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留年生は留年生の留年生!/夢は現実になれば正夢だけど、現実が夢になったなら、それはわたしの夢だ。  作者: 有知春秋
【二章•帝王であり百獣の王を兼業する傍ら総督も兼任しているお嬢様な新垣唯衣】
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ぼっちになりたいお嬢様はぼっちになりたい

 

 わたしが一斤トーストにナポリタンを挟めていると、筋肉オヤジが喫茶店ラビット•イヤーに現れ、わたしの頭を鷲掴みしながら生徒会室に連行した。——誘拐。

 ラビット•イヤーから生徒会室までの間、筋肉オヤジは左手で畳盛りのナポリタンを持ち、右手で一斤トーストを頬張るお嬢様なわたしの頭を鷲掴みしていたから、庶民からの注目が集まっていた。

 お嬢様なわたしだからトラウマにならないだけで、庶民女子なら悪夢だぞって。


「新垣唯衣。一馬には恋人がいるからな」

「アレだけのイケメンなら庶民女の1人や10人いるだろ。100人いてもお嬢様なわたしは驚かない」


 一斤ナポリタンサンド、美味い。

 次は焼きそばにしようかな。

 ナポリタンと焼きそばのハーフ&ハーフにしてくれるかな。


「恋人は1人しかいないな。新垣は一馬目的で店に行ってたのではないのか?」

「お嬢様なわたしをその辺のビッチ庶民と一緒にするな。わたしはコーヒー片手に空腹を満たしつつ、イケメン観察しているだけだ」

「その辺の庶民と変わらないだろ」

「わかっていないな。ビッチは恋人になりたいだのセックスしたいだのでイケメン一馬さんを見ているだろ。わたしのは芸術観賞。庶民の遺伝で作り出された佳作ではなく、遺伝に頼らず磨き上げた傑作を観賞して癒されているだけだ」


 芸術のわからん野獣にはわからないだろうがな。


「筋肉オヤジがバンプアップ後に鏡の前で『うむっ』とナルシストになるのと同じだ」

「なるほど。日々成長していく筋肉と同じくイケメンの成長を楽しんでいるのだな」

「そうだ。それに、アレだけのイケメンをハントした恋人にもなれば、庶民女よりもマシな女なはずだ。ビッチがヨダレ垂らして見ていたら不快だろうが、お嬢様なわたしのように芸術観賞として見ていたら気分も良くなる」

「なるほど。昔から女子に囲まれ、女子を泣かしていた一馬をずっと好きでいたみたいだからな。ズレてはいるが、一途ないい女だ」


 ズレている?

 わたしの目は節穴ではないぞ!


「イケメン一馬さんの恋人がズレているように見えるのは、世界各国の政治家や企業家のように節穴でわたしを見ているのと同じ。蟻のように働く事しかできない庶民では、わたしが認めたイケメンを落とせないからな」

「いや、ズレているぞ」

「毒を以て毒を制する人間を育てると嘯いている学校の生徒会長なら、筋肉だけでなく節穴な目も鍛えろ」

「とりあえず、新垣が一馬を人間として高評価してるのはわかった」


 さてと。

 ナポリタンも一斤トーストも食べたし。

 皿を返しにラビット•イヤーに戻るとするか。


「ドリル。椅子の変形ってどうやるんだ?」

「唯衣ちゃんに渡してある端末でアイコンをタッチすれば変形しますわ」

「アイコと美人の幼馴染がいる野球少年がなんだって?」

「アイコンとタッチですわ。端末の、ここの丸いボタンを押せば、指紋認証で画面が立ち上がりますわ。このいっぱいある四角形の……」


 まったくわからない。

 スマホ、タブレット、色々あるみたいだけど、わからない。だってぼっちになりたいお嬢様には必要性ないもん。


「わからない。簡単に使えるようにしてくれ」

「それでは全て削除しますわね。……」


 ドリルは器用だな。

 わたしがDVDプレイヤーに触ると砂嵐しか映らないのに、ドリルが触ると見られるようになるし。


「ドリル。全部音声認識にできないか? それか部屋のカーテンやクローゼットみたいに自動で動くとか」

「できますわ。でも音声認識は誤認防止のために唯衣ちゃんの声を2、3日かけて人工知能に記憶させないとなりません。その辺の設定もしておきますわ。……これで、完成ですわ」


 ドリルからタブレット式の端末を受け取る。

 画面には大きな赤いボタンが表示されている。

 押したらミサイルが発射されそうなボタンだ。


「なんだこのボタン。ミサイルでも発射されんのか?」

「ミサイルは発射されませんわ。一応、端末を落とした時のためにセキュリティ保護されていますの。赤いボタンを押した時に指紋認証し、次に顔認証画面になり、端末が唯衣ちゃんだと確認しましたら基本形態から第二形態のフリーザ様仕様になりますわ」

「このフリーザ様仕様は著作権問題が関わらないか?」

「最高速度は500kmなので、揚力を生む羽を出せば飛べますが、その場に浮くことはできません。見た目や性能もまったく違いますので著作権上は大丈夫ですわ」


 飛べるの!?

 つか、最高速度500kmって滑走路以外で出したら事故になるだろ!


「走行中や飛行中は唯衣ちゃんが運転や操縦してもあらゆる障害物を躱しますのでご安心ください。自動運転もありますので空を飛んで世界一周をしたい時はお使いください」

「宇宙に行ける?」

「第三形態は大気圏突入時の耐久テストもクリアしておりますから宇宙に行けますわ。酸素を作るのにかなりのエネルギーを使いますが、地球よりも宇宙空間の方が充電されますので、食事がある限り宇宙空間を楽しめます」

「予想以上の性能だ」


 椅子で気軽に宇宙旅行はいかがですか? とキャッチコピーにできる椅子のメーカー希望価格が10億円って安くないか? 20億円でも安い気がする。

 それにしても、筋肉オヤジは筋トレしかしてないな。


「なんだ? 筋トレしたいならマシンを使っていいぞ」

「生徒会室に他の役員がいないのは、筋肉オヤジのコミュニケーション不足じゃないのか?」

「ぼっちになりたいお嬢様にコミュニケーションと言われるとは思わなかったな」


 バカか。

 帝王でありお嬢様なわたしと生徒会長の筋肉オヤジでは立場が違うだろ。

 ドリルと同じく丁寧に言わないとわからないのか?


「帝王でありお嬢様なわたしと庶民の間には大きな壁がある。その大きな壁は簡単に通り抜けできるが、足を踏み込んだら最後、庶民には理解できないお嬢様の世界だ。お嬢様なわたしはそんな無知で愚かな庶民に譲歩しないとならないから、庶民がお嬢様の世界へ踏み込まないようにコミュニケーションを避けている。わたしは客観的になら庶民を観察しているから、役員がいないのは筋肉オヤジのコミュニケーション不足じゃないかって思っただけだ」


 まったく。何もわからない筋肉オヤジは脳みそまで筋肉だから、部下もまとめられないんだ。


「なるほど。新垣は庶民にお嬢様の世界へ入って来て欲しくないから、ぼっちになって誰とも関わらないようにしているのか」

「…………」

「そのお嬢様の世界とは、庶民が……」

「論点をズラすな」


 筋肉オヤジは、わたしの事情、お嬢様の世界に踏み込んで来ようとしている。

 偽善者にありがちな正義感だ。


「筋肉オヤジ。学校生活や青春という矜持から生まれる障害物を乗り越えて、万歳三唱……っバカか。そんな生温い矜持は、恋愛ごっこや友情ごっこで自己満足したい連中が、同情されたい気持ちから作り出しているだけ。悩みではなく、ワガママというんだ。そんなママゴトを、筋肉オヤジが言うような応援が無いと乗り越えられない庶民だから、コミュニケーションが必要だと言ってるんだ」

「コミュニケーションがないと庶民とお嬢様は分かり合えない、と思っているのか?」


 嫌悪……焦燥……。


「論点の根本がズレている」


 わたしの嫌いなあの目。

 嫌悪するあの目。

 焦燥するあの目。


 嫌悪、焦燥、嫌悪、焦燥……。


「庶民は力が無いのに人間関係まで希薄になり、相互の利益を見失っているから、生まれなくてもいい腐敗まで生まれている。今の論点は、その原因の一つ、庶民のコミュニケーション。お嬢様と庶民が分かり合うという話ではなく、庶民と庶民のコミュニケーションについてだ。庶民は協調性、所謂、学生の間にコミュニケーションを大事にしないとならない事を学ばなければならない。だからお前は毒を以て毒を制する学校からも卒業できずに留年するんだ、庶民!」


 脈打ちながら頭に血が上がるのがわかる。

 ダメだ。歯止めが飛んでいる。


「悟ったような顔をするな、庶民!!!! わたしに関わるな、庶民!!!!」


 世界一の椅子に座る。

 タブレット式の携帯情報端末の画面に表示されている赤いボタンを乱暴に押す。指紋認証、そして顔認証。

 画面に写し出される表情は紅く、お嬢様なわたしらしくない。

 世界一の椅子は第二形態、卵を割ったような半楕円形になる。


「お嬢様なわたしが庶民の反面教師になるなら勝手にすればいい。努力と友情がないと勝利にすがれない庶民には『最優秀な反面教師』だ。帝王でありお嬢様なわたしを見て、毒を抜かれた蛇になってくれる」

「……、自分の毒は抜かないのか?」

「黙れ庶民!!!!」


 操縦桿を乱暴に操作し、世界一の椅子を急発進させる。

 わたしの苛立ちに応えてくれるように世界一の椅子はタイヤを鳴らす。

 扉の前でピタと止まり、内蔵されているアームを出すと、器用に扉を開けて前進し、丁寧に扉を閉める。

 わたしは嫌悪と焦燥を当て付けるようにガチャガチャと操縦桿を乱暴に動かす。

 急発進。

 心音が跳ね上がる。

 生徒や先生が歩く廊下や階段を世界一の椅子は疾走。

 開放されてる玄関扉を選んで校舎を後にする。


 赤門を通り抜ける。

 生徒会室にラビット•イヤーの皿を忘れてしまった。

 まぁいいか。


 家には帰らない。

 空菱が怖いからではない。

 今、家に帰ったら、空菱が本当に心配するからだ。

 空菱なら学校をサボったのもわかっていたはずなんだ。

 根拠はないけど、子供の頃から、焦燥と嫌悪で頭に血が上がる度に行く当てなく放浪するわたしを、空菱は焦燥と嫌悪を理解してくれているようにわたしが落ち着いてから見つけてくれていた。


 空菱が怒るのは、ひよこちゃんに心配させ、迷惑かけたからだ。庶民に譲歩しなかったからだ。

 空菱は庶民じゃないから迷惑をかけてもいいけど、ひよこちゃんは庶民だから迷惑をかけてはならないんだ。


 お嬢様なわたしは……、


 ぼっちになりたいお嬢様なわたしは……、


 庶民と関わってはならないお嬢様なんだから。



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