後編
◆
それから数週間。
また彼がやって来たので。
「リシリーナ! まだやっているのか!」
「お店は続けます」
「いつになったら言うことを聞く? おかしいだろう! こんなにもしつこく抵抗するなど! 君は間違っている!」
「閉めません」
「ふざけるな!」
「絶対に、閉めません。このお店は私の大切なものですから。そこだけは譲れません」
はっきり言ってやった。
すると。
「なら、もういい! 婚約は破棄だ!」
そんなことを言い放ってきた。
「君がこんなにも愚かな女性だとは思わなかった。……だがもういい。これ以上は付き合えない」
「……そうですね」
「君は勝手にやっていろ! もう好きなようにしろ! 勝手に店をして、変な女だと思われて、貰い手もなく一生寂しく独りで暮らしていればそれでいいんだ!」
感情的になっていたディディボスはそんな毒を吐き捨てて。
「縁切りだ! じゃあな、永遠にさよならだ!」
いつも以上に乱暴な足取りで去っていった。
――こうして私と彼の婚約は破棄となったのだった。
「あら、そうだったのねぇ」
「そうなんですよ。婚約破棄ってことになってしまって」
「でも……店を護ってくれて嬉しいわぁ。ここは皆の大切な場所だもの。もちろん婚約者という存在も大切ではあるでしょうけれど……でも、それよりこのお店を選んでくれて、護ってくれたことが、本当に嬉しいの」
「私としても、お店の方が大切でしたので」
「うふふ。じゃあ良かった。無理して向こうを切ったわけじゃないのねぇ」
「はい! それは絶対、自信を持って言えます!」
護りたいものを護って進む。
それが人生だろう。
同時に存在できない二つのものがあるのなら、どちらかを切り捨てるしかない――それは仕方のないことだ。
◆
リシリーナとの婚約を破棄した後、ディディボスは、アリアという二つほど年下の女性と婚約したのだが。
「ちょっとディディボス! 言ってたドレス、まだ注文できてないの? おっそい! 遅すぎでしょ!」
「ご、ごめん」
「はあ? ごめん? ごめん、なんて、舐めすぎだって!! 申し訳ございません、でしょ!!」
「あ……う、も、申し訳……」
「いいから早く! ドレスの注文してきて! 今すぐ!」
「でも今は……」
「今すぐ注文して! お金は全部あんたもちね。もたもたしてないで! 言われたらすぐ行動して!」
わがまま娘を絵に描いたようなアリアに好き放題言われる日々だ。
「でも、今朝頼まれた宝石の注文も今からで」
「おっそぉぉぉぉぉ!? まだそれ終わってないの? はあ? はああああ!? 遅すぎるでしょおおおお!!」
「ごめん」
「宝石! ドレス! 両方、一分以内に終わらせて!! はい、スタート!!」
「さすがに無理だそれは……」
「うるさい!! 気合いが足りないのよ気合いが。だからいちいち遅いの。やろうとしないからできないんでしょ? 出来損ないなんでしょ? ねえ? いいからさっさと始めなさいよ!!」
今やディディボスに人権はない。
彼はこれから先、ずっと、こんな風に生きていく。
妻から愛されず。
妻にこき使われ。
常に急かされ、多数の暴言を吐かれ、地獄のような空間で暮らすのだ。
「あの、申し訳ないがアリア、君とはもう……」
「は? 何? 今、なんて言ったの?」
「いや、だから……婚約は、破棄、と……」
「はあああ? 無理! 認めない! そんなことしたら、社会的に終わらせるからね? それが嫌なら大人しく従っていなさいよ!」
「あ……は、はい、すみませんでした……」
「くだらないこと言ったから罰として土下座百回ね! 昨日までの分に追加、ってこと。返事は!?」
「はい、申し訳ございませんでした……」
◆
あの婚約破棄から数年。
私は今も手作り小物を販売する店を営んでいる。
しかし状況は大きく変わった。
というのも、とある雑誌に取り上げられたことをきっかけとして有名になり、今では貴い人たちにも私の作った小物が愛されるほどになっているのだ。
誰もが私を称賛する。
――手作り小物界を変えた、と。
そして、先日ついに、結婚も決まった。
結婚相手は資産家の青年だ。
手作り小物に関心を持ってくれる人だったので彼と共に生きると決めた。
◆終わり◆




