陸軍 鬼神の突撃隊
――サイパン島 6月25日 第八四独立戦闘隊
少し前の事をお話しよう。
15日朝方、鳴り轟く敵艦の砲声に慌しくなるサイパン守備隊達。ビーチや山岳部に潜む我々はお得意の水際作戦で撃退、多大な損害を与えようとこの日を待ち望んでおり、また海軍の支援も心待ちに待っていた。しかしその期待は大きく崩された・・。
午前6時、チャランカノラ近くの山岳陣地から見える敵艦の数はその数、50以上はあるだろうか。白い水平線を埋め尽くし、黒い箱舟の様なものだけが見えているだけで僅か5000人の守備隊で守れるのだろうか・・。酷い参謀でも最後の一兵という始末だが、最後になる前に全滅されるだろう。
私も生命を犠牲にここまでやってきた。本当は四式戦闘機でサイパン上空を死守すると、内地の上層部に何度も言ったがそんな耳を受け入れず、陸戦員として狩り出された。本来、輸送船で来るはずだったがそんな時間も無く空挺で補充されたのがこの私達である。
サイパンのビーチは実に明るく、見晴らしがいい。
我々のいる陣地は幸いにも山の陰になっており、目のつけようのない場所から撃ちまくれると言う好条件がある。しかし難点は脱出路が一本だけで阻まれたら全滅と言う悪い条件があった。
静かに流れる頬の雫が顎から落ち、手で握る私がマレー戦の時に拾ったトミーガンのグリップが生温く感じる。
すると今度こそ、アメリカ軍の総攻撃が始まった!
耳元で雷が落ちたかのような凄まじい、砲弾の爆発に岩や放棄された民家が次々に吹き飛ばされ、陸軍陣地の沿岸部から巨大な砲が火を吐いた!水を沸けて進んで、白い線を伸ばす敵の上陸用舟艇、上陸艦は柱に乗って大きく転覆。
しかしアメリカ軍の反撃が実に的確で次々に陣地が破壊されて、歩兵達が一斉に退いて行く。
20mmの九七式自動砲を撃ちまくる隊員の射撃は見事であった。ビーチ近辺の陣地は放棄され、誰もいなくなった中に紛れて上陸する戦車の履帯を切断し、敵の歩兵をたった1発の弾であっという間に挽肉にしたり。アリの様にあちらこちら走り回る敵兵は混乱に陥っている中、隊員と射撃交替。ずっしり重たい九二式重機関銃を手に、専用の倍率照準機に目を当てた。
ずいぶん慌しくなっているな。白い顔が見えれば黒い顔もいる。血まみれになって伏せているもの、負傷しているのも。全部こちらからは丸見えだ。
一応残っている隊はいるようで、中々上手な射撃で歩兵を薙ぎ倒している。
負けてられないぞと言う意気を持ち、発射レバーを親指で倒した。
跳ね上がりが小さく、しっかり狙ったところに弾丸が飛んでいき、ビーチの砂が弾き飛び、敵兵らたちの鮮やかな血が浜辺いっぱいに塗り替えられていく。
その間の反撃にようやく敵もこちらの存在に気づいたので、重たい武器は放棄しながら私達は密林の奥深くに逃げていった。
夜には「バンザーイ」の掛け声と共に白光する照明弾が我々の耳や胸に刻み込まれていく。
通信も途絶えどうしようもなく、只生き残るしかないのだ。
もし絶望的であれば敵を倒して死ぬしかないのだ。
未だに続く雷のように地響きする敵の野砲に、キツツキがそこらじゅうで鳴いているような銃声があちらこちら鳴っていて戦火は増すばかりであるここサイパンは、私が戦闘指揮とする八四独立戦闘隊がジャングルの中、15人と集結していて作戦を練っていた。
「敵はアスリート飛行場を完全に占領、集落、我々陣営陣地をすべて占領されました。残される道は海軍の支援を待つか・・、死ぬかです」
若い青年斥侯兵はそれ以上に詳しいことを言わずに突然と悲しいことを言い始めた。
「私は作戦を練るというのにお前は何を言っているんだ。何かないか!」
無理もない、物量に誇るアメリカ軍だ。我々は空挺でおよそ30人ほどの部下を連れたが戦闘中に戦死し今では15人程度しかおらず、別部隊の合流もむなしくなっていた。それに士気も低く感じとれる。
ぐ~っと隊のうち誰かがお腹を空かせていたので私はバッグから最後に残した乾パンを取り出した時、15人の目が一斉に輝き始めた。
「相当腹を空かせていたんだな。私もだ。皆で食べよう」
「はい!」
獣のように貪り食う隊員達に私は面白く笑いにこらえるので必死になる。何せ皆食べておらず私も我慢してたのだ。
軽い食事も済み缶は空っぽ。今夜の食事は無しとなり、私は何とも勿体無い事をしたなと少し後悔した。こんな思いはずっと飛行機に乗っていて、ずっと栄養たっぷりなご飯を毎日食べたからである。これに抜きが出るとやはり私は何とも納得が行かないので、
「今夜敵陣に潜り込んで食糧を奪取する。以下の作戦は取りやめだ。兵隊食わずして戦えん」と強制的に決めてしまった。
「え・・、ええ」
と兵たちは戸惑いながら首を小さく落とし頷いた。本当にこれでよかったのだろうか。
「志願するものは手を上げてくれ」
「ちょ、隊長敵陣に行けば照明弾、重機関銃が」メガネをかけた青年兵士は言う。しかし私は「あなた達はお腹空かせて走るの嫌でしょ?」と言うと「あ・・。はい・・。」言ってだんまり。かわいい奴らで素直なところは私は好きだ。
なにせ皆20いくか行かないくらいの年代なので食べたい気持ちは分かる。それを答えるのが私の役目であり、使命であった。
「僕も一緒に」志願し、手を上げたのは隊内で一番年齢のある男性で20歳以上の兵階級の男が三八を手にして立ち上がる。「他は」と問いしても誰も上げる気配ない、決定である。
「よしお前達は敵の偵察機や斥侯に見つからないように陣地を隠せ。何かあったら拳銃3発、空に撃ってくれ」
と言い残し、メガネの兵士に曳光弾の入った九四式拳銃を手渡し私を含む二人は行動を開始した。
虫と生き物の声が漆黒の闇に鳴きわたり不気味な世界を作り出し、自然の光は雲によって遮られ木と言う形は黒い物体と言う感じに色の判断ができなくなっていた。勿論目を開けても瞑っても分からないくらいだ。
食糧調達のためにアメリカ製のトミーガンを手にし連れの"富士野ツネト一等兵"と共にジャングルの中を姿勢低く動いていた。彼の持つ武器もアメリカ製のカービンM1だ。皆人気ある銃で三八より使い勝手がいいらしい。その為日本の九九や三八は将兵らにとって不必要な存在になっているが貴重な外国製なので手にすることは彼らにはないだろう。
やれやれ・・。こんなに暗いと事前に調べた敵陣営もどこにあるかわからない・・。
「しっ・・。隊長、敵の哨戒兵です」
草木の茂みから二人の人影があり、一人がタバコを吸っていて炎の光で顔が見える。葉巻の香りが鼻を突いてどうも受け付けない臭さである。それに、懐中電灯を持っている。見つかれば厄介だ。彼らの方向は丁度我々と同じ正面から来るようなので木陰に隠れ殺すことにし、私はタバコを吸ってる米兵を補足する。
米兵の大きな背中が見えたとき、口を真っ先に押さえ腰から抜いた銃剣をやつの心臓目掛けて刺し押す。まるでケーキに包丁を押すかのように簡単に入る。銃剣の根っこ奥深くまで差し込むと敵はぐったり、息さえしなくなった人間の形をした塊になる。
太陽のように光る懐中電灯を手に、敵が持つ携帯食糧をバッグに入れ込みその場離れるとどうも気配がする。私は走りながら周りを見渡すと間近で飛行機の爆音が通ったので空を見上げた。銀の胴体をした大型機が南のアスリート飛行場向かっていく。しかしその機影はジャングルの木陰と一緒に消えて言った。
26日の午前である。我々を狩り出すかのように戦闘機から投下されるナパーム弾に独立戦隊はジャングルの中を駆け巡り敵から逃げ、あちらこちらに木や草を風穴に撃ちまくる機銃掃射に行動を妨げられ果てに分隊と散らばり富士野と私だけとなってしまい近くの山岳部の洞窟に身を潜めた。
「クソ・・。海軍の支援はまだなのか!?」
睨むように空を見上げる。汚い地上なんかより綺麗な空で私は闘いたい。
日の丸印の海軍機が逆ガル翼のF4Uコルセアを鴨のように食い落とす。天は我らを見放しておらず、不思議と嬉しい気持ちになり落ち込んでいた士気は高鳴るようにあがっていった。
空襲が止んだ時、ジャングルの中に飛び入り四方八方に銃口を向け警戒しながら動いてた時だ。ブーツに何か異物がかかる感じがし、その場足元を見た時だ。薄っすら光るワイヤーが足首にかかっていた。仕掛け爆弾である。
富士野がワイヤーを切りその辺の草木を物色した時、日本軍の手榴弾が出てきた。
「友軍の陣営が近いのでしょうか・・?」
問いかける言葉を流すように私は視線を感じ取る。
「悪戯はやめろ。味方だぞ」
と言った時、突然草木に返送していた日本兵が数十人と立ちあがった。
「残党か。仲間が居る。こっちに来い」
偽装した日本兵は私たちを案内するかのようにその場から動き出し我々もその背中についていく形になった。
私は彼らの偽装にびっくりする。草木を上手くまとめてカモフラージュした天然の屋根に一目では分からないくらい溶け込んだ日本兵。ずいぶん上手いものであると褒めてやりたい。
「第八四独立戦闘隊隊長、忍ユウコ陸戦軍曹です」
「同じく私は富士野ツネト一等兵です」
残党をかき集めた隊長に挨拶を交わすと、早速話しに入る。どうやらチハ戦車が3両、ハ号戦車1両、チヘ戦車が2両と混成機甲部隊、歩兵100人程度がこの陣営に居る。私はテントの中で階級の高い人間に混じり、富士野は外で待たせ作戦会議に参加した。内容では海軍の爆撃と同時刻に合わせ夜間襲撃を行うものである。
薄暗いテント内。ランタンだけの灯火がサイパン島の地図の周りを照らしテーブルに座る参加者は真剣な顔つきで話し合いをしていた中で、「夜間襲撃は何回やったか?」と私は尋ねると「3回以上やった。夜は始めてやる」と少尉の階級の人間が答えた。
「私の隊に米軍の照明弾と擲弾筒を持った人間が居るのだが生憎ここには・・」
「米装備の人間なら我々が確保した。安心したまえ」と私はほっと一息。安心し肩の力がほぐれた。
「水と食糧はもう無い。水の確保に行った決死隊は全滅。こうなると残る道は万歳突撃でアスリート飛行場を奪還するしかない」
何とも無茶な話に誰もが拒否をしない。私もである。なぜなら皆があきらめかけたような顔をしていてこのまま包囲されて全滅するのではないかと言う恐怖に襲われていたからだ。




