激闘マリアナ沖海戦 2
第二、第三派攻撃隊が次々と着艦を終えると嬉喜ぶ搭乗員らが「空母を火の海にしてやったぞ!」と大声で叫び、夕日にくれる甲板は歓声で波音が消されるくらいに包まれた。
その喜びと裏腹に、出撃した制空隊と攻撃隊の3割を失った。すすり泣けば悔しがって艦橋を叩く搭乗員。
この時時間帯は17時となり日本海軍退避、再攻撃をすると私は思った。
――1944年6月20日 午前
鼎に起され私は渡された握り飯を食いながら飛行服に着替え、甲板に走っていくとすでに航空機がずらりと並べられていた。しかも時間帯的にまだ4時である。うっすら青い光が一面広がり星は未だに輝いている。
「これは?」と私は鼎に聞いてみると「敵の反応がレーダーに捉えられたようなので」と言われ私は理解納得。直掩機するため置いてあるのだ。おまけに、どの搭乗員も眠そうな顔せずしっかりした顔つき、私も目を覚まさせなければと、頬を引っ張った。
直掩の為20機近くの零戦が空母近辺の空を回り、敵を探り当てると見事にレーダーどおり敵群は視認で発見、高度3000m。すれ違うかのようにゆっくり動いていく黒ゴマに機体を傾けて旋回。戦友達にバンクし通達。
敵も同高度で気づいたらしく近くなるグラマンが目に入り、この場で空戦が展開され私は機体を滑らし、TBFアベンジャーの編隊に突撃し小隊の機銃の雨が彼らに降り注いだ。
――命中だ!
煙を引っ張り落下していく。後ろからグラマンの機銃が撃たれ私は、機体を回し一旦反転し回避した。しかし敵は上手く中々振り切れない。
ブレイクと言う連続的旋回に入った途端、胴体を真っ二つにし空中で爆砕。見事な一撃である。
光が消え真上を見てみると大きな胴体のF6Fが真上に居た。操縦桿を引っ張り、でぶっちょ腹の中心に機銃を発射。光る赤の曳光弾が自ら敵に突っ込んでいき、薄っすら引かれたガソリンに暗闇を点す火が吹かれていき、黒いマリアナの落下していった。
夜明けと共に、艦隊から対空砲火が撃たれていく。
あっ!と私は炎上する軽空母2隻を見られ急がなければならないと言い、空戦の中を離脱し敵の雷撃隊を探り当てた。丁度進路的に別方向だと言うカンは見事的中。横一列に飛ぶTBFがこちらの距離1km、高度2000mと低空で空母に向かっているところだ。おそらく先ほどの敵編隊は囮である。
次第に大きくなる雷撃隊は鷲に食われる虫のように次々と撃墜されていくが、敵も撃墜される身ではない。およそ10機の敵爆撃が急降下し、箱舟に見える空母には大きな水柱が立ち上がり、巡洋艦や駆逐艦、戦艦に煙と炎が立ちこめる。
TBFの銃座から火は噴かれ、集中的に私の小隊に弾丸が飛ばされるが何のこれしき。
やつの頑丈な装甲をぶち破る勢いで20mm機関砲を撃ちまくれば瞬く間にボロ雑巾の様な姿になり果て、仕舞いには海面に大きく衝突した。連れの戦闘機も実戦経験少ない人間ばかりだが積極的に攻撃をしているのを見て負けられない気持ちが沸いた。
機内に響く衝突が左翼からしたので敵から離れて確認をした。なんと燃料タンクからガソリンが漏れていて一歩間違えれば私は火達磨になると言うくらいに大きな弾痕を晒していた。
これはマズイと思い私は戦線から一旦引き、無線で「雷撃隊進入中、高度2000m」と各隊に連絡し「空戦から離脱。赤城小隊1番機」と言い伝え一旦高度を上げ、その場から逃げるかのように離れていく。
増槽つけたまま戦ってたけど燃料は少し。もったいないけど捨てよう。
一滴の燃料を無駄にしないという決心もむなしく私は投下レバーを引き倒し、抱いていた重荷を放棄し機速が増した零戦を操り、簡単な戦いでもいいので何かできることを上空で探り当てた。
午前早朝の敵第一波攻撃隊により軽空母に大きな損傷が残ってしまい、もう使えないのか自沈命令で海に沈んだ。
退艦したボートが沈む艦を取り囲む・・・。
敵も退いたのか知らないけど、艦隊上空を哨戒しながら母艦に戻ることに。
しかし残る零戦は上空を回り警戒している。この間でもできる限りの補給と修理は貴重な時間であった。
瑞鶴着艦後「残った零戦は無いか!」とキャノピーを開きながら大声で叫んだ。整備士の一人が「1機あります!零戦五二型!」と指を甲板下にさして言ってくれた。
「私の愛機は燃料タンクを撃たれた。早急修理頼して」
「はっ!」
こんな気持ちい朝を貶した敵に酷く腹が立った私は、顔にも起こる気持ちが漏れてしまい「隊長、大丈夫ですか」と青年搭乗員らから気遣いを貰ってしまい何とも申し訳ない気持ちになった。
「美貴中尉」
甲板に立つ真っ白い制服の艦長が声をかけ、
「はっ。艦長、申し訳ありません。被害を増してしまい」と私は約束したはずの事をできずに謝罪をするが、
「いいや。そんな事はいい。何せ空母の第一航空艦隊が囮になって我々に攻撃を与えるチャンスを授けた。そのおかげで敵空母2隻は大破炎上した。嘘のようで本当の話だ」
「では第一航空艦隊は・・」
「全滅した。この先戦えるかどうかもわからない。搭乗員は機体を捨てて駆逐艦に救助を待つ、もしくは残る燃料で我々の機動部隊に編入するか、自爆するか」
「だが犠牲あってこその好機なのだ。我々はこれを無駄にしてはならん。絶対に戦局を打開し、そして国防圏を死守せねばならないのだ」
零戦五二型の出撃準備完了と一緒に私は瑞鶴から飛びだったとき、時間はすでに正午を迎えており被害を受けた艦船の火は収まっていて、収容されていた発進できる機はすべて離艦し今日ばかり日差しの強い空に大きな群ができ始めた。
第一中隊の私は制空を勤め、第二中隊、第三中隊は艦上機の護衛をする。
高度6000mの時だった。『敵機動部隊発見。我、彩雲偵察機、敵機と交戦状態に入る。進路南東。』偵察機の無線に各機が進路を変えた時とある1機の零戦が前に飛び出し「敵発見高度1000m上」とバンクと私に向けて指をさした。
増槽を破棄して空戦に。
太陽を背にし突っ込んでくるグラマンとコルセア、およそ32機以上が我攻撃隊に突撃し、ぱっと彗星の2、3機に火が噴きたちまち炎の塊となって編隊から崩れていく。
私は何も感じずに敵を追撃し操縦桿を横へ倒し零戦を滑らした。
狙うはグラマンF6F、どんぐりのように大きく丸い胴体が上昇した時、定めた照準機からはみ出るくらいに自機は接近し、左手で添えていた機銃発射機を倒した。
ダダダ・・。
連続して撃たれるグラマンはハチの巣のように無数の穴ができ、これに参ったパイロットが風防を開きこちらを見ながら脱出しようとするがシメの20mm機関砲を数発撃ったときにはもう彼は肉の塊と、生々しい鮮やかな血を散らし原型無く座席の中でミンチになった。1機撃墜である。
後ろから伸びる赤のアイスキャンディー、空に描かれ私は機体を反転しグラマンの背後を狙い機銃を撃ち放った。何となく手応えは感じたが、F6Fはこちらに気づいて急降下し離脱してしまった、
40機以上が入り乱れる空中戦にもはや確認さえ出来ずにいた。敵と巴戦をやっている機や、相手に食われ形もなく落とされていくもの、とにかく凄まじい光景に私は目が回る。
私は5機の敵機に追われている翔鶴機所属の零戦3機を見たのですぐさま急行し援護に入る。
追われる機は旋回に入った。その瞬間、腹を見せたコルセアに銃撃を浴びせ機体が真っ二つに折れた。またもう1機、深追いをしすぎでこちらにはまったく気づいておらずキャノピーに20mm弾をぶち込み、すぐさま離脱。
だが翔鶴の所属機の2機が撃墜された。もう1機はオイル漏れでも必死に回避。
残りの3機が気づいた時は列機の攻撃に跡形もなく爆砕した。
背中からは腕のいいグラマンが私に銃撃を浴びせるも、随伴機の撃ち込む機銃には参ったのですぐさま追撃。しかしこのグラマン中々腕がいい。我々の動きを読むかのように弾丸を回避し挙句の果てには、素晴らしい曲がり具合で急旋回。 まるで零戦同士が闘ってるのだろうかとそんな事を思う。
我機本来の力を発揮しようとやつを追い込む。
「スペードマークのグラマンだ」
「私がやる。手を出すな」
列機の連絡にますます戦意が沸いた。後ろからこれとばかりに引かれる7.7mm弾が機銃の音と共に飛び出すもやつは斜め上昇に機体を滑らし、白い線を伸ばした硝煙は薄っすらと消えていくのを見て操縦桿を引っ張り倒した。
グラマンは機体を背面、逆ロールアップでグイグイ上ると今度は失速しこちら目掛けて大きく落ちていく!しめた!腹を見せっぱなし、これでは殺せと言っているもんだ!勝負ありだ。と確信し横っ腹見せたF6Fに20mm弾を撃ちこんだ。
が、20mm弾は当たらなかった。地獄猫が多少の失速運動を利用して弾丸から回避したのだ。
前に飛び出したとき、地獄猫の機種は真上を向いている。機銃も。焦りと恐怖にとっさの判断に私は思わず操縦桿を上斜めに切り替えした。
視界、背景、敵機が何十回も回転するなかで周りが真っ赤に目が痛む。風防のガラスを撃ち抜き、熱風が一瞬通りすぎたとき熱い痛みが手と顔から感じ取った。
見開きの肉眼でスペードマークのグラマンを補足。素早く機首を変えて海面広がる中に溶け込む青いグラマンは、零戦より遥かに上回る急降下速度で徐々に小さくなっていくのを私は追尾し、やつが機首を上げ左に大きな旋回を作った時、
『隊長!サッチウィーブです!』
心臓がジャンプしたかのように私はびっくりする。大きな声で伝えられた無線に背後を確認。1機、2機、グラマンが待ち構えてたかのように急激に接近してくる。
素早く左、敵の銃撃を上手く避けながら一旦離脱することした。味方の連絡がなければ私は死んでいたな!ほっと一息すると地獄猫とその2機はV字の編隊を作り雲の奥へと消えていった。
握る操縦桿の右腕の手袋に小さなガラスの破片が突き刺さっていて、そこから血がにじみ出ている。指で抜くと焼けるように痛い。我慢し取り除くとその場座席に棄てて各機の状況を確かめた。2番機、3番機は何もないようなのでこのまま飛行を続行する。
夢中になる空戦は未だに続いており我々も渦の中に飛び込んだ。どれもこれもハエのように動き回っていて目が回る。なので先に見つけたグラマン1機、私はそいつを補足し機銃を撃ち切るばかりというくらいに発射すると不思議と落ちる気配がない。
グラマンは防弾に優れていると言うことを忘れていたので、ぶつかると言うくらいにじわじわと攻め込んだとき丁度白い飛行帽を被った敵のパイロットの頭部が見えた。ここだ!と言うところに機関砲と機銃を一斉射!弾丸は十字の光学照準機の中に吸い込まれていき、敵機は錐揉みのように落ちていく。
先ほど遭遇した敵と味方の数が減っていたので各自空戦をやめさせ自機に集まるように伝えた。
丁度敵も引き始めた。駆け寄る友軍機を見てみると10数機減っていた。
引き続き飛行できるものは艦上機の後を追う役目をし、周囲を警戒。しかし我々が恐れていたのは敵ではなく疲労であった。




