真実
敵機と遭遇したものの無事、ユウコと一緒に横須賀に到着。およそ3年ぶりの日本の地である。
横須賀の海軍基地から出て市街地に入るとまるで、最前線の戦いとは大嘘に街は平和な暮らしをしているような感じを受けて、人々達はいつもの日常を過ごしていた。
賑やかな軍市街では、若い陸軍兵士はもちろん、純白な制服に身を纏った水兵達が食べ物を食べ、女性と喋ったり、唯一楽しいひと時を過ごしている。これを見たユウコは「何か食べよう、私が払う」と言い失われた時間をここで取り戻そうとする。
団子を食べ、内地にある美味いカツ丼を腹いっぱい食べ特に女性に人気な甘味を食うために、パフェと言うものを内装がハイカラなカフェ店内で食べ過ごす。
「ふー。こういう店も良いな。サエカと奈緒子、兵学校以来だ」
小さなテーブルを囲み、果物色とりどりのパフェを夢中になりながら食べる私はユウコの声など耳から耳へ抜けていく。
美味しい・・!ウマイ!こんな贅沢なもの、内地で待機する予備役に食べさせるのはもったいない!
新鮮、宝石のように輝くリンゴやパイナップル。我々海軍達が命かけて輸送船でここまで運んでくる所を想像すると感謝の気持ちでいっぱいだ。
鼎と一緒に食べたかったな・・。
「聞いてるか?」
「あっ。うん」
スプーンをグラスにいれ、最後のアイスクリームをすくった時、
「ん、テレビ。お前が写ってる」
カウンターに置かれた黒い箱の様なテレビは、鮮明なモノクロ画面に数機の戦闘機と2機の爆撃機を写し、後から付け加えた不自然な銃声とエンジンの音が店内に響き渡り客達は釘付けに。
とカメラに向かって突っ込む零戦が大空を舞う鷲のように綺麗な機動をしている!
260-8の薄汚い白い文字、灰色の胴体には白い線が伸びている・・!
零戦五二丙型だ。
日の丸輝く主翼、急旋回し画面奥深く消えていく。
これは長官機を護衛した時の・・!
「わー!海鷲の零戦!」
「憧れるなあ!あ、見てみて、陸軍の荒鷲!忍ユウコの四式戦!」
「ふふん、照れてしまうな。すぐ近くに荒鷲がいるのに」
小さく、テレビに集まる女学生達に聞こえないくらいの声で呟きながら、余裕ある笑みでコーヒーカップに口をつけた。
食後、外に待っていたユウコの徒兵が退屈そうにタバコに火をつける途端ユウコが「私の傍では禁煙だぞ?」と言いながら驚きと焦りの混じった動きで一本の棒を胸にしまった。
「失礼しました!」と振り向き敬礼。
そういえば2月、天気は晴れているが空を飛んでいる高度と同じくらい、身体が冷え手が痛い。
しかしこの時期にアイスとパフェを食う私も戦いで狂ったかな?
そんな冗談交じりの事を心の中でいい、ニヤ笑いしたときだ。
徒兵の鳥居忠が近づきポケットから白いハンカチを手に、「赤城中尉、口にクリームが」と言いながらやさしく私の口を撫で拭いた。
戦っても私はまだまだ子供でかわいい娘のままだなあ。成長はこれからかもしれない。
「さて親のほうへ行くかな。美貴は横須賀生まれだからすぐだな」
「いえ、私、親は居ませんよ」
実は私は孤児院に預けられ親の事は詳しくは知らない。なので孤児院の院長が私の義理の父でもあるかもしれない。
この場でユウコと別れると私は徒兵と一緒に黒い自動車乗り込んだ。
乗り心地の悪い、左右に揺れてなんとも気持ちが悪いが少し前まではこんなに酷くはなかった。
そして市街地の外れにある桜木に囲まれた白壁が見えてくると正門には年老いた白髪の老人が箒を持って、落ち葉をはいていた。
「止めて」と言い私は自動車を止めさせ、その場黒い革靴を地に踏み、静かに近寄ろうとした。
「おや、あんたぁ・・」
先に気づかれた。
「ご無沙汰しております・・。院長、私は赤城美貴・・です」
ずいぶん老けている。
入院した頃と比べて印象ある髭は手に持っている箒のように伸びていて、シワは濃くなり、姿勢はしっかりしているのも変わらないな。
「わあ!海軍さんだ!」小さな丸坊主の少年達が私の周りを取り囲むようにやってきて私は不思議と嬉しい気持ちに。
「元気だったか!お前も立派に育ったなあ」
「ええ、私ももう19歳近いです」
その場で軽いお話を終え孤児院を後にし私は車両に乗り込み、彼らたちの見送りの後知られていない場所へと走り続ける。
徒兵は無口に前をじっと見て話をするのにし辛い。窓際から街の郊外に茶色いトラックが長い列を組んで入っていき、低空で飛ぶ銀ジュラルミンの水上機が大空へと飛んでいく。
栄える街からの郊外に大きなお屋敷が目に入ると自動車はゆっくり止まり、私は偉い人と面談をするのかと思うと胸の心拍数が上がり少し緊張が起こる。
自動車の扉を開けられ、和のお屋敷の正門が私を待っていたかのように開かれていた。
「ではこちらです」
徒兵の背中について行きながら正門をくぐり、石畳の踏みながら私は落ち着かない気持ちで周りを見渡し、頭を下げる着物の姿の女性使用人、そして陸軍人の人間が微動だにせず自分を過ぎるのを待っていた。
玄関に入ると目の前に髪を束ね「美貴さん、こちらになります」落ち着いた声、透明な肌になんて美しい撫子なのだろう、見取られながら私は派手ではない青黒い着物の背後に釣られるように、中庭の廊下を渡り小さな数畳程緑の畳部屋に入れられ座布団の上で正座になり座った。
そして相対的になるように案内した美人さんが綺麗な姿勢で座ると、
「私は赤城家の使用人として雇われました、花坂知美と申します」
「えっあ、はあ・・」
赤城家・・?どうして同姓の人間の家に私が呼ばれたか疑問がわく。
「あのちょっとよく分からないんですけど、同姓の家に私がなぜ」
「?いいえここは美貴さんが生まれた家です」
「あっ・・」
私は脳の裏から過去の記憶が蘇る。父の顔は分からなかったがここに居た記憶はうろ覚えだが残っていた。
「貴方が3歳のとき・・、孤児院に入れられたのは覚えてますか?私はその後に雇われた身なので・・」
「ええ、入れられたのは覚えてます。しかしなぜ私を戻さず?」
「私は田舎から出た身で当時は美貴さんが居た事は言われずに知らないままこんな事に・・申し訳ないです」
「いや!貴方が悪い訳じゃないですよ!むしろ私は好きな航空搭乗員にもなれた訳ですし・・、過去の悔いはまったく無いです」
ただ・・列機を失った隊員は無くは無い・・。
列機を失った人間は戦法が悪いと私は男性のトップエースパイロットに言われた。
「妹さんは・・」
「妹?」
妹?私一人っ子だけでは無いのか。
「え?美貴さんの妹に美都さんがいらっしゃるはずでしたけど・・」
「あっ・・。妹は英国人の家族に引き渡されました・・」
顔も覚えてない・・!ただ「お姉ちゃん」と元気な声で輸送船から張ってたのは鮮明と覚えている。
それに黒いシルクハットとスーツに身を纏った英国人の男性と、その女性。記憶で再現するが顔だけ黒く暈され思い出せない。
しかしなんともぐちゃぐちゃな記憶に私はしばしば混乱寸前だ。
「お話は少ないばかり、これだけです・・。6月まではしばらく内地の滞在でしたよね?このお屋敷でお休みになられてください」
「ありがとうございます。内地に何か変化は?」
しばらく内地を離れていたので新聞だけでは物足りなかった。なので知美さんに聞いてみると、
「そういえば九州で空襲がありましたね。アメリカの大きな爆撃機だとかで」
空襲だって!?
「具体的に詳しく!」
「え?ええ・・中国から飛んできたみたいですけど、日本の飛行機じゃ上がれないくらいとても高く飛ぶらしいです。これだけですねえ」
「そうですか・・」
中国の国民軍とアメリカは手を組んでいる、だから中国から日本の攻撃は容易いものだ。
しかし防空権を抜けられるとくれば大本営にも大きな泥が塗られたかもしれない。
何でも高度5000から1万を飛ぶ代物で、海軍の零戦じゃ到底届かない高度だ。なので海軍の局地戦闘機が運動を犠牲にしたエンジンパワーを持つもので迎撃に当たってる。
だが陸軍もこれに負けていなかった。海軍が零戦に依存してる中で、さまざまなバリエーションを持つ戦闘機が豊富だからだ。例えば私がラバウルで乗った三式戦闘機、ユウコの四式戦闘機、五式戦闘機や速度に特化した二式単座、37mmの重砲でB-29を一撃する二式複座戦闘機等、とにかくバランスが取れて海軍以上に種類が多く、また搭乗員の技術も我々が舌を巻かれるほど熟しているから・・。




