彼女の誘惑
レイル「......っ!!!」
レイルの目の前には、その場に横になり頬杖を付く海希がいる。
さっきから、彼女の熱い視線を受けていた。
お風呂上がりの、バスタオル一枚の格好で。
彼女の火照った艶のある肌に、色気を感じてしまった。
レイル「服着ろよ!」
と、目を逸らす。
さっきからこの台詞を繰り返すが、彼女には伝わらない。
何がしたいんだよ、こいつは...!!!
しかし、彼女があまりにもジッと見つめてくる。
どうやら、その視線から逃げる事は出来ないらしい。
そう判断したレイルは、気を紛らわす為にも、毛繕いに集中する事にした。
舌を使い、腕を必死に舐め取っていく。
海希「本当に懐かないわよね、あんた」
集中する。
毛繕い、ただその動きだけに。
海希「いつかは慣れてくれると思ったけど、コロとの関係は、このまま縮まりそうにもないみたいね」
レイル「あんたはだいぶオープンだけどな...服着ろって」
と、ボソリと呟く。
しかし、彼女の耳にその声は聞こえない。
海希「前の飼い主にも、そんなに冷たくしていたの?」
レイル「飼い主なんていない。俺は野良猫だからな...だから服着ろよ」
そう言いながら、毛繕いに集中する。
この視線からだと、いろんなものが見えてしまうからだ。
見えそうで見えない角度...
それが余計に、変な気持ちを高ぶらせた。
海希「やっぱりひどい事されてたの?だから、あんなに怪我していたの?」
レイル「......っ」
そう言われると、向こうの世界の事を思い出す。
きっと、自分は大罪人になっている筈だ。
ピーターやドロシーにも、迷惑が掛かっているかもしれない。
そう思うと、少し気が引けた。
海希「私はあんたの味方だからね。拠り所にして良いのよ?」
レイル「......っ!!!」
こ、これは....告白なのか?
そんなバスタオル一枚の姿で拠り所にして良いとは、なんて大胆な女なんだと、レイルは彼女に目を向けた。
レイル「まぁ...俺はあんたの事嫌いじゃないから、側にいてやっても良いけどさ...」
海希「片思いは辛いわね...私はあんたが好きなのよ?コロが私を信頼して貰えるよう、もっと頑張るね」
レイル「.....っ!!!」
やはり大胆な女だ。
ストレートに好きだと言われた。
こんなにもストレートに(しかも大胆な格好で)言われると、こっちが照れてしまう。
何をどう頑張ってくれるのかは分からないが、とてもアグレッシブだ。
明らかに誘われている。
それも、出会って間もない女に。
そう思うと、レイルの体が強張った。
いや、まだこいつがどんな奴か分からないし...
って言うか、なんで俺が好きなんだ?
一目惚れされたのか、俺?
と、目の前の海希に焦りを感じた。
しかし、嫌な気にはならない。
彼女といると何故か落ち着くし、懐かしい気持ちになる。
そんな相手に好意を抱かれるのは、なんだか嬉しく思えた。
レイル「あんた、本気で俺の事が好きなのか?こんな野良猫のろくでなしをマジで好きだって言うなら....って、おい、聞けよ!?」
いつの間にやら、彼女は立ち上がり服を着替えていた。
服を着ろとは何度も言ったが、自分の存在を全く気にしていないものだった。
はらりと床に落ちた一枚のバスタオル。
その姿に、レイルの耳と尻尾がピンっと張った。
とても艶かしい。
レイルは硬直したまま、彼女を呆然と見ていた。
身動き一つ取れず、石のように固まっている事しか出来ない。
レイル「はっ!!!」
我に返った時には、既に彼女が着替え終わっていた時だった。
小さな足で床の上を一目散に走った。
向かったのは、自分の寝床。
この寝床は、最近海希が作ってくれたものだった。
きっと、今夜は眠れない。
全て、この女の責任だ。
顔を埋め、目に焼き付いてしまった彼女の姿を必死に消そうとした。
海希「おやすみ」
海気から優しく声を掛けられたが、レイルは返事も出来ずにいた。
確実に、彼女に毒されている。
こんなタイプの女性と出会うのは初めてだった。




