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OTOGI WORLD   作者: SMB
* the future to choose it *
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繋がる夢と世界


舞踏会が開催されたあの日から、しばらく日が経った頃。


私は、ここにやって来た時に着ていた服に袖を通した。


向こうの世界で買った普段着。

実家に帰る為のものだったので、そこまで着飾った服ではない。


廃車されたバスの家を出ると、外で待っていたのはレイルだった。

私が出て来ると、彼はいつものように擦り寄って来る。


レイル「もう少しこっちでゆっくりしてても良かったんだぜ?帰るったって、そんなに急ぐ事はないんだろ?」


海希「なんだか落ち着かないの」


きっと、大学にも迷惑を掛けているに違いない。

私は行方不明のままなのだから。

もしくは、時間があのまま止まっていてくれれば良いのだが。


レイル「そっか。じゃっ、ちゃっちゃと済ませよう」


その言葉に、少しだけズキっと胸が傷んだ。

確かに、帰る事を選んだのは私自身だけど...


そんなに早く別れたいのだろうか。

さっきまでベタベタと甘えてきてたくせに、本当に切り替えが早い奴だ。


そう思っている中、彼は拳銃を取り出していた。

目の前で発砲すると、大きな魔法陣が現れる。


クルクルと回る不思議な光の輪っか。

よく考えてみれば、この光景にも慣れたものだった。

初めて彼の拳銃を目にした時は、あんなに肝を冷やされていたのに。


いつものように、レイルに手を握られる。

レイルの全ての行動に慣れてしまったのだから、私は完全に彼に毒されている。


魔法陣を潜ると、辺り一面に草原が広がっていた。

そして、目の前には大きな大樹だ。

見上げてもてっぺんが雲を突き抜けているので見えない。

ただ、その空に緑が広がっている。

その大きさは、一体どれくらいなのだろう。


レイルに手を引かれ歩いて行く。

壁のようにそびえ立つ大木は、木と言うよりも大きな建物に見えた。

ひらひらと舞う緑の葉が、花弁のように風に揺れながら散っていく。

とても美しい光景だった。


海希「やっぱり、思い出せない」


私は、ここに一度やって来た事がある。


その時も、隣にはレイルがいた。

ここでレイルに別れを告げて、彼から自分の全ての記憶を奪った。

私にも、その記憶はない。


今回は記憶を奪う事は出来ないけれど、彼に別れを告げなければならないのは同じ。

あの時のエマも、こんな気持ちだったのだろうか。


レイル「思い残す事はない?」


そう言われ、頭に浮かんだのはいくつかの事だった。


結局、本当の両親の事を思い出せなかった事。

ピーターやドロシー達に、ちゃんとお別れを言えなかった事(なんだか辛くなった)。

他にも、この世界の秩序を守るべく法律を見直すべき箇所(銃刀法違反や監禁罪など)を王妃様、あるいは王様に意見すべき事。

ピーターの緑が好きと言う趣味(偏見)をはっきりと意見すべきだった事や、セリウスとロイゼには一発ずつ拳をお見舞いしてやる事など、思い残した事はたくさんある。


けれど一番に思ったのは、やはり目の前にいる彼の事だった。


海希「...大丈夫。いつでも行けるわよ」


本当は、このまま軟禁されたかったのかもしれない。

私は言われるまでもなくドMではないが、彼と離れてしまう事がなんだか心残りだ。


なんだかんだで、レイルの事が好きだったんだと思う。

実際に、彼にもそう伝えた。

それは男としてか猫としてなのか、答えは中途半端にしておく。

認めてしまえば、それこそメルヘン過ぎる話になってしまう。


私の気持ちは、この世界に置いていく事にした。

もう二度と、彼とは会えないからだ。


レイルが拳銃を撃った。

ユグトラシルの根元に当たり、現れた魔法陣が黄色く光っている。

いつもの青白い光ではない。

あの映像で見た時と同じように、その場でクルクルと回っていた。


海希「...じゃあね、レイル。ちゃんとご飯、食べなきゃ駄目よ?」


少し間を置いてから、私はレイルの手をゆっくりと離した。

最後のお別れなのに、なんだかお母さんサイドの台詞になってしまった。


海希「たまには遊びに来てね。ちゃんともてなしてあげるから...今度は、私があっちの世界を案内してあげる」


長いようで、短かった彼との生活。

少しずつ蘇ってくるレイルとの思い出。

コロだった頃の彼との心の距離はあんなにも遠かった筈なのに、いつの間にか私の隣にいる。


いや、彼はコロじゃない。

彼には、ちゃんとした名前がある。


レイル・チェシャ・キャット


とても不思議な名前で、不思議な存在。

私には、名前だけで相手の事を読み取る事は出来ないけれど、レイルがどんな人なのか知っている。


いつも側にいてくれる優しい彼。

強引で短気だが、まっすぐに想いを伝えてくれる。

素直じゃない私だから、そんな彼に惹かれたのかもしれない。


目頭が熱くなるのを感じながら、私は無理に笑顔を作った。


海希「あと、ドロシーにもっと優しくするのと、ピーターとは仲良くしなさいよ。それから、その短気な所も直さないとみんなに嫌われるわよ?」


それから...


次から次へと出てくる言葉。

私がやめてしまえば、もうここから去らなければならない。

私自身が帰る事を引き止めるように、なんでもないような言葉が口から溢れてくる。


けれど、それが長く続く事はなかった。

自分で決めた事なのに今更気持ちが揺らいでしまうなんて、とても情けない。


一通り話し終えた後、私は振り切るように深呼吸した。


海希「じゃぁ、元気でね。さような...」


さようなら。

定番の別れの言葉を口にしようとした時だった。

その言葉を最後まで言い切る事が出来なかったのは、彼が痺れを切らしたかのように私の台詞を遮ったからだった。


レイル「煩いな〜、なんで急にお説教モード?しかも永遠に会えなくなるみたいな言い方やめろよな。ほら、早く行かないと閉じちゃうだろ」


と、ガシッと手を掴まれる。

スタスタと歩いて行くレイルに、私は耳どころか目も疑った。


海希「え!?何処行くの!!?」


レイル「何処って、向こうの世界だろ?今更何言ってんだよ?」


海気「何って...ちょっと!!とりあえず、離しなさいよ!!!」


レイル「離さない。いつもこうやって一緒に移動してただろ?」


海希「そうだけど!そうなんだけど、あんたはいらないでしょ!?」


このままレイルも飛び込む気なのか。

いや、飛び込む気満々の態度をしている。

ズルズルと引きずられながら、私は抵抗した。


レイル「俺がいなきゃ、こっちに帰って来れないだろ?何変な事言ってんだ?」


海希「変な事を言っているのはあんたよ!!!」


どうして一緒に行く気なんだ。

ついて来いとは一言も言っていない(言えなかった)筈だ。


海希「なんで!?レイルはここが好きなんでしょ!?」


レイル「まぁ、向こうの世界よりこっちの方が好きだけど、でもアマキが一番好きだから。アマキの用事が済んだらこっちに帰って来て、また一緒に住めば良いだろ?」


海希「あんた...前に私を幸せに出来ないって言ってたかった!?」


元の世界に、レイルが思うような人はいない。

だけど、大好きな両親や友達がいる。

その話をした時に、彼は私を幸せに出来ないと言った事は今でも鮮明に覚えている。


レイル「言った。だって、あんたの好きな人を殺したら、アマキは幸せじゃないだろ?でも、あんたは俺を好きだって言ってくれた。だから俺がそいつを殺しても問題ないって事だ」


海希「問題あるわ!問題あり過ぎよ!!!」


問題ないのはこの世界だけだ。

向こうの世界に行けば、彼は確実に刑務所送りになるだろう。

だいたい、彼の言っている意味がよく分からない。


レイル「とにかく、あんたに何人好きな人がいようと、俺は本命以外になるつもりなんてない。って言うか俺1人で十分だし、そうなると残りの奴らを消すしかない。猫は独占欲が強いんだ。あんたもその辺は理解してくれよな」


海希「そんなバトルロイヤルは開催しないし、私を魔性の女扱いするのはやめて!!!」


なんて人聞きの悪い。

さっきから黙って聞いていれば、人を何だと思っているんだ。

好きな男性なんて、向こうの世界にはいない。

好きの意味が違うのだ。


レイルに引っ張られるがまま、私はいつの間にか魔法陣を潜っていた。


目の前が真っ暗になる。

体が宙に浮いているような感覚。

明らかに、いつもと違う。


瞼が重く、頭がクラクラとする。

暗闇の中に、体が落ちていく。

私がここにやって来た時に感じた、夢に落ちるような気分だった。


眠いのだ。

目を開けていられない。

私は眠気に誘われて、そのまま目閉じてしまった。

体が軽くなり、少しずつ気が遠くなっていく。


意識がなくなったのは、自分でもいつだったのか分からなかった。




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