S級冒険者
「S級……、冒険者?」
俺は聞き覚えのない呼称を反芻する。それを遮るように隣のランカが否を唱えていた。
「無理です! それも一週間なんて……。ふざけてるならヒロコさんをユミルの病院に連れて行きます」
タマさんはランカの脅しを意に介さなかった。
「医者に診せても無駄だと思うぞ。どのみち、女王蜂は許さないだろうな。あいつに火薬庫を抱える度胸はない」
タマさんが一刀に下に断じると、ランカは口を閉じた。それ以前に縦社会に生きてる者としてボスの意向に逆らえないらしい。
「説明、続けていいか」
俺が頷くとタマさんはくるくると指を回し、記憶を辿るようなしぐさをした。
「冒険者は上から順に、SABCDEFにランク付けされている。時にタロウ、お前ユイっていうヒトコロス教団のメンバーと戦っただろ、どうだった?」
唐突に出た名前を思い出すのに時間を要した。とはいえ、人質として過ごした濃密な時間を忘れたわけではなかった。
どうだったも何も、よくわからないまま戦いは終わってしまったし、あの子も本腰を入れてなかった気がする。ユイは一時ショータと互角に渡り合っていたし、俺はそんなにうぬぼれちゃいない。戦いよりも直前のままごとの方が記憶に残っている。
「階級はどのくらいだと思う?」
当てずっぽうに答えたら怒られそうだ。何より時間が惜しい。俺は直感を信じて突き進んだ。
「Bカップですか!」
水を打ったように場が静まり返る。タマさんにひっぱたかれて失言だったと悟る。直前までままごとの事を考えていたのがまずかった。
「ばかたれ! 誰が胸のサイズを答えろと言った。確かにユイの胸のサイズはその通りだが。何で知ってる」
ランカまで俺の発言を怪しんでいる。うまく切り抜けないと俺たちの関係が危ない。
「タ、タマさんこそ、なんでそんなこと知ってるんですか。カマかけてんじゃないでしょうね」
「あたしは、神官だったからな。冒険者の情報が頭に入っててもおかしくないだろ。話を戻すけど、ユイはA級。遺跡発掘調査などの功績が認められて神官が称号を授与した」
ユイもまともな活動をしていたんだ。意外だった。どうしても教団のメンバーと聞いただけで犯罪者と決めつけたくなってしまう。
「が、盗掘、誘拐、殺人、諸々の罪で出るとこでたら即死刑の重罪人でもある」
蓋を開ければ犯罪者そのものだった。教団コワイ。
「何でそんな人に称号なんかあげたんですか」
「神官が認めたらどんな悪人だろうが称号をあげなきゃなんねえの。言うほど簡単じゃないんだぜ。A級ですらな」
それ以上の存在に、俺が一週間でなれるとは冗談にしか聞こえない。ランカが反対するのももっともだ。
「VAFの歴史の中でS級にたどり着いたのはわずか七人。Drカトーやショータは知ってるな。そしてお前の妹もその中に入ってる」
「ええっ!?」
俺が初めて出会った冒険者がDrカトーだった。格の違いを見せつけられただけだったけど、S級だったのなら仕方ない。ショータがそれだけの器だったことにはそんなに驚かない。あいつの器がでけえのは前から知ってる。
それにしても要領良すぎだろ、うちの妹。何やってたんだろう。
「あたしの試験をパスしてS級になったんだよ、お前の妹」
奇縁というか思いもかけない手がかりがやってきた。急がば回れとはこのことか。
「いやー、あいつは格別優秀だったよ。あれほどの奴はまずいないね」
「いやあ、それほどでも」
「お前をほめてんじゃねえんだよ! お前はあれだ、才能ない」
「そ、そんなあ……」
神官には人の才覚を見抜く眼力が求められるのだろう。タマさんの言葉にはそれなりの説得力がある。塩を浴びたなめくじみたいに俺は小さくなった。
「が、運だけはいい。それは認める。やるだけやってみな」
慰めにもならないことを言って、タマさんは神殿に引き上げようとした。俺は慌てて引き留める。
「稽古とかつけてもらえるんじゃないんですか」
「やだよ、めんどくせえ。まずヤギを一匹捕まえてから話を聞きにこい。期限は、そうだ な……、三日でいいか。お前の妹は半日かかった。できなきゃヒロコが死ぬだけだ。いいな?」
不可解とも思える課題を残し、タマさんは神殿の闇に消えた。




