第2話「光速の彼方」
「宇宙の枠組みそのものと向き合う……具体的には、何から始めればいいでしょうか」
レンの問いに、宇宙管理AIは、静かに応じた。
『まずは、これまで貴殿が到達した“光速の強化”を、さらに突き詰める必要がある』
「光速を、さらに……」
『貴殿は既に、局所的に光速そのものを変化させることに成功している。だが、それは、あくまで“一時的”かつ“局所的”な変化に過ぎない』
「つまり、恒久的に、より広い範囲で、光速の在り方を変える、ということですか」
『左様。それこそが、この宇宙の枠組みそのものへの、本格的な干渉の第一歩となるだろう』
レンは、深く息を吸い込んだ。
「分かりました。研究を進めます」
こうして、レンは、これまで以上に困難な、光速そのものへの理解を深める研究に、没頭していくこととなった。
「ヴェルミナさん、この理論、確認してもらえますか」
「はい……これは、かなり大胆な発想ですね」
ヴェルミナが、レンの提示した理論式を、丁寧に検証していく。
「光速を、単なる“上限”としてではなく、“関係性の指標”として捉え直す、ということですね」
「はい。この宇宙において、光速が持つ意味――それは、単なる速度の限界じゃなく、因果関係そのものを規定する、根源的な約束事なんじゃないかと」
ドルシスも、興味深そうに、レンの研究に耳を傾けていた。
「面白い視点だ。もし、その理論が正しければ――光速の強化は、単なる速度の向上ではなく、因果関係そのものへの介入を意味することになる」
「はい。だからこそ、慎重に進める必要があると思っています」
数ヶ月にわたる研究の末、レンは、ついに、これまでにない規模の実証実験を行う準備を整えた。
「実証実験、開始します」
銀河連邦の研究施設、これまでで最大規模の実験装置を前に、レンは、静かに集中を高めていった。
「対象は、この星系全体の光速定数。局所的な変化ではなく、恒久的な強化を目指します」
レンの言葉に、集まった研究者たちの間に、これまでにない緊張が走った。
「強化」
レンの掌から溢れ出した光が、これまでとは比較にならない規模で、周囲の空間全体を包み込んでいく。
「星系全体の光速定数に、変化が……! これは、恒久的な変化のようです!」
計測班の興奮した報告に、研究施設全体が、大きくどよめいた。
「や、やった……! 本当に、成功したんだ……!」
レンは、深い達成感と共に、額の汗を拭った。
『……見事だ』
宇宙管理AIの声に、これまでにない、深い感慨が込められていた。
『貴殿は、確かに、この宇宙の枠組みそのものに、一歩、足を踏み入れた』
こうして、レンの物語は、宇宙そのものの構造に関わる、最終段階の挑戦へと、着実に歩みを進めていくこととなった。
(第3話へ続く)




