暇などない!!」
ズゴンッと枡田の頭にゲンコツし、
「お前達は生徒会長蓮野花道に責任だけを背負わせて、なんの成果もあげられなかった。ただ溝を深くしただけで、妹の危険度を上げただけだ。俺が抗争を止める時は新垣派や反新垣派が壊滅する時だと思え。わかったな!!」
ゴンッと麻生の頭にゲンコツする。
「会長らしくない」
「当たり前だ。それが責任ある立場なのだ。お前達も今の立場に責任があるんだ。いつまでも俺の後輩気分でいたら、反新垣派だけでなく新入生にもナメられるぞ」
「花道会長。横綱相撲とは具体的にどのようにすればいいのですか?」
「奇策を持ちいらず、正面から相手の策を受け止め、圧倒的な力の差を見せつけて勝つだけだ」
「会長。妹さんの制圧破壊前進と変わらない気がしますぜ」
「…………。妹の制圧破壊前進とはなんなのだ?」




