上海便りA
前編、中国戦線。
新兵のユウコと奈緒子の友情物語です
陸軍兵学校卒業後、東條奈緒子と忍ユウコは漢口陸軍航空隊に配属された半年後、人員不足のため陸軍第三七飛行戦隊、通称は上海航空隊へと移り慣れない生活と、戦闘を経験することとなった。
1937年2月23日
上海郊外に位置する、上海陸軍航空隊基地の中には二人の搭乗員が、爆音で包まれる飛行場に立っていた。
みどりの黒髪のユウコ、前髪をパッツンのショートヘアは奈緒子の両者15歳という若さが前線に入るのは普通である。
少年航空兵とほぼ同様だが彼女らは2歳若いので、体力的、精神的にもまだ未熟であるが、軍の訓練を積んだ彼らなら平気だと思われる。
漢口近辺で戦闘を繰り返す陸上部隊の支援のため、上海陸軍航空隊の戦闘機達は出撃準備を行っていた。
「奈緒子、俺の列機につけ」
大鳥浩次大尉に率いられる奈緒子は、
「はい!」
と敬礼と大きな声で返事をする。表情から見られる緊張感に大鳥の内心は、
(こいつは大丈夫だろう・・。あの娘だしな・・)
内心で呟いた。
「ユウコ、俺の列機だ。三番機な」
「は、はい!」
おどおどと落ち着かない様子で、返事をしたユウコの表情を見る。
(心配だな・・。死ななきゃいいけど・・)
両者二人はヒヨコで、特に奈緒子は表向きは強がっているが、内心ではかなり心配しているのか、手を胸に当てて、ユウコは「今日死ぬかもしれない」という最前線の前に心臓が破裂するほど緊張していた。
「よし、乗れ」
二人は愛機の陸軍九七式戦闘機と言う単座機の座席に座り、整備員らがベルト類の着用と共に、エンジンの始動を開始した。
基地中が爆音で包まれて指揮所から、「発進せよ」の旗が風に揺れながら上がると、次々に戦闘機たちは翼を連ねて離陸していく。
胴体に赤鷲のシルエットを入れた奈緒子機も粉塵を蒔いて、飛行場から飛ぶと薄茶色の鷲マークのユウコ機も後ほど離陸して、みるみるうちにゴマのように小さくなる。
カーキ色の大地が一面広がる空の下、戦闘機隊が20機と爆撃隊12機が単従陣の編隊で漢口の戦闘地域めざして飛行をしていた。
高度4500m。
20機の一番後ろにユウコ、その19番機に奈緒子と、敵機にとって非常に格好な狙い位置にいた。
ユウコ、奈緒子は訓練通りの厳重な気配りで周囲を見渡す。
とは言え東條奈緒子は陸軍兵学校でも"なぜか実戦経験を持っている"身なのでその余裕はあり、多少の緊張と共に落ち着きながら行動している。
一方ユウコも同様に落ち着きを保っている。
するとユウコの目になにかが映った。
「敵機だ!」
彼女は叫び、スロットルレバーを倒して中隊長機の前に戦闘機を近寄らせ、手信号で左に手を振ると中隊長はこれを確認。翼を揺らしてバンクした。
国民党軍が同高度、総勢14機の戦闘機を連れてユウコ達の居る編隊機の横っ腹を狙う矢のように、突っ込んでくる。
爆撃隊の銃座はすべて敵戦闘機向けて弾幕を張り、散った陸軍航空隊は突っ込んできた国民党軍の戦闘機に攻撃を開始。空戦が始まった。
お目にかかるI-15複葉機だが、彼女達は漢口にいた時も一度戦闘したことがあるの代物だったので積極的に空戦に入ろうとする。
陸軍航空隊と国民党空軍の空戦技術は互角。
1機のI-15が陸軍の九七式重爆撃機の最後尾、それめがけて頭上から銃撃を浴びせかける。
機首の7.62mm機関銃口は火炎を放ち、空に描いた曳光弾は左翼の日の丸に集中し撃たれて蜂の巣に変わり果て、ダイブした敵機は再び機首を上げて第二攻撃を仕掛ける。
そこに大鳥小隊の戦闘機1機が襲撃した。
ドッグファイトに優れた九七戦闘機はI-15を追い込み、敵との距離を急激に縮めて、大鳥は身を前に出して照準スコープに目を当てた。
押した発射機に、機首の機関銃が連射して撃たれる。
I-15のパイロットは背中を貫かれ、操縦不能に陥った機体は真っ直ぐ機首を向けて墜落していく。
一方ユウコは、動き回る大鳥機に何とかついていくがこれが精一杯。
不安に奈緒子の機体を探すが、その姿も無く、なぜ自分が2番機の位置に居るかも不思議だった。
「あれ、奈緒子がいない・・」
晴天の空を見渡しても空戦をする戦闘機だけが目に入るだけで、奈緒子機らしきものがないので、機体を傾けて地上を探した。
(奈緒子が3機の敵機に襲われてる!)
断雲との間、地上から奈緒子機の高度は3500mにまで落ちていた。
ユウコは助けに行こうとするも、
(私は小隊長を守る役目だけど、行っていいのだろうか・・)
そんな不安と先の説教の事まで考えている。漢口航空戦でも奈緒子を助けたが「助けなくていい」といわれたことがある。
彼女は迷い、下した決断は「助けにいかなきゃ」と判断して、機体を地上まっすぐ急降下させた。
(怒られることなんかより奈緒子を助けよう)
彼女の判断で奈緒子の生死を左右する。
奈緒子は3機相手にしても軽快な動きで九七戦闘機を操る。
しかし表情からは苦い顔で、焦りと共に何とか撃墜しようと必死でいた。
なぜならユウコより撃墜数が少なく一つでも多く墜落とすことばかりに夢中になっている。
そこに急降下したユウコ機の九七戦が、奈緒子機と踊るI-15を照準いっぱいに銃撃を加え、直上から浴びる弾丸の雨に敵機は空中で爆砕。
操縦桿いっぱいに引いたユウコの体に、重力が圧し掛かる。押し潰されるほどの圧力に耐えて、再び第二の攻撃を加えようとした。
が、奈緒子はこれを歓迎しなかった。
唇を噛み、一撃の攻撃を繰り返すユウコ機をじっと睨んで「負けない」と言う意気と悔しさを胸に、急いで敵機の追撃に走った。
すでに2機撃墜したユウコ、1機撃墜した奈緒子。
爆撃を終え、帰路に着こうと上海へ戻る編隊機の後に続いて、雲の中へと消えていく。
上海陸軍航空隊飛行場では、任務を終えた戦闘機たちが静止していた。 その中のユウコは機内ベルトを外し、一目散に奈緒子機に駆けつける。
ちょうど奈緒子も操縦席から出てきたところなので、
「奈緒子、大丈夫?」
と声をかけた。
奈緒子はユウコに近づく。
着陸まで溜め込んだ不満と嫉妬、鬱憤を晴らすように、
パンッとユウコの頬を叩いた。
「どうして割り込んできたんだ!せっかく撃墜できたのに!」
ユウコは唖然として、叩かれた頬を触れながら「なんで叩くの!」理不尽な行動に彼女も怒鳴る。
「いつも私が戦ってるときに、割り込んで撃墜数を稼いで・・ユウコはずるいよ!」
ユウコは今まで言われた「助けなくていい」と言う言葉にようやく理解する。
この場に理解しない奈緒子にも苛立ったのか、
「そんな訳ない!今は戦争中!私は奈緒子が死ぬところを見たくない!そんなに稼ぎがほしいなら好きなだけ突っ込んで死ねばいいじゃないか!」
この言葉に奈緒子は衝撃を受けた。
軍学校時代でも仲良く学んだ友から、「死ねばいい」と言う言葉自体飛ぶとは思っておらず、次に出す言葉がなくなり、奈緒子は口を閉ざして何も言わないまま走り去ってしまう。
(言い過ぎちゃったかな・・)
ユウコは反省する。
そして大鳥に呼び出されこっ酷くしかられ、奈緒子同様に落ち込んでしまう。
翌日、再び漢口近辺上空を制圧するため戦闘機隊が発進した。
ユウコ、奈緒子も同様に大鳥小隊の列機についたが、気分は以前として落ち込んでまた、士気も同様に低下していた。




