前編
「これいいわねぇ」
「新作です!」
「色遣いが好きよ。もう買えるのかしら?」
「はい」
「買えそうなのなら買いたいのだけれど……」
「本当ですか!?」
「じゃあ購入させてねぇ」
「ありがとうございます!」
私、リシリーナは、手作り小物を販売する店を営んでいる。
両親が営んでいた店のすみっこで自作の小物を売るところから始まって、今では自作商品にファンもつき、商売はそれなりに繁盛している。
自分が作りたいものの価値を認めてくれる人たちと接することができる毎日はとても楽しい。忙しい日も少なくないけれど、それでも店員として立つことを嫌だと思ったことはない。純粋に、充実感の方が大きいからだ。
「ご購入ありがとうございました!」
「いえいえ。お礼を言われるほどじゃないわぁ。魅了されたものがあったから、っていうだけだもの」
「いつも感謝しています!」
「うふふ、可愛いわねぇ。じゃ、これで。また来るわねぇ」
そんな私にも婚約者がいるのだが、彼は少々厄介な人で、悩みの種である。
「おい! リシリーナ! 君はまだこんなことやっているのか!」
乱暴な足取りで店内に入ってきた男性が一人――そう、外の誰でもない、彼こそが我が人生最大の悩みの種――婚約者であるディディボスだ。
「ディディボスさん……」
「いい加減やめろと言っただろう!」
「その話はお断りしましたよね、店を閉めることはできないと」
「認めない!」
ディディボスはいつも私の仕事を遊びだと見下してくる。そして「店なんて今すぐ閉めろ」といったようなことを言ってくる。また、酷い時には「手作り小物なんてゴミでしかない」とまで言ってくるほどで、何をどう説明してもちっとも理解しようとしてくれないのだ。
「俺と結婚するのなら、店の営業を続けることは認めない!」
「お店のことがそんなに嫌なのなら、なぜ、婚約だけはしたのですか。婚約する前からお店のことはお伝えしていたはずです」
「何だと!? 口ごたえをするな!!」
「口ごたえではありません」
「いいや口ごたえだ! 君はなぜそんなに素直でない? 女性なら素直であるべきだろう、俺の婚約者ならなおさら。それなのに! いちいち! そうやって! くだらないことを言って! 反抗期のような態度を取って! 許されないことだぞ!」
彼はいつもこんな調子。
私が意見を述べることを絶対に許さない。
「店は閉めろ、いいな」
「できません」
「うるさい!! 閉めろと言ったら閉めろ、だ。反抗することは許さない。俺の婚約者でいたいのならば、大人しく従え。絶対に! 従わないことは許さない! いいや、許されない!!」
勢いよく吐き捨てるとディディボスはドスドスと足音を鳴らしながら去っていった。
その背中を眺めながら溜め息をこぼす。
いつまでこんな言い合いを続けなくてはならないのだろう、と、未来について想像して憂鬱になる。
「こんにちわー」
「いらっしゃいませ!」
「一週間ぶりで、新商品拝見するのが楽しみですー」
「いつもありがとうございます」
「ではしばらく見せてもらいますねー。まったりとー。買いたいものが見つかったら言いますねー」
それでも店の仕事は続いていく。
「はろぅーん」
「お久しぶりです!」
「ああもういやもう久々ですわ! 母がちょっと体調悪くって。しばらくどこも行けてなかったんですねん。色々忙しくて、バタバタしてて」
「そうだったのですね……」
「でももう治りましてん! 母はすっかり元気! なんで、ようやく来れたんですよ~。久々で楽しみすぎ! じっくり見せてもらいますわ」
今日も、明日も、明後日も。
この仕事を辞める気なんて、一切ない。




