彼女からのもてなし
女の名前は、どうやら”イナガワ アマキ”と言うらしい。
馬鹿みたいに自己紹介してくれた女の名前から読み取れるのは、自分の知らない世界の人間らしく、そしてここが、全く別の世界だという事だった。
今レイルがいるのは、彼女の住むアパート。
傷を負った彼は、海希に連れ込まれていた。
そして、何故か手厚い看護を受けている。
海希「ご飯食べる?」
目の前に置かれた水の入った器と鶏肉。
鶏肉に至っては、彼女の手の上に乗せられている。
レイル「....毒は入ってないだろうな?」
レイルにとって、知らない世界の知らない人間だった。
名前で相手の事をなんとなく把握したが、警戒するのは怠らない。
自分の知り合いにだって、平気で毒入りのお菓子を勧めてくる奴だっているのだから、この女だって例外ではなかった。
海希「うーん、食欲ないのかな...」
食欲の問題じゃない。
お前の人間性の問題なんだよ。
と、レイルは彼女に疑いの眼差しを向け続けている。
その視線を逸らす事はない。
簡単には心を開いたりはしない。
それが、猫の性と言うものだ。
海希「食べないなら、私が食べるからね」
と、彼女はそれを小さくちぎって口にした。
もぐもぐと、口を小刻みに動かしている。
レイル「た、食べないなんて言ってないだろ!」
お腹は空いている。
ただ、お前の人間性を確かめているんだ。
が、レイルの声は相手に届かない。
海希「うん、美味しい」
レイル「〜〜っ!!!」
彼女は、とても美味しそうに食べていた。
わざわざ毒味をしてくれたので、どうやら相手は自分が警戒するほど悪い人間ではないようだ。
毒が入っていない事は確認したので、彼女の手元にある残りに鼻を近付けた。
海希「待ってね、今あげるから」
再び、手の上に乗せられる。
少し鼻を近付け匂いを確認する。
そして、それをがむしゃらに食べた。
レイル「...うまい」
手に付いた鶏の味も、綺麗に舐めとった。
それでも、まだ空腹は満たされない。
レイルは彼女を見上げた。
レイル「もっと食べたい」
何故か、海希の頬が赤くなる。
レイルの言葉が伝わったのか、急いで次の鶏肉を手の上に用意してくれた。
レイル「なかなかイケるな。凄くうまい」
満足すると、目の前の水を飲んだ。
舌を使って、水を舐めとる。
喉も渇いていたので、とても生き返る気分だった。
海希「あぁ...可愛い...!!!」
突然大声を出され少し驚いたが、彼女は自分の頭を優しく撫でてくれた。
とても暖かい。
自然に瞼が重くなる。
気持ち良い....
何故だか、落ち着く。
とても安心するのだ。
その気持ち良さに、レイルはその場で体を丸め瞼を閉じた。
海希「あ、名前決めてあげなくちゃ」
彼女は彼女で、どうやら夕食にありつくようだった。
うっすらと耳に入る海希の声。
彼女の声も、懐かしく感じる気がする。
海希「タマ...だとありきたりだよね...」
レイル「...そんなダサイ名前を付けて貰わなくても、俺にはちゃんとした名前があるっての」
ちらりと彼女に目をやる。
彼女もレイルを眺めていた。
レイルの事を観察しているようだ。
そして深く考え込む様子で、突然、パッと閃いたように言った。
海希「....コロ、で良いか」
レイル「にゃに!?」
全然良くねぇだろ!!!
センス悪過ぎじゃねぇか!!!!
全く必要のない名前を付けられてしまい、レイルは肩を落とした。
この女には、センスがない。
センスが無さ過ぎる、と。




