全てを守りたい御曹司VS革命家八王子沙織
暴漢騒ぎの翌日、生徒会長権限を行使して妹と一条を停学1週間にした。
学校側は妹や一条は被害者なため停学にする理由はないと判断したのだが、『暴漢に襲われた』という事実は『暴漢でも襲える』と受け取る輩がいるため、より学校内を厳重にするため、2人を停学1週間にした。
だが——
俺が学校へ登校すると、枡田と麻生が部活連と委員会を動かし、至る所で反新垣派と一触即発になっていた。
これでは妹は安心して学校に通えない。
そんな一触即発の校舎内、エントランスホールに八王子は現れた。彼女は周囲を見回すと、口元を隠していた扇子を天井に向け、振り下ろす。
嫌な予感しかしない。
そもそも、この一触即発状態を麻生や枡田が作ったとは思えない。
俺の予想を裏切らず、枡田を先頭に新垣派が走り出し、ライオンの狩りを思わせるように反新垣派へ突撃。
風紀の乱れを越えた、校則が機能していない無秩序。混沌の元は枡田や麻生ではなく八王子だと確信するのに十分。
生徒会長として秩序を取り戻さないとならない。俺は八王子の元に行くと、
「八王子。最優秀者がこんな事では……」
「ワタクシは花にたかる蛾を扇子ではらっているだけですわ」
たしかに八王子は扇子をあおいでいるだけだ、が……。
「みなさん。唯衣ちゃんは制圧、破壊、前進をお望みですわ」
言った瞬間、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! とエントランスホールにいる新垣派は雄叫びを挙げ、波状するように校舎内の至る所にいる新垣派が雄叫びを挙げて校舎内外問わずに反響し、空気を振動させる。
花にたかる蛾を扇子ではらっているだけ、ではないのは明らか。八王子が無秩序状態を作った先導者だ。
「八王子、生徒会長権限で停学にする!!」
「閣下。生徒会長権限はあくまでも校則ですから、帝王唯衣ちゃんの権限以外は新垣派に通用しません」
「そんな権限は無い!」
「ありますわ」
八王子はポケットから生徒手帳を出して適当にページを開くと、俺に見せてくる。そこには『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』と手書きで書かれていた。
なんだソレは?
「最優秀者の権限の中に、生徒の代表として過半数の賛成を得られた事案に限り『校則を作れる』とありましたので、昨夜、過半数からの賛成をいただいた後に校長や理事長やPTA会長に談判し、新校則『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』を設立しました。唯衣ちゃんは晴れて正式に校則を凌駕いたしましたわ」
(な、な、な、なんという事を……)
八王子の言う事が真実だとしたら、校長や理事長、PTA会長はなんという事をしてくれたんだ!
俺は間髪入れず校長室に向かう。
八王子は帝王教育を受けている。
それも八王子家の帝王教育だ。
新垣家の帝王教育というより、父さんの帝王教育なら抗争を生み出しそうだが、八王子家の帝王教育ではあり得ない。あの八王子会長の娘とは思えない凶行だ!
重厚な両扉を開けはなち、校長室へと入る。
問題児が多い朝日ケ丘大学高等部の生徒が原因でいい具合に禿げ上がった校長が胃薬を飲んでいた。
「校長。最優秀者八王子が提示した『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』を、校長や理事長やPTA会長が承諾した事についてお伺いたいのですが?」
「…………〜」
校長は胃薬を少し吹き出し、水で胃薬を飲み干すと、
「そのままですよ、生徒会長。時に新垣唯衣さんは校則を凌駕してしまいます。……というより、存在がすでに凌駕していますからね。わざわざ校則に加える必要は無いのですが、過半数の生徒から賛成を得た最優秀者の八王子さんや生徒会副会長の麻生さんや広報の枡田君が強く心願していましたからね。民主的に判断し『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』は可決に至りました」
「校長。その校則が原因で、現在、新垣派と反新垣派は抗争になっていますが?」
校長は禿頭に疑問符を浮かべると、
「何故だね?」
「校長達が可決した『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』という校則が、既存の校則を凌駕したからではないですか?」
校長の広い額に汗が溜まる。
どうやら革命家八王子沙織を八王子会長のような最優秀者と同じに考えていたようだ。
八王子は父さんの自己中を抑止する八王子会長とは違う!!
「校長。私も八王子が革命を起こすとは思いませんでした。しかし、今現在、八王子は八王子会長仕込みの策略を行使し、校長達が警戒する前に最優秀者権限を利用して妹を中心に物事を運ぶ校則を確立しました。結果、私が少数精鋭にした生徒会の抜け穴を利用し、枡田は部活連、麻生は委員会を動かして反新垣派と抗争しています」
「く、黒尻先生は……?」
「校長。妹は生徒会長権限で停学1週間にしていますから、今、新垣派を先導しているのは八王子です。ひよこ女史は妹が直接関わる事案以外では動きませんから期待できません。そもそも、生徒同士の抗争はひよこ女史から見れば遊びの内です」
「う、うむ」
「『唯衣ちゃんは校則を凌駕しますわ』が確立された今、生徒会長権限や校長達の権限は新垣派に通用しません」
八王子の策略に対抗するには、
「高額の依頼料はふっかけられますが『生徒を教育する教師の立場』から、荒療治をしてもらうしかありません」
「それは黒尻先生に依頼料を支払い、抗争をする生徒の教育を任せる、という事ですか?」
「教育になるかはわかりません。ですが、他の先生にここまでの抗争を止められる力は残念ながら無いかと思われます」
「生徒会長。あなたのお父さんは抗争を生み出し、その抗争を止めていましたが……?」
父さんが抗争を生み出し、その抗争を父さんが止めた?
なんだその自画自賛、自作自演?
よくわからないが、止める、にも立場はある。
一般生徒なら兎も角、生徒会長が実力行使で抗争を止めていいなら校長室には来ていない。
「父は生徒会長ではありません。生徒会長のように生徒の見本になる必要がありませんから、停学になる行為もできます」
父さんが学生だった時の生徒会長は八王子会長。
八王子会長から、父さんが問題視した事を父さんと一緒に解決の道を探していた、と聞いている。
んっ?
これって……。
何かに納得しない父さんと生徒会長だった八王子会長が一蓮托生し、学校にある問題を解決をしていた。と思っていたけど……。
自画自賛、自作自演ではないか?
むっ!? 廊下から大勢が走る足音がする。
『待てやコラァァァァ!』
枡田!?
『将斗、砲丸投げの玉だ』
麻生!?
『よっしゃぁぁぁぁ!!』
ズガンッ!!
バリン!!
お前らなにしてんだ!?
『みなさん。帝王唯衣ちゃんへの忠義が足りません。フランスパンに続いて反新垣派へ制圧破壊前進ですわ』
八王子!!
これ以上、八王子の名に泥を塗るな!!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
お前ら校長室の前だぞ!
新垣派が反新垣派を追いかける怒号が止まらない。
学校内は革命家八王子沙織の先導により、混沌へ突入している。
校長には早く決断し、ひよこ女史に一任してほしい。
だが、ひよこ女史に抗争する生徒の教育を任せるのを渋る校長の気持ちもわかる。
ひよこ女史への依頼料はとにかく高いのだ。
「喧嘩両成敗にしてあげますよ〜」
ひよこ女史!?
いつから校長室に居たのですか!?
「ひ、ひよこ女史……」
「ちなみに『八王子。最優秀者がこんな事では……』から見ていました〜」
校長室に来る前、最初から見ていたようだ。
どうやったら気配をここまで無くせるんだ。
「黒尻先生、喧嘩両成敗とは、どのように生徒を納得させるかお聞きしてもよろしいですか?」
「校長先生、ひよこ先生はこのような事態も予測してました〜。なので便利グッズを用意してま〜す」
ひよこ女史がヒョイと右手を上げる。手の中には、爆弾の起動スイッチのようなリモコンが握らている。
「ば、爆弾!?」
「生徒会長さん、違いま〜す。八王子さんに校則の抜け穴を利用されましたが、残念ながら、抜け穴を利用した事象には抜け穴が付き物なのですよ〜」
「抜け穴、ですか?」
「ワザとなのか天然なのかミスなのか。八王子さんは八王子君の娘らしくない大きな抜け穴を作っちゃってま〜す。おそらく、何か理由があってワザと抜け穴を用意したのでしょうね〜。今回はその抜け穴を利用さしてもらいま〜す。ポチッと」
ひよこ女史は説明をそこそこにボタンを押すと、リモコンに口を近づける。
「新垣唯衣は満足した」
『新垣唯衣は満足した』
ひよこ女史が妹の声を発声すると、そのまま校内放送が流れる。どうやらリモコンは校内放送を流せるマイクだったようだ。
放送部にあんなマイクはあったかな?
「今日のところは喧嘩両成敗だ」
『今日のところは喧嘩両成敗だ』
「納得しない者は新垣派、反新垣派問わず、明日の朝日を拝めると思うな」
『納得しない者は新垣派、反新垣派問わず、明日の朝日を拝めると思うな』
妹の声で校内放送を流し、新垣派と反新垣派へ喧嘩両成敗を促す。
ひよこ女史だからできる方法だ。
余談だが、俺がひよこ女史の異常性を目の当たりにしたのは母さんが妊娠した時。ひよこ女史は母さんそのままの姿になり、息子の俺や父さんにも母さんの妊娠を隠し通した。
俺と父さんは、ひよこ女史が化けていた母さんに病院へ連れられ、出産間近の本物の母さんに『出産ドッキリ!!』というプラカードを出された。驚愕したのは言うまでもない。
特に『花道は母さんと一緒に寝られていいな』と落ち込みながら『最近、母さんのドメスティックが悪化しているんだ』と俺に愚痴っていた父さんは、ひよこ女史が母さんに化けていた事に涙を流して安堵していた。その数時間後には家族がバラバラになり、父さんと母さんはまた離れ離れになったのだが。
「これで喧嘩両成敗で〜す。校長さ〜ん。設備投資に1000万円で〜す」
やはり放送部とは別に自費で設備を作っていたのか。さすがひよこ女史だ。
「それと、ひよこ先生の声真似に1億円で〜す」
高っ!!
いや、抗争が声真似一つでおさまっているし、ひよこ女史が前準備していたから、現代では教師の威厳を失う力業を行使しないで済んだ。……それでも高い!
俺は、ひよこ女史の見た目が小学生低学年なため教師の威厳を失う力業を行使できると考えていた。
1億円は声真似と『予測できる事象への事前準備』という『誰にもできなかった対応』への報酬と考えれば……妥当なのか? いや、高すぎる!
それに、朝日ケ丘大学高等部に1億円を出せる財布は無い!
「ひよこ女史。朝日ケ丘大学高等部は一部署ですから、高等部にプールしているお金はありません」
「黒尻先生。今後も、生徒へ暴力を振るわないなら、抗争する生徒への教育を任せます」
「基本は1億円で〜す」
校長、朝日ケ丘大学高等部に1億円を出せる財布があるのですか?
高等部は一部署ですよね?
会社なら営業部の一課みたいなモノだと認識していましたが……?
「校長。高等部にお金はあるのですか?」
「新垣唯衣さんや八王子沙織さんが抗争を生み、その抗争を止めるのに学校側が1億円の損失を出した。と新垣グループと八王子グループが聞けば、学校側から打診が無くとも寄付金が入ってきます。寄付金以前に、防弾ガラスや監視カメラなども含め、2人を守るための出資はしてくれるので学校はお金を使う事はありません」
朝日ケ丘大学高等部に財布は無い。有るのは妹と八王子という金のなる木。おそらく俺もだろう。
ひよこ女史を朝日ケ丘大学高等部の特別教授として赴任させている時点で、新垣グループや八王子グループがお金を出すという算段ができていたのだろう。
校長が悩んでいたのはひよこ女史への依頼料ではなく、抗争する生徒への心配だったようだ。伊達に、生徒が原因で禿げているわけではいないようだ。




