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留年生は留年生の留年生!/夢は現実になれば正夢だけど、現実が夢になったなら、それはわたしの夢だ。  作者: 有知春秋
【二章•帝王であり百獣の王を兼業する傍ら総督も兼任しているお嬢様な新垣唯衣】
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ぼっちになりたいお嬢様の取り調べ

 

 DVDの精算を終わらして間もなく、警察さんが来ました。

 一部始終を見ていた庶民は職質を受け、やはりというべきかナイフや拳銃を持っていた暴漢に対して同情的な声が多かった。

 子供達は「お兄ちゃんは悪くないよ」と言っていたが「子供は黙っていなさい」という始末。警察さんが困っていました。

 ナイフと拳銃を持った暴漢が店にいます! と通報を受け、突入してみたら『被害者がいない』。それが警察の見解だ。

 暴行罪や傷害罪などの刑罰は、後から警察と検察がなんだかんだして裁判官が決める事なのだ。


 ナイフと拳銃を持った暴漢が現れて死傷者無し。


 この現実を異常と思える感性が庶民にはないのだ。

 自分達が助けられたという現実を庶民は理解できないのだ。

 大人と子供、どちらが正しい事を言ってるかは明らか。

 しかし、子供に見せてはいけない一部始終だったのも確かだ。

 もう少し庶民向けに暴漢を拘束してあげたら警視総監賞を貰えたのかもしれないな。

 そんな事してたら死ぬけどね。


 そんなこんなで、一条は警察署に連行された。

 もちろん、連行とは言っても警察さんはお嬢様の世界を理解しているため、一条に手錠をはめるというバカはしない。もし、手錠をはめたら、論破した後に一条の美談と後日談を作り、マスコミや新聞社に圧力かけて誤認逮捕した警察として世間に公表していた。


 わたしと一条が取り調べを受けている場所は警察署の会議室。

 お嬢様の世界では暴漢や暗殺者が100パーセント悪いため、取調室を使われる謂れはない。

 それでも警察さんに一部始終を話さなければならないため、取り調べになるのだが。その辺もお嬢様の世界は庶民とは違う。


「やりすぎ、て言葉を知ってるよな。幸太郎?」

「あらあら、殺した方があなた達のお仕事が楽でしたか? カツ丼もう一杯。殺さなかっただけありがたく思え、柳田庶民!」


 柳田庶民。名前は庶民ではなく、大輔(だいすけ)

 お嬢様の世界でわたしに何かあると現れる警視だ。警視正だったかな……どっちでもいいか。

 警視に美形を求めている庶民には残念。柳田庶民は体型はソフトマッチョだが、傷痕だらけの顔面凶器だ。そもそも甘いマスクの警視なんているのか? わたしは見た事ないぞ。


「お嬢様は、そこの机にある電話で勝手に頼んでいいですから、黙って食事していてもらえますか?」


 わたしは右手でバッと受話器を取り、大喜利前のようにカンカンカンと机に受話器を叩きつけ、耳に付ける。


「カツ丼、天丼、親子丼。ラーメン、餃子、餡かけチャーハン。もりそばざるそば天ぷらそば。月見も頂戴、トロロも追加。腹ペコ唯衣はそれでも足りない、足りない足りない、足りない足りない。おう、店主、腹ペコ唯衣は全品追加だ」

「落語調に言わないでいいですからねぇ。それと受話器を取っただけじゃお店には繋がりませんよぉ」

「柳田庶民、全品追加だ!」


 会議室の偉い人が座る場所に柳田庶民はいる。その正面には欠伸をする一条。

 わたしは長テーブルに並ぶ出前料理をビュッフェ感覚で食べ歩いている。各種定食にそばやうどんやラーメン、丼やピザなど色々ある。


「はいはい。お嬢様は電話ができないお嬢様でしたねぇ。出前はまだまだ来ますから追加はもう少し待ちましょうねぇ」

「柳田さん。お嬢様と知り合いだったんだな」

「お嬢様が原因で起きる事件を担当し処理するのが、柳田さんの正体だ。だから幸太郎にはお嬢様と関わらない事をオススメしたい」

「柳田庶民、遅かったな! 一条をわたしの護衛として雇った!」


 爽快爽快。


「柳田庶民の顔面凶器が崩れる崩れる崩れる、絶景かな絶景かな」

「柳田さん。そういう事だ。とりあえず、腹減ったから俺も飯食わしてもらう」


 一条は席を立ち、踵を返す。


「幸太郎。どういう意味か理解しているのか?」

「どういう意味って言われてもよお、親は蒸発してっし、兄弟いねぇし、親代りの柳田さんはお嬢様専門だからなあ。大事な人が狙われるっつう設定ぐらいは用意しといた方がいいのかあ?」


 柳田庶民は一条を幸太郎と言ってたから、一条が警察署の常連さんかと思っていたけど、親代りだったのか。

 顔面凶器のくせにお人好しだな、柳田庶民。


「大事な人を作れなくなる、と言ってるんだ。柳田さんは42歳で独身だぞ」

「んなもん俺に求めていたんかよ? 本末転倒って言葉をノシに書いて送るぜ」

「本末転倒か。たしかにそうだな」


 2人の関係はけっこう深いんじゃね?

 一条は無関心なままラーメンに手を伸ばしてるけど、なんか柳田庶民は暗くなってるし。

 親代わりってそこまで感情移入するモノなの?


「なんも失うもんのねえ俺よりもよお、お嬢様を狙うだろ。その分よお、俺はバイト代が増えるし、お嬢様の満足度で歩合になるっつうから、いい具合に腫らして、殺しちまったら肥料だ。安心してくれやあ」

「幸太郎。安心できるワードが無いぞ」

「さては柳田庶民。護衛一条が暗殺されるんじゃないか心配しているな」


 ふふんと鼻息を鳴らすと、


「一条、わたしの家、50階のマンションはセキュリティ抜群だ。3階までなら自由に使っていいぞ。モグモグモグ」

「俺の首に賞金を賭ける物好きがいるとは思えねえけどなあ。なんにしても護衛だからなあ、お嬢様の近くにいねえとならねえし、世話になる方が都合いいなあ。家賃はいくらだあ? モグモグ、柳田さんよお、このラーメン、かなりヤベェよ」

「家賃? 居候……食客扱いだから必要ない。なんか足りない物あったらコンシルジェ……? なんかよくわからないけど、飯の出前でも女の出前でも一階にいるメイドさんみたいなのがいるから言えばいい。なんならメイドさんを一条専用のメイドさんにしてもいいし」


 わたしは一条が飲み込むように食べているラーメンが気になり、同じお店のラーメンを取る。

 そういえば、わたしの家に居候がいた。一条に教えておかないとならないな。


「因みに40階から49階にドリルが居候してるから」

「八王子も住んでんのか。それにしてもよお、メイドさんに言えば何でも揃うつうのは至れり尽くせりだな」

「一条がお嬢様の世界で働くに見合う報酬だ。モグモグモグ……マズッ! ラーメン、マズッ! これ柳田庶民にあげる! マズッ、ペッ!」

「このラーメンは庶民が美味しい美味しい言って食べてますからマズいマズい言わないでくださいねぇ。モグモグ……このラーメンはひどいな。幸太郎、よく食えるな」


 バンッ!


「「「?」」」


 勢いよく開いた扉を見やる。


「「「?」」」


 扉は開いているのに、開いた先が暗いぞ?

 停電かな?

 でも、会議室は明るい。


「あ〜ら〜が〜き〜ゆ〜い〜〜〜〜〜」


 んっ?

 この声、聞き覚えがあるぞ。


「い〜ち〜じょ〜お〜〜〜〜」


 なんだ。筋肉オヤジか。

 ラーメンはマズかったけど餃子はどうかな。

 モグモグモグ……美味っ!


「よう、ダンナじゃねえか。まだ春だし夜は冷えるからよお、半裸は風邪ひくぞお。ラーメンなら食っていいからなあ」

「筋肉オヤジ。服を着るという、アダムとイブが学んだ恥じらいを知らないのか。ラーメンなら食っていいからな」

「言えてらあ。柳田さん。ダンナをわいせつ罪で逮捕だあ」

「拘留期間目一杯使えば、2週間は学校が静かになる。柳田庶民、わたしが被害届けを出す!」


 ゴンッ! ゴンッ!


「グオッ! なんっつう拳してんだあ」

「なにすんだ筋肉オヤジ! 警察署にカチコミに来たならお嬢様なわたしではなく、柳田庶民か署長を殴れ! 立場は柳田庶民が上……」


 ゴンッ! ガシッ!


「グワッ! お嬢様よお、あんまダンナを怒らせんな」

「甘い甘い! その程度のゲンコツ! 有名な誰かが言ったように、同じゲンコツは2度も通じ………」


 ゴンッ!

 力押ししてきやがった!


「上等だ筋肉ヤクザ! 帝王であり百獣の王を兼業しているお嬢様なわたしが逮捕してやる!」


 ズガンッ!!!!


 走馬灯!!!!!!!!

 小学生低学年、ドリルのチチが膨らんだ——

 小学生高学年、ドリルのチチが更に膨らんだ——

 中学生、ドリルのチチがとんでもない事に——


「ダンナ。その頭突きはやりすぎだろ」

「一条。————と関わる意味、わかっているな?」

「————のためにそうした——たのはダンナだろ。お嬢様を護衛するついででいいならよお、せい——い会計になってやんよ」

「すまんな。————をよろしく——む」


 なにを、話して、いる?

 ドリルのチチは、どこに、行った?

 つか……まったく、力が……、

 空菱が、いないのに、寝たら……

 ————————

 ——————

 ————

 ——




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