表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OTOGI WORLD   作者: SMB
* the future to choose it *
72/92

目覚めの日


海希「......?」


目が覚めたのは、どれくらい経ってからだったのだろうか。

気が付けば、私の体は暗い茂みの中に倒れていた。

木々や何か大きな建物に遮られて、日の光が入らない場所。

少し湿っぽい臭いがする。


海希「...あれ?」


頬に張り付いた葉を剥がしながら、ゆっくりと体を起こした。


ここは何処だろう。


浮かんだ疑問を膨らませながら辺りを見まわそうとした時、足元にあった黒い毛玉が視界に入った。


黒と白の毛並み。

小さな体を丸くしている猫。

その姿に、思わず目を見開いた。


海希「コロ!?」


咄嗟にコロを抱き上げた。


私の可愛がっていた猫。

どう見ても、その猫はコロだった。


どうやら眠っているらしい。

小さな寝息を立てながら、体がゆっくりと上下している。


海希「良かった...怪我はないよね」


頭を撫でてやった。

無意識なのか、私の胸の中で顔を擦り寄せてくる。

その動作が、とても愛くるしい。


海希「.......」


....これってレイルなんだよね?


と、私自身に問いかける。

答えなんて分からない私は、ただコロを見下ろしていた。

猫の姿に思わずコロと呼んだが、この子はレイルだ。


...いや、私はここでずっと夢を見ていたのかもしれない。


変なおとぎの国の夢を見ていた。

昔のおとぎ話の記憶がリンクして、私の腹黒さによってキャラ変した登場人物達。


そちらの方が断然に有り得る話だ。

レイルと言う青年の存在は、本当は私の夢の中だけの人物なだけで、今までのは全てが夢。

それなら、全て納得が出来る。


海希「それが本当なら、私の頭の中って一体....」


...恥ずかしい。

とても恥ずかしい事になっている。

恥ずかしいを通り越して、かなり痛い。

こんな事は、誰にも言えない。


??「...こんな事って本当にあるのね」


耳に入って来た聞き覚えのある声。

その声に懐かしさを感じた。


私は立ち上がり、茂みの中から外を覗いた。

場所は、私が通い慣れた大学だった。

いろんな生徒達が行き交う、広いキャンパス内。


どうやら、大学内で寝ていたみたいだ。

もう何が現実で何が夢なのかいまいちよく分からないが、今居るのは私が通っていた大学らしい。


私の視線の先には、よく3人で座って午後過ごしたベンチがある。

そこに座っている女子生徒。

私の顔は、思わず綻んだ。


海希「唯、ありさ....!!!」


その2人が、並んでベンチに座っている。

いきなり会いたかった友達に会えてしまった。


これはラッキーだ。

私はレイルを優しく抱え直し、茂みから一歩踏み出した。


唯「じゃぁ、あたし達がずっと一緒にいた海希ちゃんは幽霊だって言いたいの?」


踏み出した一歩が動かなくなる。

聞こえてくる話し声に、私は耳を疑った。


ありさ「そうは言ってないけど...いや、でも...」


私が幽霊?


眉を寄せながら、2人を眺めていた。

一体、2人は何の話をしているんだ。

とりあえず、私は足を引っ込めて茂みの中から2人の様子を伺う事にした。


顔を顰めながら話す2人の姿は、なんだか様子が変だ。


ありさ「それに、川に遊びに行った時の服装で見つかったって....海希が居なくなった日から考えても計算が合わないし。やっぱりあれは....」


唯「そんな...じゃぁ、あたしは幽霊に嫉妬していたの?」


ありさ「分からない。私だって混乱しているんだから。でも、まさかあの子が本当に...」


いやいやいやいや、まてまてまてまて。


混乱しているのは私の方だ。

どうして私が幽霊扱いされているんだ。

この通り、いたって元気に過ごしていたし、足だってまだある。

体は透けていない。

つまり、私はまだ魂だけの存在になっていないと言う事だ。


考えれば考えるほど頭が混乱する。

いつの間にか幽霊扱いされている事に不快な気持ちがこみ上げ、眉間のシワが深くなる。


ありさ「...ちょっと飲み物買ってくる。唯も何か飲む?」


静かに頷いた唯を見て、ありさはその場から離れていく。

その瞬間、私はチャンスだと思った。


1人になった唯。

人が居ないのを確認してから、恐る恐る茂みの中から抜け出した。


ゆっくりと、唯に近付いて行く。

一定の距離に近付いた所で、私は彼女に声を掛けた。


海希「...唯?」


唯「!?」


声を掛けた瞬間、唯は物凄い形相をして私を見た。

その顔を真っ青になり、一瞬にして体は震え、目には涙を溜めている。


唯「海希ちゃん!!!?」


勢い良く立ち上がり、後退る。

そんな彼女に、私は少しずつ距離を詰めた。


海希「あの...あのね、唯...」


唯「来ないで!!!!いやぁぁぁあ!!!!」


聞いた事のないような叫び声だった。

まるで海外のホラー映画のワンシーン。

私の体が大きく飛び上がる。


唯「ごめんね...!!!ごめんね、海希ちゃん!!!あたし、先輩の事で海希ちゃんを避けてた!!!謝る事も出来なくて...あたし、海希ちゃんに何て言えば...!!!」


その場に崩れる唯は、激しく泣き始めた。

尋常じゃないほど彼女が興奮しているのが分かる。


唯「ごめんね、ごめんね...!!!あたしの事、怒ってるよね!!?ごめんね...」


ひたすら謝られる。

私はどうして良いのか分からず、怯える唯に近付いた。

けれど、私が近付けば近付くほど彼女は怯え、そして泣きじゃくる。

泣きながらずっと私に謝ってくるのだ。


そう言えば、唯に話をしようと連絡しておいて、消えたのは私だった。

彼女とは、まだ何も解決出来ていないまま。


海希「...怒ってなんかいないわよ」


優しく頭を撫でた。

いつも可愛らしくアレンジしている髪は、どこもいじらず肩まで髪を下ろしている。

お洒落な唯にしては、とても珍しい。

私の事を、ずっと心配してくれていたのかもしれない。


海希「私の方こそ、ずっと話ができなくてごめんね。唯に会えて良かった」


彼女の言葉が聞けて良かった。

それだけ言って、私は唯の頭から手を離した。


まだ下を向いて泣いている彼女に、どんな言葉を掛けて良いか分からない。

何故か私に酷く怯えている。

そんな彼女に戸惑いを隠せなかった。


ありさ「.....唯!?」


ありさの声が聞こえた。


私は、唯を置いて反射的に走り出していた。

つまり、その場から逃げたのだ。

校舎の裏に回り、その陰から様子を伺う。

これでは、まるでスパイみたいだ。


ありさ「唯!?唯、どうしたの!?」


唯「ありさちゃん!!!」


助けを求めるようにしてありさを抱き締める唯は、さっきよりも大きな声で泣いていた。

私が泣かせてしまったのだが、理由がさっぱりだ。

さっぱりだったので、ありさに会うのは避ける事にした。


私を見た唯の顔が忘れられない。

一気に青ざめ、まるで幽霊でも見ているような顔。


なんだか、凄く傷付いてしまった。

友達にそんな目で見られるなんて...

泣きたいのは私の方だ。


私は大学を出た。

向かうのは、私自身の家。

私の歩くスピードは、自ずと速くなっていた。







実家を離れ、1人で住んでいたアパートの一室。

二階の角部屋。

その扉の前に、もはや立ち尽くすしかなかった。


扉には、立入禁止と書かれた黄色と黒のテープが張り巡らされている。

まるで、何か事件でもあった後のようにだ。

この現状に、私はゴクリと息をのんだ。


海希「...何で?」


額から汗が滲んできたのが分かる。

こんなテープ、今すぐにでも引き剥がして中に入りたい所だが、鍵が掛かっており扉を開ける事が出来ない。


理由が分からない。

唯が泣く理由も、私の家がこんな状態な理由も。


なんだか気分が悪くなってきた。

重くなる頭を押さえながら階段を降りる。

アパートから出て、行く宛もなく歩くしかなかった。

行くとしたら実家しかないのだが、残念な事に電車賃が手元にない。


歩いて行けない事もないけど...。


行き着いた先は公園だった。

コロと一度、散歩がてらにやって来た公園。

ここで、日向先輩に出会したのを覚えている。


ベンチに座り、膝の上にコロを置く。

まだ気持ち良さそうに眠っているのが羨ましく思えた。


ふと、隣にあるゴミかごの中に新聞を見つけた。

その束を引き抜き、広げてみる。

今日が何月何日で何曜日すら分からなかったので、日付は確認しなかった。


真っ先に見たのはニュース欄だ。

一つずつ丁寧に目を通していく。

私の顔写真、もしくは名前があるかどうかを探した。

敷き詰められた小さな文字は、少しずつ私をイラつかせた。


海希「あった...」


滲んだ汗が、頬を伝って落ちた。

顔写真は無かったが、フルネームでしっかりと私の名前が載ってある。


簡単に説明すればこうだ。


少し前に、山で見つかった女性の死体。

見つけたのは、たまたま川に遊びに来ていた男女のグループ。

当初、死体の女性の物と思われる荷物から、彼女の身分を証明するような物が無かったが、警察が念入りに調べたところ身分を割り出す事が出来た。

死体の女性は、大学生の稲川海希だと判明。

稲川海希は、約一週間前から行方不明になっており、家族からの捜査願いが出されていた。

彼女が行方不明になったのはこれが2回目だったそうだが、前回は山の中で行方が分からなくなった。

しかしすぐに彼女は見つかり、無事に保護する事が出来た。

今回は、その同じ山での死体発見だった。

今回彼女が行方不明になったと同時に、当時強盗及び殺人容疑で指名手配されていた柳健真が、稲川海希の実家である場所で逮捕された。

そこに住む彼女の両親は幸いにも外出中であった為、怪我もなく無事だった。

男は、銃を持った男、人が消えた、などと意味不明な発言をしており、警察は稲川海希がこの時から何らかの事件に巻き込まれていたと見て慎重に捜査を続けている...らしい。


ついでに言えば、この柳健真が私を襲った強盗の男だ。

あの男は、あの後無事に捕まったらしい。

それに、お父さんもお母さんも生きている。

とりあえず、そこには一安心した。


私のせいで、あの山に取り残された稲川海希の死体。

彼女が、やっと見つけて貰えた。

けれど、私の心中は穏やかではなかった。


そして、この"銃を持った男"と、"人が消えた"という箇所。

そこもかなり気になる。


私の心臓はバクバクと脈を打っていた。

重たかった頭は更に重みを増す一方で。


それでも、その記事から目が離せずにいた。

配列する細かい字を睨み付けながら考え込んでいると、小さな鳴き声が聞こえて来た。


声というのは、猫の声。

可愛いその声に、私は広げていた新聞紙を退けた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ