上海便りB
PCのほうを買い替えました。
一応これにてサブストーリーは終了とさせていただき、引き続き"虎の子戦車隊"のほうをお楽しみください
漢口上空で空戦が始まる。
国民党軍、I-16、I-15の混成部隊と日本陸海軍航空隊共同、九六式艦上戦闘機、九七式戦闘機が合流した後、断雲の多い空の中乱戦が始まった。
高度4000m・・。
ユウコ機は大鳥の背後を襲うI-16を視認。躊躇いもなく機銃発射機を倒し銃撃を浴びせかけた。
墜落するI-16を見届けるユウコ。普段なら嬉しい顔になるのだが、今回はそうでもなくあまり嬉しくない様子だ。
昨日の今日と奈緒子と口を話さず、「これでいいのかな」といろいろ心の積荷を背負いながらの出撃だったので、空戦する気分でもない。
奈緒子も同じ思いである。
特に友から言われた言葉がショックで思い出すたび胸が痛くなるほど。
しかし、奈緒子自身を痛みつけるモノが、彼女の機体の下部から忍び寄る。
飛行機の下部は死角で敵がまったく見えない、相手からすれば絶好の位置でまた、一撃必殺に等しい場所なのだ。
I-16の照準の中で回避もなく、ただ呆然と飛ぶ奈緒子機に機銃から火が噴かれた。
左翼を集中的に撃ち抜かれると簡単に翼が折れて、奈緒子機は錐揉み落下で地面に向う。
奈緒子は何が起きたか分からず主翼を見たときにようやく状況がわかる。
(あっ、死ぬのかな?)
昨日の不運の言葉が的中してしまったと思いこむ。
だがユウコは奈緒子の撃墜を目撃すると、奈緒子には届くはずもない風防越しからの「脱出しろ、奈緒子」と何度も連呼する。
奈緒子は訓練期の頃から散々言われた教官の言葉を思い出させる。
『生きることを第一に戦え』
とにかく生きることを優先に奈緒子はキャノピーを引き開けて、機内ベルト、バンド類を外し、冷たい気流が流れ込む漢口上空に身を放り投げた。
ユウコの目には純白の花が咲いた。
彼女はホッと一息する。しかし安心するのはまだ早く、奈緒子を撃ち落したI-16はユウコに向けて再び銃撃を浴びせかけた。
後方から流れる赤の弾丸に、ユウコは背後に敵がいることに気づいたがそれも遅く九七式戦闘機は瞬く間に蜂の巣に変わり果てる。
幸いにも座席に被弾することもなくユウコは機体を棄てて脱出。
攻撃したI-16は海軍機によって撃墜された。
白い霜がまだ残る漢口の戦闘地域では機関銃の音が空に何回も響いて、轟く爆音は雷鳴のようにも聞こえる。
冷たい大地に降り立った彼女達は落下傘を切り離して合流する。
「奈緒子、大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
「どうしよう・・。どうやって上海に帰ろう・・」
漢口近辺では激しい戦闘で、陸軍がいずれ取り替えそうにも時間がかかるし敵やゲリラが潜んでて迂闊に動けない。
(じっとしてても意味がないや・・・)
遠くの山岳を見渡すユウコは、腕時計に備えられた方位磁石で来た方向を探し当てる。
視界に入る機影に空を見渡すとちょうど東のほうから友軍機が飛行しているのを視認した。
(もしあれが着陸するならばもっと平面のところじゃないと無理かな・・。一応草原だけど、小石や岩があちこちにある・・)
彼方から弾丸が飛翔する。
止まることを危険と知ったユウコは奈緒子を連れて、日本軍機が飛来する方向へと走り出した。
「ちょっとユウコ!大丈夫なの!?」
「わかんないよ」
「わかんないなら、なお更危ないじゃんか!」
ユウコは脚を止めて奈緒子に振り返った。
パンッと奈緒子の頬を叩き、
「落ち着いて奈緒子・・。私がいるから安心して・・。お願いだから。きっと帰れるから・・」
やや興奮気味の奈緒子を黙らせたユウコに、彼女は「な、なに男の子みたいなこと言って・・バカじゃないの・・・」と恥ずかしそうに顔を逸らす。
二人とも深呼吸しながら落ち着かせ、護身用の1拳銃をホルスターから抜いて行動を開始した。
薄茶色の伸び生えた草地に足を踏み入れた途端、国民党軍兵士が立ち上がるとユウコは初めて見る敵の顔に動揺するも透かさずM1911を発砲。
2連射で敵兵は仰向けに倒れこむ。二人は近寄り、ユウコは飛行ブーツで突くと息はしている。
腹に2発の弾痕。カーキ色の軍衣が血で染まる。
「い、生きてるよ・・!どうするのユウコ・・!」
息を荒くし今にも泣きそうな奈緒子を背に、ユウコは敵兵が所持していた小銃、弾倉ベルトを奪って、
「生きてるもなにも、戦争だからしょうがないよ・・。はい、これ持って」
ずっしりと重たい小銃を奈緒子に持たせると「何するの・・」と未だに状況をつかめてなく「戦いながら帰る」とユウコは、国民党軍兵士が着用していたドイツ製ヘルメットを着用しながら言う。
冷静に見えるユウコだが自分でさえこの判断はいいか迷い、また極度な緊張と震えと戦いながら、
(落ち着け、とにかく戦って帰るしかないんだ)
と黒光りする拳銃をぎゅっと握り締めた。
日本軍勢力地域に降り立っていても、ゲリラになった国民党軍が潜んでるなど色々と厄介なことがある。
が、そう思ったユウコだが予想外のことに、ゲリラ一掃のために駆けつけた日本軍の装甲車部隊に救助され、二人は一安心のまま友軍の航空隊基地経由で、上海陸軍航空隊まで空輸で帰還。
すでに空は夕暮れで茜色に染まっており、指揮所の飛行隊長を含む隊員たちが、ユウコと奈緒子を乗せたタグラス輸送機に飛び出していき、機内からひょっこり出てきた彼女達は「ただいま帰還しました」と緊張をほぐして言った。
タグラスは赤い空へと離陸し消えていくのを背にして、二人たちは指揮所前に近づいて、
「すみません、心配かけてしまいました」
不安げな顔を作った飛行隊長に敬礼をしながらユウコ達に心配の声と、贈り物を手渡した。大鳥の説教はなく彼女たちは生きる実感を得た嬉しさに泣き始めた。
しばらく時間が過ぎ、山や丘は夜景に包まれて飛行場の指揮所、宿舎からカンテラ、電灯の光が白く漏れてる。机に向かって座るユウコは一枚の紙切れを眺めて、目を下から上へと流している。
母からの手紙である。
ユウコに限らず奈緒子にも届けられていた。
筆を走らせてユウコは母宛てに手紙を書いている。
拝啓、母上より。
私は元気です。
漢口に着いたとき以来今日までと、何度も飛行機に弾の跡を作ってしまいました。
自慢ではありませんが父上と姉さまに自慢して見せてあげたいです。
短い文でありますが心配なさらないでください・・・
上海から出す手紙をワクワクさせて書き続けるユウコと奈緒子は、次はどんな手紙がくるかが楽しみであり、指揮所のレコードからは”上海便り”雑音混じりにスピーカーを通じて流れていた。




