送別会(前編)
「レーディースアンドジェントルマン、お集まり頂きありがとうございます! さて、今宵の主役に登場して頂きましょう、タロウ=オオツダ。カモン!」
タキシード姿のジョエルが呼びかけるも、場内は静まり返るばかりだ。
「おーい、タロウ、どこ行った? 君の送別会だぞぃ。挨拶してくれよ」
俺はランカちゃんに付き添われながら、人混みをかきわけ、やっとのことでジョエルの前に進み出た。
「あ、そこに居たんだね。顔が全然違うからわからなかったぁ、はっはっは」
ジョエルのジョークに会場が湧く。俺の顔は紫色に晴れ上がり、試合後のボクサーのようになっていた。震える手で、マイクを受け取る。
「えー……、人の出会いは、一期一会と申しますが……」
俺が練りに練ったスピーチを披露しようとした途端、一斉に騒ぎが起こる。乾杯する者、太鼓を叩く者、踊り出す者、様々だ。
寮の食堂は人種の坩堝と化していた。俺の送別会を前々からヌイーダが企画し、出発の三日前に予定通り行われた。しかし、見渡せど見渡せど知ってる顔が少ないのは何故だ。後でわかったことだが、保険屋が多数紛れ込んでおり、しつこく勧誘してきた。道中、危険だから入る人もいるらしい。俺は断ったけど。
「よお、タニマチ君、災難だったねえ。顔」
負傷している俺の体を容赦なく叩く者がいる。シャルル王だ。その傍らには悪魔人形みたいな面をしたヒロコがいた。
「叔父上、彼の名前はタコス君ではなかったですか?」
ヒロコがいつにもまして澄ました声で、間違いを指摘する。王はつるりとした自分の額を叩いた。
「おお、そうだった。すまん、タコス君。ヒロコは偉いなあ、人の名前を間違えたことないもんな」
姪を自慢してから、俺に向き直る。
「これからこの国は、君になーんもしてやれん。病気になっても、魔物に食われても、詐欺にあっても面倒をみてやれん。悲しいけどね」
今までさして面倒見てもらったことないんですけどね。とはさすがに代表に向かって言えない。
「まあ、君なら新天地でも相応の働きを見せるだろう。彼女と二人三脚、頑張ってくれたまえ」
俺の隣にいたランカちゃんはバラ色に頬を染め会釈する。
豪快に笑い、王様は会場を出ていった。ヒロコは俺に一瞥することなくその後に続いた。
「いやあ、何か照れちゃいますね」
ランカちゃんは俺の腕に腕を絡める。ピンク色のドレスに髪をアップさせ大人びた雰囲気になっている。白いうなじが見え隠れするたび、どきっとする。
「YOー、楽しんでるかい!」
見とれていると、既に出来上がってるジョエルが俺の耳元で叫んだ。
「うるせえ。傷に響く」
「つれないこと言うなよ! 今日でバイバイだぞ、もっと名残りおしそうにしたらどうなんだ」
寂しくないと言えば嘘になるが、前々から準備して気持ちの整理ができている。クールに見えるのはそのせいだろう。
「ジョエルはどうすんの? まだハテナイでブラブラするの?」
「いや、それなんだけどさ。僕もユミルについていこうかなーって」
ランカちゃんの腕がきつく俺の腕を締め上げる。わかってますって。
「そりゃ別に構わんけど、住むとことか、仕事とかの当てはあるの?」
ジョエルは頭の後ろをかいて、予想通り計画性のなさを露呈する。
「君らの所でしばらく厄介になっていいかい。でも、お邪魔だよねー、やっぱり」
「それはジョエルさんも蜂のメンバーになってくれるってことですか?」
ランカちゃんが間髪いれずに口を挟むと、ジョエルは赤い顔で黙り込んだ。
「もしそうなら歓迎しますよ。給料制ですけど、福利厚生もしっかりしてますし、蜂は社会貢献を目的とした素晴らしい組織です! 世界平和のために手を結びましょう」
宗教みたいな直球の勧誘に、ジョエルは未練がましいことをごにょごにょ言い添え、その場を離れた。
「こうやると、大体の人はあきらめるんです」
ランカちゃんが小声で教えてくれた。
「それでもあきらめなかったら?」
「入団テストを受けてもらいます。結構キビシめの奴。あのジョエルって人には、どの道無理じゃないですかね」
「なるほど」
どの世界でも試験や面接は避けられないということか。シビアな世界だけど、もうここは学校じゃないんだって思い知らされる。
「それに、ラブラブな二人の新居にお邪魔しようなんて、野暮にも程がありますよねー。ほんと信じらんない」
笑いながら友達を非難され、少し複雑だ。実際、ジョエルについてこられたらたまったもんじゃないけど、言い返さないと可哀想だ。
「あのさ……」
俺が言い返そうとした所、ランカちゃんは既に別のテーブルに移動して顔見知りと話していた。
あの子と、これからやっていけるかな。恋人だって未だに信じられないし、同棲して別れるカップルも結構いるって聞く。ついこの間まで童貞だった奴にはハードル高すぎんよ。これもある意味無理ゲー。
「うわああああん、おうち帰るー!」
場違いなほど痛切な悲鳴が上がる。人波が割れた所でアンジェラが座り込み、騒ぎになっていた。あいつも来てたのか。しかし、何故泣いてるのか。俺と別れるのが寂しいのかと一瞬勘ぐったが、酒を飲むと日頃のストレスが解放され、泣き上戸になってしまうと、側にいた親方が教えてくれた。
「達者でな。アンジェラ共々世話になった」
アンジェラを担いで帰る親方の広い背中が見えなくなるまで俺は外に出て見送った。
世話になったのはこっちですよ。ありがとうございました。




