星のない夜
星のない夜に、ランカは帰ってきた。
隣で苦しんでいたナナリーの体温が下がってきた。握る手の力も弱くなってくる。
自分の体も痺れて上手く動かず、その分、
意識は克明に状況を把握しよう働く。
半透明のスープが残った木の器から、ポタポタと滴が落ちる。真っ黒な岩肌に染みて見えなくなった。消えかかったたき火の側から声がした。
「まさか本当にやるとは思わなかったわ」
耳に清流のような声が流し込まれる。答えなくては。焦りつつ慇懃に答える。
「話が違うじゃないですか。ただの睡眠薬って聞いてたのに」
「そう? でも貴女、本当は気づいてて毒を盛ったんじゃない」
火の消えたたき木の側には、物言わぬ躯が複数横たわる。 同じ鍋のスープを食べて全員が死亡した。
「ひい、ふう、み……、えーと、何人だったっけ。お金を数えるのと違って人間を数えるのは面倒」
「十九人です」
「あ、そう。でもこう考えなかった? これだけライバルがいると面倒だなあ、殺しちゃえ」
「違うって言ってるじゃないですか!」
図星を突かれ声を荒らげるも、無視される。
「私が試験官なら七十点をあげたかな。女王蜂なら0点よ。あいつなら仲間を大事にしない奴はクズだとかきれいごと言うはずだから」
「では私は?」
腰を上げる気配を追うように訊ねる。
「そうね、幹部にはしてあげられない。私はもう試験官じゃないし、蜂も抜ける。心配しないで、今夜の件は私の仕業って事にすればいいから」
手を伸ばそうとしたが、ナナリーが邪魔をする。お前はもう脱落しただろ。邪魔して何になる。
「どこへ……?」
「スカウトされたの。Drカトーって知ってる? おもしろい奴よ。一緒に来る?」
舌がもつれて答えにまごついた。ノーと受け取られたようだった。その話はふいになった。
「あ、最後に一つだけ。どうして毒入りのスープを飲んたの? 自分で毒入れたんだから飲んだ振りでもすれば良かったんじゃない?」
黙っていれば去ってくれるかと思ったが、いつまでも熊蜂は佇んでいる。
「お喋りに夢中になってて忘れてました」
いつ命を落とすかもしれない日々の中で感覚が麻痺していた。あるいは無辜の人間を殺害することに罪悪感を抱き、自罰的な行動を取ったのかもしれない。とっさに解毒剤を飲んだが、痺れは抜けない。許されざる感傷に対する罰だと思った。
「可愛い。九十点あげる。嘘が下手な所も含めて、ね」




