さらばラバウル
そして、我々の友と別れる時・・。
ラバウル湾の静かな波に浮かれる海軍の大型水上機、二式大艇が我々を待っていて後から来る戦友達の土産に私は涙が滲む。
「美貴隊長・・!自分も行けなくて寂しい限りです!」
涙いっぱいに、青い瞳から雫を沢山流す鼎に私は「泣くな、カワイイ顔が台無しじゃないか」と言いながら笑顔に微笑む。
そして鼎は私の顔を見て「はい!」と元気な声で笑顔になった。
「中尉、お時間です」
二式大艇のパイロットが傍で言うと私は「すぐ向かいます」と伝えてハンカチや帽子が振られる港に手を向けて私は揺らすように動かした。
ああ・・いかなければ。
「隊長、隊長!お元気で!」
「ユウコ隊長!ユウコ隊長!」
「中隊長!中隊長!行かないでください!」
陸軍の青年搭乗員は酷く泣き叫んでいて「どうしたか」とユウコに問いだすと「私のファン達」と言いながら心へ届かぬ声を背に先に乗ってしまった。
私物のすべては機内に入れたが肝心の零戦は部品分解で迅速に送られた。
内地の到着と同時につく予定だがそんな事できるのだろうか・・?
「さらば・・!さらばラバウル航空隊!ありがとう、ラバウル航空隊!」
別れる寂しさを胸の奥に押さえ、にじみ出る涙は必死にこらえる。
機内に乗り込み座席に座ったときの窓越し、皆が白、カーキ色の帽子を振ったときだ。
「「さらば、ラバウルよ、また来るまでは。しばし別れの涙が滲む。恋し懐かしい、あの島見れば・・・」」
彼らの歌うラバウル小唄に私の視界は熱い涙で溢れ見えなくなっていて、長くなった友との別れは非常に辛いものだと私は実感した。
「「椰子の葉陰に十字星・・」」
ああ・・、エンジンの爆音で聞き取れなくなりゆっくり波に乗りながら発進する水上機。
戦友達の顔が徐々に小さくなっていき「「万歳、万歳、万歳・・」」と遠く、心の中で聞こえてくる。
私は一人、ラバウル小唄の歌詞の続きを小さく歌っていて、彼らの顔を脳裏に刻み込んでいた。
さらばラバウルよ また来るまでは しばし別れの涙がにじむ
負けるな負けるな グラマン落とし 今度は六二で返り討ち
ラバウル航空隊の姉妹噴火山。黒茶色の火口がよく見えて森林の中に大きく見える白濁った色の温泉が目に見えた。
敵の来ない日は身体流したりしたっけ・・。幸いにここで士気を何とか保てたりしてたけし、奥深くの密林に行けば果物もたくさん取れたし木の実だって食えた。補給が届かないときでも私たちが生きる生命線は存在していたのだ。湾内で魚釣ったりとかね・・。
そんなことを思い出しながら白い線を引きながら海の中を動く輸送船が数隻が太平洋上に。
蒸し暑いだろうなあとそんな事を思い、我々は静かなフライトを楽しんでいた。
しばらく飛んでいて空も見飽きたところ巻き寿司を食いながら機内周辺を見渡し、ラムネ瓶の蓋を開け、喉を潤す。
大和艦内で作ったラムネらしいが喉をやさしく刺激する美味さ。でも、内地の新鮮な水で作ったほうが格別にウマイだろう。
楽しみでしょうがないばかりだ。内地の食べ物、施設、娯楽色々・・。
二式大艇は脅威の8223kmと言う距離を誇っていて、トラック諸島経由でそのままぶっ通しで横須賀まで行くと言うのだ。
しかし問題が肝心の護衛機が無いということ。最低限零戦5機は欲しいところだ・・。
飛ぶ飛ぶ、内地までぶっ通しで行くのも中々疲れるものだな・・。
「おい、トラック諸島には着水しないのか。真下にあるじゃないか」
とユウコが海軍の下士官に言う、確かに小さな緑の島々が散らばって、伸びているものもあるトラック諸島の真上に。
しかし着水する様子も無く、雲の中に入ったのか島が白く包まれる。
「敵の空襲を受け修復が出来ておらず着水は困難です。よってラバウルから横須賀までの一本線になります」
「ですが零戦は燃料がある限り我々の護衛をしますのでご安心を」
「そうか・・」
素っ気無く答えたユウコだがどこかと心配そうな顔をしている。
居眠りをしていた海軍将官が勲章をぶら下がげながら目を開き私と、会う。
「ん、君は260海軍航空の赤城君かね」
「え?はい。そうです、あなたは・・」
小太りの中年おじさんの様な白い海軍の夏服に身を纏った将官は260空の関係者らしい。
「どうだね、零戦は」
「ええ、とても扱いやすいです。心配な部分も多いですけど」
「ははは。そうか。だが、零戦の後者は・・見てみなさい後ろを」
私は新たな後者と聞く戦闘機を見て目を大きく開いた。
ずんぐりとグラマンのようにダークグリーンの大きな胴体、黒光りする20mm機関砲が主翼から伸びていて、零戦とは違ったスピーディーなエンジン音。
「あれは紫電改だ・・。元は水上戦闘機から防衛用戦闘機にしたものだ。短い時間ぐらいはこいつらが護ってくれる」
確かに最新型の機体だ。でも私は何故か拒否するかのように顔を背け、
「・・・私は好きじゃないですね」
「んん・・?2000馬力なんだがなあ・・」
「確かに性能は零戦より一段と良い筈です。けど何となく・・」
「ははは!面白い子だなあ。まるで古参と同じ事を言うな。でも紫電改は未熟な君と同じ歳の子でもベテラン並の運動力を発揮し、グラマンにも対向できる唯一の海軍機なのだよ・・。見てごらん、彼女の顔を」
紫電改のパイロットは同じ年代の歳で元気で活き活きとした子供のように手を振る。そして胴体のキルマークはアメリカ機だけでも7機以上を撃墜していた。
腕に見える階級章は何も無い・・。でもそれでも彼女の声に答えようと私は微笑を作り手を振り返した。
「まあ、赤城中尉の帰国命令には訳があってだな・・、っとその前に従兵の紹介だ。鳥居忠軍曹」
先ほどユウコと話をしていた20歳であろう若く厳つい顔をした下士官が帽子を外し、小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします」と言いながら席からたち、私の隣に座り込んだ。
「従兵は護衛、運転役や連絡、身近なさまざまなものお手伝いをする使い人だ。尉官の君が選ばれた理由は分かるかな?」
「私が連合国軍の中で知られているエースパイロットであるから・・?」
エースパイロットは世界中どこにも居る、よく分からない事を言ったときだが、
「そうだ。だがエースパイロットは世界中どこにもいる。不思議とは思わないかい?でも答えは6月になって現れる」
確かに不思議だ・・。
この会話で終わり、静まったとき。エンジンの爆音だけが機内に響き渡って次に出る言葉は誰もが発することはなかった。




