彼女との出会い
痛い。
どこがどう痛いのかも分からない。
ただ、体中に痛みが走る。
薄っすらと持ち上げた瞼。
目に映る視界は、とても薄暗い。
湿気のせいでジメジメとしている。
レイル「ここ....どこだ...?」
体が上手く動かない。
身体は重く、頭もクラクラとしていた。
自分が知っている森ではない。
嗅いだこともない匂い。
知らない場所だと言う事は明白だった。
マナの気配を感じないので、どうやらこの辺りは、マナの力が届かない場所みたいだ。
しかし今のレイルにとって、マナの力に頼ったところでどうにかなる状態ではなかった。
レイル「....くそっ....いてぇ....」
何も考えられない。
頭がぼぅーっとして、そこで動けずにいた。
口を切っているのか、血の味がする。
体の痛みに、呻く事しか出来ない。
そんな自分が嫌になった。
レイル「格好悪いよな、俺.....」
ゆっくりと瞼を閉じる。
湿気でジメジメとする硬い土の上。
日の光も入らない、暗い場所に1人きり。
知らない場所で、死んでしまうかもしれない。
それも、悪くないかもな...
もともと、ずっと1人だった。
今更誰かに見届けて貰わなくても、辛くはない。
むしろ、1人の方が楽だった。
今までだって、ずっと1人でいたのだから。
こんな格好悪い自分を、誰かに見られなくて済む。
そう考えると、気持ちが楽になった。
ガサガサっ....
耳に入り込んだ音。
葉がこすれ合う音の次に、土を踏みしめる音が聞こえた。
それは、まさしく誰かが近付いて来る音だった。
薄れる意識の中で、レイルは耳をピンッと張り、その音に集中した。
瞼を開ける。
目の前にいたのは、知らない女が1人。
??「あっ....」
相手が、少しずつ近付いて来る。
とても大きな体の人間。
距離が縮まっていくほどに、その大きさは歴然になっていく。
レイル「来るな!!!」
立ち上がろうとしても立てなかった。
相手の女を睨むが、彼女の動きは止まらない。
女「怪我しているの?」
女は言った。
心配そうにこちらを見下ろしている。
とても大きな女に、レイルの恐怖心が高ぶった。
女「大丈夫、怖くないからね」
レイル「触るな!!!!」
近付いてきた彼女の手を、レイルは咄嗟にはね退けた。
その時、自分の今の姿がどうなっているのかに気が付いた。
毛むくじゃらの丸い手。
鋭い爪が剥き出しになり、その先に血が付着しているのが分かった。
その光景に目を疑うしかない。
いつもの姿をしていない。
レイル「!?」
女「いったぁぁ....」
弱々しい女の声。
手の甲を摩りながら、悲しそうにこちらを見ている。
女「大丈夫よ、大丈夫だから」
自分の怪我など御構い無しに、こちらに優しい笑顔を向けている。
そんな事で、自分は心を開かない。
それでも、怪しい女はレイルの鼻に指先を近付けてくる。
レイル「.....」
知らない相手。
なのに、どこかで嗅いだ事のある匂い。
安心させてくれる匂いがした。
その為か、レイルの警戒心が徐々に解かれていく。
体の力がスゥーッと抜け、その場に突っ伏した。
女「と、とりあえず、怪我をなんとかしないと...」
相手の女は、隣で慌ただしくしていた。
レイルは、ゆっくりと瞼を閉じる。
瞼が重く、その眠気に体を委ねたのだった。




